精鋭2
「あーっ! パチュリー様ぁ、宗司さんを独り占めするなんてずるいですよぅ!」
とてとてと、我に返った小悪魔が近づいてくる。思ったんだが、小悪魔は何で俺に対してこんなに好感度高いんだ? いやまぁ、同僚が出来て嬉しいと自分で言っていたけど。だよな、小悪魔のことだ、それ以上の意味は無いだろう。後ろでは美鈴さんとイスクさんが、なにやら話をしていた。
「吹き飛ばしたのは自分でしょうに」
やれやれ、と言った感じでパチュリー様。一枚のカード、スペルカードを取り出すと、俺の額に当てる。
「発動」
カードが光り出すと、体に活力が戻ってゆくのが感じられた。背中と腹の痛みも引いてゆく。どうやら、スペルカードは回復にも使えるらしい。便利なものだ。それにしても凄いな、これ。どんどん回復していく。対してパチュリー様は怪訝な顔。
「宗司は・・・・・・」
外から殺気!いち早く動いたのは美鈴さん。両掌に気をためると、殺気の方向に白い閃光を放つ。門外の木に直撃。
そこから、無数の人影が飛び出す。人影は空中で無数のナイフを放ってきた。遅れてイスクさんが動く。状況がつかめず、呆然としていた小悪魔を隻腕で抱えてスペルカード発動。
「矛盾『矛盾の盾』」
古風な盾があらわれて、無数に迫っていたナイフを弾き散らした。俺は寝ころんだままグリモアを引っ張り出し、やはり突然のことに固まっていたパチュリー様ごと風の障壁を展開。風にまかれたナイフは勢いを失い、落下する。
「そこの胴着野郎は弱っているぞ! 狙え!」
一人が声を荒げる。その声に反応して、硬直が解けたパチュリー様は一枚のスペルカードを取り出す。
「させない、月木符『サテライトヒマワリ』」
緑と黄色の大玉が上空に出現。その大玉から、俺とパチュリー様の周囲にむけて弾幕の雨が降り注ぐ! 襲撃者が足止めを食っている内に、俺は体勢を立て直して、状況把握。
襲撃者の数はざっと20人。全員がカソックを身につけ、首から変形の十字架を下げている。手には銀製のロングソード。投げたナイフも銀製のようだ。眼鏡率が高い。驚いた事に、全員がサテライトヒマワリを避けきって見せた。ざっ、と体勢を整える僧服姿達。
「我らはダンピールの使徒! そこな悪魔と魔女と妖怪娘! 動くな! 我らが滅してくれる! 人間はどけい! かばい立てすれば貴様らも敵として排除するぞ!」
余りの言いぐさに一同唖然。平然としてるのは俺位だ。確かに幻想郷でこんな前口上は聞かないだろう。だが、神の名を出さなかったことと、あまりにも僧服に「着られている」感じを受けるし、何より柄が悪い事から、幻想郷のハンター崩れ辺りだと推測がつく。事実、半分以上の者からは早く暴れさせろ的な気配を漂わせていた。
口上をあげたのは、唯一神父然とした壮年の男。だが、一番危険な匂いもさせている。精鋭、といった所か。数では圧倒的に不利だが、成る程。俺は答える。
「ふざけんな。お前らになんの権利があってそんな事が言える」
「貴様人間! 何故、化け物なぞに味方する!」
「聞いてるのはこっちだ、幻想郷のルールを知らないとは言わせないぞ?」
「馬鹿馬鹿しい! 化け物にそそのかされた巫女が、勝手に決めたルールなどに従えるか! そんなもの化け物どもが人間を懐柔するために作った罠だ!」
「罠? はっ、罠だったら今頃全員、お前らの言うところの化け物どもの腹の中だな」
「だからだ! そうなる前に我々は奴らを滅ぼさねばならん! まずは貴様らの主、吸血鬼からだ! 吸血鬼こそ諸悪の根源。奴らさえいなくば後の化け物どもを滅ぼすのはたやすい!」
「だ、誰が、そんなことを?」
「我らが同志、ダンピールだ」
俺の言葉に勢いが無くなったのを見てか、にやりと笑うとたたみ掛けてきた。
「同志は今我らの後方に控えている。武器を生成し、我らに道を与えてくれた者だ、協力するなら、貴様も同志に迎えてやるが?」
「ほ、本当か?」
「宗司さん!?」
「宗司!?」
小悪魔とパチュリー様が焦った声を出すが、無視。
「ああ、さらにはヘルシング様に進言して安全も保証してやろう、この幻想郷が人間の楽園となるまでの間な」
「それは・・・・・・どこだ?」
「魔法の森だ、ヘルシング様もそこで準備をしておられる。どうだ、我々に協力するか?」
「俺は・・・・・・」
「ん?」
にやにやと俺を見ている男。他の人間も、成り行きを楽しんでいる。
「そんなつまらない楽園はいらないよ」
俺が答えて、使徒に動揺がはしると同時、美鈴さんとイスクさん、パチュリー様が動く。さらに俺も。
「彩符『彩光乱舞』!」
「藍符『龍騎』!」
「土符『ドヨースピア』」
「詠符『愚者達の詩』!」
大量の光の玉と、龍型のミサイル、降り注ぐ岩の雨、さらには鈍色の楔に為す術もなく蹂躙される使徒達。もはや弾幕というのも生温い。
「ぬうううううっ!」
人間は挑発された後、優位に立つと、周りが見えづらくなる。特にこいつらは興奮していて、自分が正しいと思いこんでいるから、舌戦で優位に立とうとして、俺の安い挑発と演技にも簡単に乗ってくる。此方が押されているように見せ、期待を十分にもたせたうえで、すっぱりと切ってやれば、動揺して動きが止まる。俺は時間を稼いだだけ、後はご覧の通り。以上、証明終了。
使徒たちは壊滅状態。わずかに動ける者も、満身創痍だ。意図的にか、死人はでていない。
「おのれ外道・・・・・・一時撤退!撤退だ!」
相手の話から、恐らく後詰めがいる状況、みな追撃はしな、
「えーいっ!」
とどめとばかりに、小悪魔が弾丸を放つ。一人の後頭部に直撃、転倒、気絶。最終的に逃げたのは2人だ。・・・・・・小悪魔よ、ちょっと空気読もうか。それじゃあ本当に外道だよ?
やってから気付いたのか、はたまた俺の微妙な視線で気付いたのか、あわてて頭を下げる。
「ごごごごごごめんなさい! つい」
「いいのよ、間違ってはいないわ」
パチュリー様がフォローを入れる。口の中で「美しくはないけどね」と呟いたのを俺は聞き逃さなかったけれど。俺はパチュリー様に頭を下げる。
「察していただいて、有り難うございます。あの呼びかけは良かった」
「あれくらいしないとリアリティが無いでしょう。話が飛びすぎだもの。臭すぎたし」
やっぱりそうか。次はもっと上手くやろう。
「私は途中まで騙されましたけど」
肩を落として美鈴さん。このひとは戦術感が鋭いので気にしていない。
「宗司の嘘ほど解りやすいものはないと思うが・・・・・・」
この人は読めん。俺がブラフ掛けてる間、ずっと無表情だったし。
「え!? あれ演技だったんですか!?」
「小悪魔・・・・・・」
マジで凹む。思わず脱力。ひざをついてがっくりとうなだれる。え? なに? あの焦った「宗司さん」も本気だったわけ? 素で凹むわ! 一番一緒に仕事してきたのに!? 好感度高いのに信用度低いってどんなパラメーターだよ!?
あわてて弁解を始める小悪魔。
「ええあうぅ! そうじゃなくて、最初は同感していたけど人間の楽園なんてやっぱりつまらないかなー、みたいな感じで意見を翻したのかと・・・・・・決して宗司さんを疑ってたわけじゃあないんですぅ」
そして追い打ち、水風呂に氷を追加された気分。今度は色素が抜け落ちていく俺。それじゃあ、ただのダメ人間じゃないか。言いたいことは解るが言葉のチョイスが悪すぎる。
「小悪魔、それ以上宗司を追いつめないであげて・・・・・・」
パチュリー様の辛そうな表情も優しさも今は痛いです。
「ごめんなさい・・・・・・」
泣きそうな顔の小悪魔。俺も泣きたい。もはや自分が惨めで悲しいのか、小悪魔の顔を見て悲しいのか訳がわからなくなってきた頃、場を仕切り直すように。
「ほらほら、気を抜かない! あいつらはまだ来るのよ!」
パンパンと手を叩きながら咲夜さんが現れる。どこかで一連のやりとりを聞いていたらしい。隣には、日傘を差したお嬢様の姿。うし、と気合いを入れて立ち上がる。まだ泣き出しそうな小悪魔の頭に手を乗せる。さらさらの髪の毛、さわり心地が良かった。
「伝えたいことはちゃんと伝わりました。だからそんなに落ち込まないでください、小悪魔」
「あう。何か言いたそうな感じですけど、有り難う御座います」
うん、自分で顔が引きつっているのが解る。ごまかすように、くしゃりと頭をなでた。
「わ、わ、髪の毛乱れちゃいますよぅ」
きゃーとか言いながら、自分の頭を押さえて俺の手から逃れる小悪魔。言うほど嫌そうではなかった。照れたように笑っている。
「さて、みんな、いいかしら?」
お嬢様から声がかかる。
「まだ来るのは一向に構わないけど、庭が散らかってるのは我慢ならない」
一同を見渡す。
「日が当たるのは嫌だから、私は中にいるわ。咲夜は私の護衛。美鈴とイスクはそこに転がってる人間を空き部屋にでも入れときなさい。パチェと小悪魔は私と一緒に中に」
矢継ぎ早に指示を出していくお嬢様。あり?
「宗司はどうするんだ?」
「宗司、お前は敵を食い止めなさい」
なん? え!?
「出来るなら殲滅しなさい。もちろん、出来るわよね?」
慌てて、パチュリー様が抗議の声を上げる。
「ちょ、レミィ! 流石にそれは無茶よ! それに宗司は私の執ゲホゲホっ!」
咳き込んだパチュリー様を小悪魔が介抱する。
「あらパチェ、宗司と契約したわよね? 宗司は紅魔館の主である私の命令にも従う事、と。貴女が忘れてる事なんて無いと思うけど?」
「・・・・・・」
口元を拭いながら恨みがましそうにお嬢様を見る魔法使い。そんな少女に俺は声を掛ける。
「大丈夫です、パチュリー様。お嬢様の我が儘に応えられなくては、紅魔館の執事なんてやってられませんよ。そのお気遣いだけで、僕は十分です」
もちろんハッタリだ。だが、ここで俺が断れば、俺の居場所は無くなる。お嬢様の命令を無視するというのはそう言うことだ。
「お前も紅魔館がどういう所かわかってきたみたいね」
満足げな笑みでお嬢様が言う。そういうと、さっさと咲夜さんをひきつれて館に這入っていった。パチュリー様はしばらく俺を見ていたが、ぷいっと後ろを向くと歩き出す。
「小悪魔、行くわよ」
「え!? あの、えーと」
小悪魔はパチュリー様と俺を交互に見ておろおろしている。目があった時に俺は、うなずいた。
「パチュリー様を頼みます」
「・・・・・・はい」
パチュリー様のあとを追った。振り返る寸前のパチュリー様の顔は、今でも忘れられない。憤りと、悲しみと、落胆がないまぜになったような顔。
イスクさんと美鈴さんは、複雑な表情をしながらも、気絶した使徒達を縛り上げ、運んで行く。運びながら、イスクさん達に声を掛けられた。
「宗司」
無表情だが、瞳には理解の色。
「はい」
「己も以前、似たような事があった」
「へ?」
あまりにも意外な言葉。お嬢様の信頼を咲夜さんと同じ、いや、それ以上にうけているように見えるイスクさんに、似たような事があっただなんて。
「恐らく・・・・・・これはテストだ」
「テスト、成る程」
解らないでもない。ここにいて良い資格は多分・・・・・・。
「それは違う」
見透かした様にイスクさんがいう。
「宗司もそろそろ気付いているはずだ、紅魔館がどんな所か」
俺は何も答えられない。その通り。気付いてはいる、だけど、それは遠いところに有るような気がしてならないのだ。
「頑張れ」
それだけ言って。館に向かう。
「この人達押し込めたら、直ぐに援護にきますから!」
美鈴さんはそう言ってくれたが、おそらくは無理だろう。遠い部屋だし、なによりお嬢様が出させない可能性がある。だから。
「有り難うございます、期待してますね」
美鈴さんにも解っているのだろう、申し訳なさそうな顔をしながら、館に這入っていった。
遠くから銃声。敵も空気を読むらしい。タイミングバッチリだ。
「さて、文車宗司、行こうか。冷静に、クールに」
目次へ戻る
トップへ