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強襲
弾幕バトル。一言で言うなら、決闘のようなもの。話し合いで解決出来ない事態になった時。主導権を決めるために行う戦い。勝った方は自分の意志を相手に呑ませることができる。生殺与奪の権利は発生しない。現在の幻想郷は安定していて、平和である。しかし妖怪や悪魔は力を見せつけなければ存在意義が無い。妖怪達が存分に暴れられるように、いわゆるストレスの発散のスポーツとしての側面がある。しかしバトルで命を落としてしまっても事故として処理されるので、健全なスポーツとは言い難い。それでもこの幻想郷においては、画期的なものといえる。博麗の巫女が編み出したシステムらしい。
「幻想郷の住人なら、こつさえ掴めば誰でも弾丸はだせるわ」
俺は試しに手のひらを向かい合わせた状態で、魔力を打ち出すイメージを右手に乗せてみた。
ばちん。
「痛い!?」
楔形で鈍色の弾が、左手を弾く。込めた魔力が小さかったためか、手のひらを傷つけるだけで済んだが、思ったより簡単に出た。当たった弾は即座に消滅。
「馬鹿なの?」
あきれた目で見られた。その物言いはあんまりじゃないですか?パチュリー様?
「それが弾丸」
眼鏡を弄くりながら言う。
「それを大量に、かつ変則的に打ち出して弾幕を張り、ダメージを与えるの」
まるでシューティングゲームだな。でもそれだと・・・・・・。
「そう」
こちらの考えを引き取って言葉を繋げる。
「そうするには体力、精神力を消費するし、連続した集中が必要になるから、戦闘中にそんなことをするのは難しいわ、そこで」
パチュリー様は2枚のカードを取り出す。
日符「ロイヤルフレア」
土水符「ノエキアンデリュージュ」
ロイヤルフレアには光り輝く太陽が描かれ、ノエキアンデリュージュには飛翔する無数の泡が描かれている。
「術符、もしくはスペルカードと呼ばれるものよ、力と弾幕を封じた物で、いつでも発動ができるわ。もっとも、強いスペルはそれなりに時間がかかってしまう」
二枚のカードをしまい、今度は何も描かれていない、白紙のカードを取り出す。
「このカードに、弾幕のイメージと、宗司の場合は魔力か、魔力をこめるとスペルカードの出来上がり」
白紙のカードを俺に手渡す。作れ、ということだろうか。使う機会は少なそうだけど。
「作っておきなさい。それはあなたにとって剣にも盾にもなるものよ」
そう、だな、溜は有りでも、即時展開できる大量の弾丸は牽制にしても十分すぎる。
「わかりました、魔力を込めるだけで良いんですね?」
「そうよ、でもイメージも大事。私は木火土水に日月の魔法を使うから、それに準じたものになっているの」
「五行に陰陽まで使えるんですか?」
「それ以外は苦手よ、特に錬金術は肌に合わない」
十分だと思う。五行だけでも魔術の種類は100を超えるのだから。改めて、この方が魔法使いだと言うことを認識する。
「わかりました、やってみます」
「出来るまでは時間がかかるわ、で、何か面白い本は無い?」
パチュリー様の目の色が変わっている。ブックモード(俺が名付けた)の時の目だ。今までも幾度となく頼まれたが、こんな曖昧な頼み方をしてきたのは初めてだ。今までは何々が欲しい、と言っていたのだけど。
「面白い本、と言われても」
「そうね、あなたがもといた世界の本が良いわ。ここにもたくさんあるけど、こんなものじゃないでしょう」
成る程。それだと、
「漫画でも良いですか?」
「本なら何でも読むわ」
早くよこせ。と目がせかす。気持ちは凄くわかる。新しい本を読むときほど高揚することは無い。大げさだが。えっと、こんなのとかどうだろう。
燕尾服の懐に手を突っ込み、『引き出す』。
吸血鬼の少女とバロルの魔眼をもってしまった少年の物語だ。恋愛とバトルのバランスが絶妙で、なにより吸血鬼の少女が可愛いこと。ヲタク臭がプンプンするが、かなり面白い。ハズ。
パチュリー様は表紙を見て微妙な顔をしたが、素直にページを捲り始める。
さて、俺はスペルカードを作らないと。魔力を込めるのは簡単だが、イメージ、ねえ。広範囲に広がる物、直線的だが弾の密度が高い物、対象を追尾するもの。シューティングゲームなら、この辺が妥当なところか。レーザーみたいのも面白いかもしれない。組み合わせればかなり避けづらくなるはず。あー、でもトリッキーなのも良いな。ぐねぐねしながら飛んで行く弾なんか嫌らしくて俺好み。取り敢えず、密集タイプと拡散タイプは作っておくかな。
カードに魔力を流し込む。おお、すげえ。どんだけ容量あるんだ、このカード。次いでイメージ。渦巻く紙吹雪。お、面白いな。意識から腕を通ってカードに流れ込んで行く感覚。
「あの、宗司? いいかしら?」
遠慮がちなパチュリー様の声。
「はい」
集中を切らさない様に応える。読書に精通した者はある程度集中を切らさずに会話が出来る。パチュリー様はほとんど同時進行が可能だが、俺はそこまで出来ない。
つうかこんな遠慮がちなパチュリー様の声は初めて聞いたぞ?
「えっと・・・・・・読み終わったのだけれど・・・・・・」
「早っ!」
驚きで集中が乱れる。カードに込めた魔力も霧散してしまう。
「早すぎでしょう? 5分もたってないですよ?」
「いや、だって・・・・・・面白くて・・・・・・早く次のが読みたいかな〜、と」
手を組み、もぞもぞやりながら、うつむき加減。マジ本が絡むと人格変わるな。軽くほっぺたを染めて上目遣いに此方を伺う。
「だめかしら?」
くっと、小首をかしげる。萌え認定ッ!
「何をおっしゃいます! パチュリー様のお役に立つことこそ我が本望!」
どさどさどさ、と、一気に九冊引き出す。えーっと、漫画一冊4分として36分!? ええい、まどろっこしい! 同タイトルの別作者、小説、アンソロジーに同人誌。しめて50冊弱を引っ張り出す。
「わーぃ、んんっ・・・・・・! 有り難う、宗司。邪魔をしてしまったわね」
いつもの調子に戻った。でも今一瞬「わーい」って言ったぞ、この人。
「いえいえ、このくらいの事ならお安いご用に御座います」
本当はちょっと疲れた。一気に50冊は未体験ゾーンだったが、疲れるだけで済んだらしい。いそいそと本に手を伸ばすパチュリー様(超うきうき顔)を横目に、改めてスペルカード制作に集中する。
1時間後。
途中パチュリー様から含み笑いや「そこは突っ込むとこ」なんて言葉が聞こえたりしたが、何とか二枚のスペルカード作成に成功。
旋符「紙吹雪」
詠符「愚者達の詩」
「紙吹雪」は螺旋状の弾幕が直線的に対象に向かってゆく密度の高いもの。「愚者達の詩」は、まず正面に大きな弾丸を2つ配置、そこから大量の弾幕を広範囲にばらまくもの。さて、次にかかりますか。今度はぐねぐね系統にでも。
「宗司」
そこで突然、パチュリー様から声がかかる。
「はい」
目は本に落としたままだが、意識は此方に向いている感じ。証拠に、漫画なのにページを捲る速度がやけに遅い。
「それ以上は人の見てないところですると良いわ。ある程度の手札は、敵はもちろん味方にも伏せておくものよ」
パチュリー様には知っておいて欲しい気もするが、暗黙の了解として存在するかもしれない。俺も思ったことだ。意外にこっちも気に掛けていたのな。ちょっと舐めてました。申し訳ありません。
「はい、ではそのように」
頭の中で謝りつつ、返事をする。パチュリー様はうん、と頷きながら数ページ戻す。俺に声を掛けたあたりだ、あまり頭に入って来なかったらしい。めずらしい、このくらいの会話は茶飯事だろうに。
この場所はスペルカードを作るにあたりつれて来られた、開けた場所。図書館の中でもかなりの広さを持つ。戦闘しても本に被害は出ないだろう。
そんなことを考えていたら、突然、照明が落ちた。いかん、フラグ立てちゃったみたい。図書館は紅魔館の地下にあるので、真っ暗になってしまう。だが俺は慌てず騒がず、「梟目」を発動。初歩の魔術だ。
「我が眼−闇を見通し−その全てを見渡す−その様−真昼の如く−発動」
早口で一気に。速さが物を言う。視界が開け、モノトーンの図書館内を視神経に伝える。
「私の読書の邪魔をするとは・・・・・・良い度胸」
パチュリー様、声が怖いです。・・・・・・ん?
「パチュリー様、邪魔者の仕業って確定なんですか?」
「今、小悪魔から言霊が届いたの。美鈴が侵入を許したそうよ、相当な手練れか、妙な能力をもっていそうね。・・・・・・宗司」
「はい」
「自分の身は守れるわね?」
「無論です」
パチュリー様は目の前に魔導書を浮かべて臨戦態勢。俺も軽く腰を落として身構える。
静寂。
だが、何者かの気配がする。一つ、二つ。ん、三つ。図書館への侵入者は3か。気配はじりじりと間合いを狭めてくる。奇襲を掛けたかったのだろうが、今居る場所が思いの外広く、そういう訳にはいかなかったのだろう。
「木よ、金よ、交わりて、んく、敵を切り刻み我を守る攻防一体の刃と、えふ、成せ」
パチュリー様の詠唱。喘息持ちらしく、早口になると苦しそうなのが痛々しい。
「金木・エレメンタルハーベスター」
歯車状の刃が、パチュリー様の周りを回転し始める。距離として十分な位置に居ながら何もしてこないのは接近戦闘を得意とするからに他ならない。恐らく、そういった判断。そして、その刃が完成すると同時に、人影が本棚の陰から飛び出してくる!
2人が俺狙い。むむ。幸い距離が有るので準備と観察。全身黒ずくめ、モノトーンなので恐らくだが、たぶんそう。手には長目の大振りナイフ。殺す気満々である。気配が消せて無いことから暗殺者ではないし、ナイフ持ってるとこからして人間? そう考えると同時に懐に右手を突っ込んで、『引き出す』。手には精霊術のグリモア。瞬時に開く。グリモアとは魔導書の一種で、内容を理解していれば、少量の魔力と詠唱で魔術を行使出来ると言う便利なものだ。ただしやや大きく、重いために普段は練習用か儀式用としての意味合いが強い。俺もこの能力のおかげで使えるような物だ。魔力量の少ない俺には有り難い。
「闇の腕!」
左手から来た刺客に、手前の空間から闇色の腕が伸びる。よけようとするが、追尾する腕から逃れられず、捕まる、一言呻いて刺客はその場に崩れ落ちる。
闇の精霊魔術による吸精だ、肉体的な損傷はないが精神を喰われる。簡単に言うと極度に精神力を消費して昏睡状態になる。もう一人はかなり近づいていたが、問題は無い。
「旋鞭!」
刺客に向けた左手から闇の触手が現れ、踏み込みの足を払う。たまらず転倒した刺客に向けて再び吸精。ビクンと体を痙攣させると、気絶した。
パチュリー様をねらった男は銀の歯車に阻まれて攻めあぐねている。途中気付いた様にナイフを投擲したが、あっさりと歯車に弾かれていた。戦闘中でもパチュリー様の眠たそうな目は変わらない、相手を観察するように見ている。
そして満足したのか、人差し指をたてて横に一降り。すると地面と水平に回っていた歯車が、今度は縦に回り始め、刺客に襲いかかった。何とか避けようとはするものの、正直言ってお粗末としか言いようがない。転がるようにしてのがれてはいたが、徐々に追いつめられ、
ごいん。
最後は刃の腹の部分に頭を打ち付けられて気絶。同時に、銀の歯車が消滅する。凄く痛そうな音がしたぞ、今。
「今明かりを戻すから、そいつらのボディチェックをお願い」
「了解しました」
パチュリー様が短く詠唱すると部屋全体に明かりが戻る。『梟目』は感光量を増加するものではないので、急な明暗にも視力を失う事はない。さて、取り敢えずパチュリー様が気絶させたやつから行きますか、目覚められても対応が効くし。やはり黒ずくめ。顔まで隠して、戦闘中は気付かなかったがゴーグルのようなもので目元を覆っている。
なんぞ? 手を伸ばしてゴーグルを外そうとした、刹那。
「宗司っ!」
パチュリー様の焦った呼びかけ。後ろから殺気! 振り向きざま払うように腕を振る。何かにぶつかる手応え。確認すると、ナイフを持った腕を払ったようだ。もう一人いたか! 他の奴と同じように黒ずくめだが、纏っている殺気と雰囲気が段違いだ。こっちが本命か。3人をおとりにして、気配の消せるこいつが背後から。黒ずくめはさして動揺することもなく、次の攻撃。魔術師は奇襲や肉弾戦に弱い。ナイフを投げないのも遠距離攻撃は効果が薄いとの判断から。良くわかっている。首をめがけて迫ってくるナイフを紙一重でかわすが、間髪入れず続いて3撃目。今度は腹。並の魔術師なら此処で詰む。並の魔術師ならば。
どん。
次の瞬間。刺客はうつぶせに床に倒れて、呆然としていた。まぁ、俺がやったんだけど。何のことはない、刺しに来た腕をつかみ、小手返しをかけただけだ。そのまま腕を極めて、背中にのしかかる。
「甘い、甘いよ。先入観ってのは恐ろしいね。接近戦の出来る魔術師がいるとは思わなかった?」
言ってやる。正直、パチュリー様を先に襲われたら危なかったが、そんな事はおくびにも出さない。舌でも噛まれたらたまらないので、とりあえず後頭部を殴って落とす。
「さて、どうしましょう、パチュリー様?」
少女はびっくりした顔で此方を見ている。あれ?
「パチュリー様?」
「あんた誰?」
「3度目ですね」