人間の里

 八雲紫(やくも・ゆかり)。もっとも古くから存在する妖怪で、物事の境界を操る能力を持つ。結界、時空、次元。その辺の事だ。頭脳明晰で博霊の巫女と共に現在の体制を作った人物。神出鬼没で、住み処が何処にあるのかも解っていない。気まぐれに境界を弄っては異変を起こしている。吸血鬼もそうだが、特に妖怪は長い年月を経るにつれ、強力になってゆく。1200年前から存在が確認されているらしく。相当強力な妖怪だろう。

 取り敢えず、今回の件は保留となった。引き続き尋問を重ねてみたものの、どうしても本拠地の場所を喋らないからだ。そのことになると一様に口を閉ざす。どうやらプロテクトがかけられているらしい。喋らないのではなく、喋れない。八雲紫に直接聞いてはどうかと提案したが、却下された。なにしろ神出鬼没なのである。向こうから姿を現さない限り、コンタクトがとれないようだ。

 当面は、静観を決め込み、ちょっかいを掛けてくるなら撃退する。という方針。賊の処遇だが、頑丈な空き部屋に結界を貼り、閉じこめた。地下牢はフランドール様の部屋らしく、使えない。甘い処遇だとは思うが、何か考え有っての事だろう。ついでに言えば、襲って来た男達は生粋の幻想郷の人間だった。ヘルシング郷とダンピールにそそのかされたようだ。

 何度か食事を持って行った時。

「貴様は人間だろう? 何故化け物どもの味方をし、あまつさえ下僕などやっている。正気か?」

 中島とかいう魔法使いがそんなことを聞いてきた。

「俺は逆にあんたらの正気を疑うね。せっかく今の状態で安定しているのに、わざわざ壊す必要がどこにある」

「しょせんは化け物だ!いつ我々人間に牙を剥くかなどわからん。化け物どもを殲滅しない限り、人間に平穏は訪れない!さぁ、我々をここから出せ! そして貴様も我々と共に来るのだ!」

 周りも、そうだそうだ!とか煽ってるし。

あー、だめだこりゃ。すっかりハンターの考えに染まっている。人間が居なければ妖怪も存在する意味が無い。という基本理念まで消失していやがる。こんなやつらに何を言っても無駄だ。俺は、嘲笑だけ残してその場を去る。去り際に「貴様はもはや人間ではない!」なんて事を吐かれたが。だから何? お前らよりここの住人達の方が、よっぽど人間らしい。

「ちょっと買い出しに行ってきてもらえる? 足りない物があるの」

 襲撃の翌日、パチュリー様が俺に買い物を頼んできた。

「何ですか?」

 聞くとメモを渡される。マンドラゴラの根、混沌茸、トカゲの尻尾。Etc

「マジックアイテムでも作る気ですか?」

「そう、簡単な警報。レミィはいやがるでしょうけど、あって損はないわ」

「ですね」

 しかしこの材料から警報なんてできるのかね?

 首をかしげながら、咲夜さんと共に外に出る。咲夜さんも何か買い出しがあるとか。こちらは日用品。俺の監視も兼ねているから、合わせてくれたのだろう。お互いに私服。さすがにエプロンドレスと燕尾服の組み合わせは人目を惹く。俺は紺の着流しの上下、咲夜さんは、薄茶色のカーディガンに黒いシャツ、チノパンという出で立ち。幻想郷は全体的に和洋折衷なので、ファッションは個人差が大きい。紅魔館は洋風が主体だが、俺は仕事中以外、和服を着ている。

人間の里まで買い出しだ。幻想郷で一番の人口を誇り、あらゆる店が軒を連ね、たいていの物はそこで買うことが出来る。

 館を出て、美鈴さんに門を開けて貰う。珍しく起きていた。

「文車さん、咲夜さん、お買い物ですか?」

「そうよ、貴方も寝てないでちゃんと仕事なさい」

「あんな事があった後に寝てなんていられませんよ」

「良い心がけだわ、三日持てばいいけれど」

「それはあんまりでは・・・・・・?」

 思わずフォローを入れたくなるくらい、美鈴さんが凹む。本当に美鈴さんには容赦ねえな。この人。

 紅魔館から出ると、しばらくは街道が続く。見晴らしも悪くないし、何より天気が良い。思わず、伸びをする。うーん、陽光がすがすがしい。

「気持ちよさそうね」

 目を細めながら、咲夜さん。

「普段の活動が地下ですからね。久々に外に出ると気持ちが良いです」

「私は紫外線が気になる」

 まぶしそうに、額に手をかざす。

「お肌の敵ですね」

「そういう事。お嬢様も嫌いだし」

 それを聞いて、ふと思いつく。吸血鬼は昼間弱体化するんじゃ?

「昼間の方が危険なんじゃないですか?」

 考えてみたらまずすぎる。しかし咲夜さんはいたって平然とした態度。

「確かに日光はお嬢様の弱点ではあるけど、昼間に制限がかかってしまうほど不便な体はしてないわ。むしろ昼間の方が危機管理意識が高くてたすかる」

 さいですか。そもそも、あの強大な吸血鬼が遅れをとるという事態が想像しづらい。俺が対峙したことのある、どの吸血鬼より強力だ。楽観視じみているが、すぐすぐ襲って来るとも考えがたい、フルボッコにしてやったし。そういえば。

「メイド長」

 と、口にした刹那。咲夜さんの銀のナイフが首元に突きつけられていた。うえ!? 知覚不能だったんですけど!? 多分時を止めてやったんだろうけど。え? なにか変なこと言ったか? 俺?

 咲夜さんは低い位置で俺を睨めあげている。表情超怖い。

「今、何て? パッドとか言わなかった?」

 地獄のそこから出ているような声。ナイフをさらに近づけながら、って! 刺さってる刺さってる! 銀のナイフが陽光を反射してギラリと輝く。俺は生唾を飲み込みながら必死で答える。ここはごまかさない方が良いかもしれない!

「め、めいどちょう。デス」

 すっ、とナイフが引きもどされる。まだ安心は出来ない。ナイフは構えたままだし目も怖い。

「本当に?」

 がくがくと縦に首を振る。俺は赤べこか。

「紛らわしいからその言い方は止めてね?いつも通り咲夜でよんでね?」

 口調はお願いだが、声質は命令だ。なぜパッドで怒るのかわからないけれど。従っておかないと非常に不味い。君子危うきに近寄らず? みたいな。多分違う。

「解りました、咲夜さん」

 不意に、場の空気が平常に戻る。咲夜さんもナイフをおさめて、にっこりと笑う。ちゃんとした笑顔だ。

「さて、時間つぶしちゃったわね、いきましょう」

 切り替え早! 俺の方は心拍数が落ち着かないというのに。なんだかなー。

「なにしてるの、男だったらこんな事引きずっちゃダメよ?」

 この! あー、もう。取り敢えず『パッド』は禁句らしい。胸か? 怖いので思考停止。

 

人間の里。前述したが、幻想郷で最大の人口を誇る里である。住んでいるのは人間だけに止まらず、妖怪、妖精、幽霊など、様々な種族がここにはいる。幽霊というと物騒なイメージを受けるが、幻想郷での幽霊は物の気質のことだ。怨霊やら悪霊やらとはほど遠い。死者の霊とは違う物だ。とにかくここでは、それぞれが皆、協力して生活をしている。高位妖怪の保護を受けているため、襲われる事もない。幻想郷で一番安全な場所とも言える。この風景を見ても、あいつらは妖怪を全て敵として認識するのか。

江戸時代の長屋を彷彿とさせる建物もあれば、中華風の館。西洋の石造りの家まである。混沌としているが、不思議と調和のとれた町並みだ。所々に露店が出ており、朝の築地みたいな活気で溢れている。八百屋、魚屋、食堂、占い、日用雑貨、怪しげな店。何でもござれだ。この風景を見ても、あいつらは妖怪を全て敵として認識するのか。

俺たちはまず、日用品の店を目指す。

「おう! 咲夜ちゃん、新入りの兄ちゃん! いらっしゃい! 今日はなんだい?」

 威勢の良いだみ声が鼓膜を叩く。俺もそれなりに里に来ているので、顔は覚えてもらえたようだ。咲夜さんは微笑んで「こんにちは」と言うと、物色し始める。

「洗剤と、石けん、それから醤油差し」

「醤油差し?」

「昨日の被害よ」

 襲撃を受けて被害が醤油差しだけというのもすげぇ。後は美鈴さんのプライドか。プライスレスだけど。・・・・・・思ったより上手く無かった。解りづらいし。

俺も何か必要な物がないか見てまわると、店主のおじさんが声を掛けてきた。

「どうだい兄ちゃん。紅魔館の仕事には慣れたかい?」

「ええ、何とか。毎日いっぱいいっぱいですけどね」

「片腕の兄ちゃんといい、お前さんといい良くあそこで働けるねぇ」

「案外良いところですよ?おじさんもどうです?」

「やめておく。まだ死にたくないんでな」

 がはは、と豪快に笑うおじさん。まぁ、確かに普通の人間が働けるとこじゃない。

「そういやどうした、紅魔館も襲われたそうじゃないか? 大丈夫なのかい?」

 ぴたり、と、俺と咲夜さんの動きが止まる。昨日の今日で、襲撃を受けたことを店主が知っている事もそうだが、それよりも。

「紅魔館『も』?」

「ああ」

 おじさんはごそごそと机の中をあさると、一枚の新聞を取り出した。「文々。新聞」と書いてある。見出しには「各地で襲撃事件。人間の仕業?」という文字が躍っていた。

「今朝早くに天狗が飛んできてな。号外〜とか言いながらばらまいて行ったよ」

 天狗は幻想郷のブン屋だ。面白そうな事は何でも記事にしてしまう。かく言う俺も、最初は紅魔館の新執事として騒がれたものだ。特に面白くも無いと感じたのか、すぐにおさまったけど。おじさんから新聞を受け取って、流し読み。襲われたのは、紅魔館、白玉楼、永遠亭、妖怪の山、太陽の畑、無明の丘。どこも強烈な妖怪が住んでいる所・・・・・・というか幻想郷の有名処、殆ど全部じゃないか。妖怪の山以外、全ての場所が写真に載せられている。紅魔館は門前で賊と美鈴さんが対峙している様子が掲載されていた。

「ホントに仕事が速いわね、あの天狗」

 俺はまだ面識ないけど、紅魔館の人間は顔見知りらしい。射命丸、とか言ったか。続きを読む。「人間たちの反乱か? 襲撃者は全て人間」「いずれも人間の里の住民ではない模様」「どこから来ているのかも不明」キーワードはこんなところか。タブロイド紙みたいだな書き方だ。

あとは死者数。襲撃者側の、だ。ウチや永遠亭に襲撃を掛けた者は運が良い。生きているから。だが、太陽の畑や無明の丘に行った者は、見るも無惨に殺されていたという。自業自得だが、ここの住民はどう思っているのか。おじさんに聞いてみる。咲夜さんは不快な顔をしていたが、重要なことだ。明らかに内部分裂(この場合は幻想郷全体)を狙っている。

「なに、ちょっかいをかける方が馬鹿なのさ。そいつらが殺された所で何とも思わないね、むしろ妖怪達の方が悲しいんじゃないか? まだ理解されないのか、ってよ。少なくとも、この里の人間は気にしちゃいないだろうさ。まったく、おとなしくしてれば恩恵だってあるっていうのになぁ。咲夜ちゃんみたいなべっぴんさんにも会えんだから」

豪快に笑い飛ばす。ドライ、というよりは、妖怪達と人間の共通認識か。もとの世界だったら人道的にどうとか、面倒くさいことになる。そもそも妖怪の存在が希薄だ。この幻想郷において、人間が一番強いと思うのはただの馬鹿でしかない。

取り敢えず内部分裂の工作は失敗、と。ただ、死者が出たことで、あちら側は士気が上がっただろう。やはり妖怪は危険な存在だった、と。あたりまえじゃないか。それを飲み込めずに排斥する。馬鹿馬鹿しい。

「ま、そういう人間がいるのも事実だ。兄ちゃんたちも気をつけなよ?」

「有り難う御座います」

 俺と咲夜さんは店をあとにする。続いて魔法道具屋。妖怪が営んでいる。店内は至って質素だ、素人がさわると危ない物が多いので、殆どが奥にしまってある。

「こんにちわー」

返事なし、あれ? 留守かな。仕方ない、出直すか。と思った矢先、耳元に息を吹きかけられた。

「ぎゃーっ!?」

「なにさ、失礼な坊やだねぇ、いい加減慣れたらどうだい?」

 思わず後ずさり、そちらを見る。視界の端で、咲夜さんが口元に手を当てて笑っていたが気にしない。後でみてろ・・・・・・。

逆立ちの女性がいた。否。天井を地面としている。ここの店主で「天井下り」の苑さん。漆黒のショートヘアに、黒曜石のつり目。泣きぼくろが色っぽい。着物をつねに着崩して身につけ、見事なプロポーションを惜しげもなく晒している。どういう原理か、重力が上に向かって働いていて、逆にそれが不自然さを増長している。そこを除けばエキゾチックな魅力が満載のお姉様だ。くっ! 見えそうで見えないっ! 

「いきなりそんなことされたら普通ビビリます!」

「つれないねぇ、こんなに誘っても宗坊はなびいてくれない」

 そして何故か初見から気に入られた。おそらくからかわれている。袖で隠した口元は笑っているに違いない。いや、でも・・・・・・やぶさかではないです。

「いやらしい」

 幻聴!? 今一瞬パチュリー様の声が!? き、気のせいだと思っておこう。

「えと、苑さん、コレをお願いしたいんですが」

 パチュリー様に手渡されたメモを渡す。

「はいよ、すぐに揃えるから。待っておき」

 そう言うと、奥に引っ込んで行った。奥への入り口は、もちろん逆さまだ。

ううむ、けしからん、良い尻だ。

「いやらしい」

 今度は幻聴ではない。咲夜さんだ。

「何の事でしょう?」

 とぼける。ボロを出さないには言葉を少なくするに限る。

「そう、じゃあパチュリー様に報告しておくね、苑さんの全身をなめ回す様に見てたって」

「それは勘弁してください!」

 マジ泣きだ。パチュリー様の極低温の瞳を容易に想像出来てしまう。そんなに表情に出てるかなー。いや、多分感が良いんだろう。そうだ、きっとそうだ。

「お目付役がいるのは辛いです、母さん」

「何よ、宗司の監視は最初の二週間でとっくに終わっているわ」

 至極あっさりと、まるで当然のごとく、咲夜さんは言う。

へ?

「そうなんですか?」

「そうよ、今日だって合わせた訳じゃなくて、たまたま一緒になったのよ」

 意外だ。一月ちょっとしかたっていないと言うのに、もう監視がはずれているなんて。

「イスクもそうだけど、貴方もそう、不思議と害を感じさせない」

 それは、どうなんだろう。

「根本が善人なんでしょうね、幻想郷では希有な存在よ、もっとも」

 意地の悪い目で俺を見る。

「イスクと違って下心はあるみたいだけど」

「そんな事はありません」

「じゃあ、私がもし、何かの攻撃で上半身丸見えになったらどうする?」

「上着を貸します」

即答。何の不自然もない。脳内で再生された経緯は口に出さず結果だけ。嘘もついてない。これぞ完璧。記憶野に保存。上書き禁止。

「そう、上着を貸すまでの間にじっくり観察するのね?」

「何故ばれたし!?」

 エスパー過ぎる! この人が普通の人間なんて絶対認めない! ニュータイプだ!

「それよ、一つはその嘘の吐けない性格」

 ぴっと人差し指をたてる。続いて中指も立てる。

「もう一つは、パチュリー様への忠誠心」

「そんなもの、見ててわかりますか?」

「わかるわ」

 断定の言葉。

「特に用事が無いときは、必ずパチュリー様のそばにいた。しかも邪魔にならない程度の距離をおいて。何かを勉強しているときも、必ずパチュリー様の死角になり、かつ、すぐに呼び出しに応じられる所にいた。それと、パチュリー様の近くにいるときは、あの方から何か頼まれない限りその場を離れない」

 恥ずかしい。全部が全部、見られていたのだ。悔しいよりも恥ずかしい。いや、もう、なんてゆうか、うがーっ!

「主に仕える事を喜びとしなければ、あんな気遣いは出来ないから。私もそう、だから、実習期間だけで監視をやめたの。ああ、この男なら心配ない、ってね」

 いつもなら、声を荒げて俺の分析をするな! とかいっているところだが、不思議と怒りでなく、認められたという喜びの方が勝った。いやでもまさか、全部に監視がついてるとはおもわなかったけれど。こえぇ。独り言も自重しといて良かった。

「だからパチュリー様も全部知ってるから」

「な!?」

「おまたせ」

 素晴らしいタイミングで、苑さんが出てきた。苑さんの視点だと、楽しげに笑う咲夜さんと、顔を真っ赤に染めた俺が映っているはず。出た言葉は。

「咲夜ちゃん抜け駆け?お姉さんもまぜなさいよ〜」

「違います!」

 全力否定。「それよりもですね」と無理矢理話題をそらす。咲夜さんはまだ笑っている。畜生。代金を支払い、釣り銭をもらいながら尋ねる。

「今回の襲撃事件、苑さんはどう思いますか」

 苑さんは「そうねぇ」としばらく考えていたが。

「危うい、かしら?」

 予想どおりの答え。だが実際は、その一つ上を行っていた。

「ほら、今の幻想郷って、言い方は悪いけれど、『振り』で成り立ってるじゃない?子供をさらうふり、妖怪退治をするふり・・・・・・。どれも大切なこと。でも彼らは完全に妖怪を滅ぼすつもりでいるわ。幽香ちゃんから聞いたけど、そりゃ怒るわよ」

 風見幽香(かざみ・ゆうか)。アルティメットサディスティッククリーチャーの異名をもつ、凶悪な妖怪にして、太陽の畑の主だ。大昔は、ひまわり畑に這入る人間を片端から殺していたらしいが、最近は憩いの場としての限定解放もしているらしい。もちろん荒らすような事をすれば追い出されるが。それでも「追い出す」だけだ。殺めたりはしない。それが、今回の事件では惨殺という結果になっている。

「ひどい罵詈雑言を浴びせて来た挙げ句に、畑に火まで放とうとしたらしいし。いまの幽香ちゃん、凄く怖いわよ?」

「それは、何とも、あの、怖いですね」

「怖いしかでてこないのが彼女の凄いとこね」

 咲夜さんも流石に青い顔をしている。しかしまぁ、やるね。火を付けようなんて。

「だから危うい、よ。早く収まってほしいわ」

 苑さんは悩ましげにため息をつく。残念ながら、それは希望的観測に過ぎないだろうけれど。俺たちは苑さんの店を後にする。時刻は、逢魔が時。そろそろお嬢様が活発になり始める時間。

「咲夜さん」

 おじさんと苑さんの話しを聞いて、思ったことを口にする。

「その、八雲紫って妖怪、何が目的何でしょうね。この状況を作り上げたにもかかわらず、今度はそれを壊そうとしている」

「さあ? 高位妖怪の考える事は解らないわ」

 さして気にも留めていないように答える。

「そりゃないんじゃないですか?」

「今考えても答えは出ないわよ。お嬢様は考えなさすぎ、宗司とパチュリー様は考えすぎ」

 手厳しい。主に対しても、この瀟洒なメイドは容赦がない。

「だから、今、私にできることは全力でお嬢様を守ること」

 こちらを向いて、宣言。

「だから、宗司も全力でパチュリー様を守りなさい。そのために、私たちはいるのでしょう?」

「そう、ですね。有り難うございます」

 咲夜さんはにっこり笑うと、強く頷いた。

「先輩からのちょっとしたアドバイスよ。私は宗司を認めた。主にも認められるようにがんばりなさい」

「はい」

 さて、早く紅魔館に帰って仕事をしないと。今夜も忙しくなりそうだ。咲夜さんの言葉をかみしめながら、帰路についた。

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