別に不思議な事ではないと思うのだが、パチュリー様は俺が体術を使えるのがお気にめさないらしい。俺は殺され掛けたと言うのに酷い話だ。使っているのは合気柔術で、投げが主体。零距離戦はお手の物だ。パチュリー様も俺の体の線が細いため、肉弾戦は不得手だと思っていたらしい。その辺はお袋からみっちり仕込まれている。自分の特殊能力に頼り切らないために。その辺の事を交えて話していると「びっくりしたじゃない」とのこと。本音はそこか。

 今は、先ほど気絶させた四人を引きずって、主の間まで移動中である。パチュリー様に力仕事をさせるわけにはいかないので、小悪魔と美鈴さんに手伝ってもらっている。俺一人、小悪魔一人、美鈴さん二人。さすが妖怪。あのあと、すぐに小悪魔と美鈴さんが駆けつけてきてくれた。お嬢様の方は咲夜さんとイスクさんがいるし、本人も反則級なので問題無いと判断し、新米と喘息組のこちらに来てくれたということだ。

「ほえ〜。文車さんは体術使えたんですね、私も気付きませんでしたよ」

 これは美鈴さんの言。中国拳法と日本武術じゃ足運びが違うから無理もないかな。俺は良くわからない。

「今度お手合わせ願えませんか? 賊を投げ飛ばした技、見てみたいです」

「や、美鈴さん妖怪だし。僕が適うハズないですよ」

「またまた、そんな謙遜を〜」

 謙遜じゃないし。八極拳士に零距離戦は無謀にも程がある。掴んだ時には吹っ飛ばされて落ちている様が容易に想像できる。やってみたいという気持ちはあるけれど。でも、まぁ、気が向いたら申し込んでみようか。

「ところで美鈴」

「何ですか?パチュリー様」

「どうして侵入されたのかしら?」

 びくっ! と美鈴さんの体が震える。「えー、あー、うー、ごにょごにょ」とか言い出し始めた。脂汗までかいている。

「怒ってるわけじゃないわ。あなたほどの使い手が易々と侵入を許したのは考えづらいのよ。寝てたのなら別」

「はっ! いやいや、そうじゃないんです!」

 深呼吸。軽々と男二人引きずりながら深呼吸しているというのは、中々シュールな絵だ。

「パチュリー様、絶対怒ってますよね」

 小悪魔に囁きかける。

「ええ。かなり。読書の邪魔でもされたんですか?」

 ですよねー。小悪魔は困り顔で答える。パチュリー様、声が平坦すぎるし。

「されました」

「やっぱり・・・・・・、宗司さんも気をつけてくださいね?」

「解っております・・・・・・」

 やばすぎる。取り敢えず美鈴さんのいい訳じみた説明に耳を傾けた。

「全部で10人いました。その内一人、ローブ姿が魔法使いだったみたいです。なにやら唱え始めたから阻止しようと思ったんですけど、二人ほど邪魔に来て、突破できずに魔法を完成させてしまいました。そしたらみんな消えちゃって、気付いたらみんな門のなかでした」

 声が震えていますよ? 美鈴さん。汗かいてるし。ハンカチでも渡してやりたいが、止めておこう。面白いから。にしても、テレポート? 元の世界じゃ魔法クラスのモノだぞ? そんな簡単に使えていいのかね、ここは。

「ふむ、取り敢えずこの中には居ないみたいね」

 ふんじばった時に全員顔を確認した。至って普通の人間である、ようにみえた。目元を覆っていたゴーグルはマジックアイテムで、完全な暗闇でも視界を確保する代物らしい。魔術無しであの闇は見通せないわな。なんにせよ、魔法を使って来なかった以上、魔法使いではないだろう。わざわざ自爆しにくる奴もいるまい。

 

そうこうするうちに、広間に到着。余談だが、お嬢様にはだいぶ慣れた。傲岸不遜、唯我独尊、暴虎馮河。とにかく我が儘で、突拍子もない事を言い出す事がある。要するに子供なのだ。500歳だがな。変に機嫌を損ねないかぎりは危険な事もないようだ。性格には辟易するけど。

 扉を開けて、中に這入る。玉座に座ったお嬢様、隣に咲夜さんとイスクさん、中央に縛られた黒ずくめが4人。一人はローブ姿。おや?

「一人足りなくないですか?」

「急に襲いかかって来たから、おいしく頂いたわ」

 事も無げにレミリア・スカーレット。

 ・・・・・・おおう・・・・・・やっぱり吸血鬼だった。恐れおののく俺に、咲夜さんがフォローを入れる。

「お嬢様、また宗司が引きますから。冗談よ? 残念ながら、逃がしたわ」

 や、冗談には聞こえませぬ。咲夜さんがそういうならそうなのだろうが、笑えん。

「どうでもいい。それにしても歯ごたえのない人間ね。久しぶりにイスクの本気がみれるかと楽しみだったのに」

 楽しみとな。このお嬢様にしてみれば侵入者も暇つぶしの一つでしか無いのだろう。

「この程度は軽く出来なければ、レミリアを護るなんて出来ないからな・・・・・・」

 言う言う。どこぞの妖精でも出てきそうだ。

「それで、何かわかったのかしら?パチェ」

「微妙。私たちが戦ったのは人間。ハンターもいたようだけれど、そのくらい」

「面倒ね、直接聞こうか、魔眼で」

 お嬢様がこちらに目を向ける。

「文ぐりゅ、」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

何とも言えない空気が流れる、パチュリー様は眠たげな、いわゆる無表情。小悪魔と美鈴さんはハラハラした顔。イスクさんは苦笑い、に見える顔。咲夜さんは俺を睨み付けている。俺は何も聞いていない。何も聞いていないぞっ!?

「宗司」

 あ、諦めた。俺の名字そんなに言いにくいかね。

「はい」

「そこのローブを起こしなさい」

 はい、と答えて、ローブ姿に近づき、活を入れる。「う、む」と呻いて目を覚ます男。

「お目覚め?」

 お嬢様が声をかけると、意識がはっきりしたか、恐怖の表情で吸血鬼を見る。慌てて何かしようとするが、そのときには既にお嬢様の目は金色に輝き、その眼光は男を射抜いていた。男は脱力、目の焦点は合っておらず、口はだらしなくひらいたまま。

「さて、なにから聞こうか。そうね、取り敢えず、名前は?」

「中島、源三」
 たどたどしい口調で答え始める。

「何故私たちを襲った?」

「化け物は、存在しては、ならない、存在、特に、吸血鬼」

 穏やかじゃないな。少なくともハンターがこの紅魔館を標的にするとは考えにくい。なにやら事情があるみたいで、ここの住人が自ら人間を襲うことは無い。何故だ?

「馬鹿ね。お前はそんな事を考えて襲撃を?」

「ちが、う、わたしで、は、無い」

「じゃあ誰?」

「ヘル、シング、と、ダンピー、ル」

「!?」

 その単語に反応したのは、俺、咲夜さんと、パチュリー様。咲夜さんは前者に反応したようだ。お嬢様は構わず尋問を続ける。

「その二人は何者?」

「へ、へるし、ん、がぁ」

がくりと、男の首が垂れる。白目をむいて泡を吹いていまっていた。

「気絶したようです」

 脈をとってみると、かなり早いが生きてはいる。長時間魔眼にさらされると、人間は精神崩壊をおこしてしまうので、気絶して身を守るのだ。お嬢様はふんと、鼻を鳴らすと「他は三下でしょうね」と、情報は十分と判断。

「パチェ、宗司。あなた達は何か解ったみたいだけど?」

「宗司、お願い」

「御意」

 ヴァン・ヘルシング。吸血鬼退治の第一人者で、数々の吸血鬼を屠ってきたヴァンパイアハンター。吸血鬼に対するあらゆる知識を持ち、無敗を誇る。既に故人だが、子孫がその名を受け継いで、北米辺りでは現在も活躍している。

 ダンピール。人間と吸血鬼の混血の総称。外見は普通の人間と変わらないが、不死である吸血鬼を殺す力を持つ。また、吸血鬼を探知する能力も備える。個人名としてその名をつかっているとなると、該当するのは一人。といった所だが。

「しかし・・・・・・」

「何?」

 お嬢様が先を促してくる。

「お解りのように、私がいた世界の人物です。図書館で資料も見ましたが、その書物も外の世界のオカルト雑誌です」

「だから?」

 俺は唇をしめらせる。

「俺は送られて此処に来ました、他の者は迷い込んで来ました。ヴァンパイアハンターとして有名所の人物が、二人も『迷い込んで』来たとは考え難い、つまり」

「誰かが送り込んで来たって事ね」

 お嬢様が俺の言葉を引き継ぐ。にやりと笑うと。

「面白そうじゃないの」

 と、良い暇つぶしが出来た。みたいな言い方。おいおい。

「問題は誰が送り込んだかですが」

 疑問が口をついて出たが、あっさりと全員から反応が返ってきた。

「奴ね」

「あの方ですか」

「間違いないな」

「ですよねー」

「です」

「何を考えているのかしらね?」

 順に、お嬢様、咲夜さん、イスクさん、美鈴さん、小悪魔、パチュリー様。皆一様にうんざりした顔をしている。

 おいおい、俺はてっきりおっさんの嫌がらせかと思っていたけれど、違うのか?

「誰なんです?」

 盛大にため息をついて、パチュリー様が答えた。

「隙間妖怪、八雲紫」

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