とりあえず小悪魔に拳骨をかまして(「頭が悪くなりますよぅ」とか言っていたが無視)部屋に戻り就寝。そして翌朝。ぴっちりと燕尾服に着替えて、朝の紅茶を用意。イングリッシュブレックファーストと呼ばれるブレンドティー。続いて朝食の用意、フレンチトーストにフレッシュサラダ。
本来なら地上の食堂で食べるのだが、昼夜ほぼ逆転のお嬢様がいるため、咲夜さんの負担が大きい。そこで図書館メンバーは俺か小悪魔が朝食を作る事になっていた。場所は図書館内の会議室を使っている。
「おはよう」
「おはようございますー」
パチュリー様と小悪魔が同時に姿を見せる。二人ともまだ眠そうだ。
「だらしない。まだ敵がおそってくるかもしれないんですよ?」
「大丈夫、紅茶を飲めばすっきりするから」
そういうと、パチュリー様はカップに口を付ける。表情は眠そうなままだが、瞳から眠気の色が薄れていくのがわかる。小悪魔はすでにフレンチトーストをもそもそとかじっていた。こちらは半分寝ている。
「そういえば宗司」
「なんでしょう?」
パチュリー様はこちらにゆっくりと顔をめぐらす。
「夕べ、あなたの様子を見ていて、そのまま眠ってしまったはずなのだけれど」
トーストを一口、咀嚼、飲み込む。
「何故か自室にいたのだけど、宗司が運んでくれたの?」
「ええ、まぁ」
パチュリー様はため息。
「自分が世話になってちゃしかたないわね。有り難う、宗司」
「とんでもない、主に看病させてしまった僕の方こそ、有り難う御座います」
「ふふ」
俺も席に着いて、カップを口に運ぶ。内心冷や汗だらだらである。寝ぼけたパチュリー様を勢いで襲いそうになった上に、小悪魔がwktkして見てたなんてとてもとても。あとは小悪魔が口を滑らせ無ければ良いが。
俺はサラダをやっつけにかかっている小悪魔を横目で見やる。とりあえずは食事に集中しているようだ。あああ、口元にメープルシロップがくっついている。
「こあ、シロップがくっついてますよ?」
「え、あ、本当」
ナプキンで口元を拭う小悪魔。よし、とれてる。
「宗司、いつのまに小悪魔を愛称で呼ぶように・・・・・・って、ゆうべしかないか」
嫌な予感。
「そうなんです、私と宗司さんは師弟の契りをかわしたのです!」
やたら嬉しそうに小悪魔。いや、ねつ造だし、それ。案の定、怪訝な顔のパチュリー様。
「師弟の契り?」
「そうです! そして活人拳と殺人拳で意見の違いから争うようになってしまった師匠と弟子。幾多の試練を乗り越え、弟子はついに師匠の元にたどりつく!」
あの時の小悪魔の頭にはそんなに深い設定があったのか。
「そこに突如現れた、お寝ぼけ魔女!」
「ぶしゅ!」
パチュリー様が紅茶を吹く。ああ、やっぱりこうなるのね。
「小悪魔、それはどういうこと?」
「はい? ですからパチュリー様が寝ぼけていらっしゃったので、私と宗司さんで部屋に運んだんです」
「わ、私なにか変な事言ってなかった?」
小悪魔はうーんと思い出すように首をひねると。
「特に奇声を発していたとか、そう言うことはなかったですよ」
「そ、そう、それなら、いいのよ」
嘘は言っていない。パチュリー様も細かく聞けない(聞きたくない)だろうから、これでこの話題は終了となる。後は俺が涼しい顔をしていれば問題ない。
小悪魔は此方をみると、ペコちゃんみたいに舌を出して、バッチーンとウインクして見せた。右手は親指を立てている。いや、上手く嘘もつかずに経緯を伝えたつもりだろうけど、かなりギリギリだから、それ。
パチュリー様を見ると、顔を赤くして、胸元を隠しながら上目使いに俺をにらんでいる。
何故か、凄く悲しくなった・・・・・・。
昼過ぎ、お嬢様が起きてきたということで、今後の事を話し合う事になった。メンツは言わずと知れたお嬢様、咲夜さん、イスクさん、パチュリー様、小悪魔、俺。美鈴さんは門番。妹様は何処にいるのか見当も付かない。妖精メイド達はその辺で遊んでいる。働け。
「と、いうわけで」
こほん、と、お嬢様が咳払いをひとつ。
「これより『腐れ神父撃滅必殺殲滅大作戦』の概要を説明する!」
まばらに起こる拍手。つうか咲夜さんだけ。しかし解せぬ。
「イスクさん、お嬢様どうしたんですか?」
「先日パチュリーに借りた本の影響だと思うが・・・・・・」
「何て本です?」
「なんだったかな・・・・・・?」
ずばっ、と、お嬢様は立ち上がると、有りもしないマントを翻して朗々と話し出す。
「これより我が紅魔「艦」隊は50ノットで前進、魔法の森付近に展開。陣形を整え次第、5ノットまで減速。それより無音歩法で敵部隊の懐に潜り込み、これを殲滅する!」
『これを殲滅する!』の所でぐぐっと拳を握りしめる。
「諸君らは紅魔館で鍛え上げられた猛者だと私は信じている!」
両手を握りしめて、上方の虚空を睨み付ける。
「あ、思い出した」
「私も予想がつきました」
「沈黙の艦隊だ」
「紺壁の艦隊と黎明の艦隊も混じってます」
「我ら紅魔艦隊におそれ」
「レミリア」
なおも演説を続けるお嬢様を、イスクさんが止める。
「なんだね、イスク大尉。質問は後にしたまへ。それから私はスカーレット艦長だ」
まだ言いますか。イスクさんはため息一つ。
「話が先に進まない。要するに此方から攻めるんだな?」
「ノリが悪いわね、良いじゃないの」
とたんに機嫌が悪くなる。まぁ、わからんでもないけど、進まないし。
「そうよ、向こうの本拠は解ってるんだから、ただ漫然と待っている道理は無い」
「ちょっと待って」
パチュリー様がストップをかける。
「いくら本拠地が解ってるといっても大体でしょう? それに奴らの正確な人数も解らないのに、危険だわ」
まったくその通り。しかしお嬢様は自信たっぷりだ。
「場所はアリスの家近く。人数はあいつら二人だけよ」
「どこからの情報?」
「だからアリスから」
アリス・マーガトロイド。別名「七色の人形遣い」と呼ばれる魔法使いだ。紅魔館にはパーティーの時、人形劇を披露しに来るため、俺も顔を知っている。
金髪のセミロング。黄色の瞳。肌の色が薄く、本人も人形みたいな格好をしている。パチュリー様と違い、人間から魔法使いになった。魔法の森にある洋館に住んでいる。
「成る程、夕べ来ていたのね」
「そう、そこで聞いたの。近くに怪しい男二人組がいて困ってるらしいわ。特徴を聞いたら、一人はあのドS神父で間違いない」
「もう一人の特徴は、ききました?」
俺は疑問を投げる。げお嬢様は「えーっと」と頭に指を当てた。
「確か、眼鏡のオールバックでひげ面のじじいらしいわ」
ヘルシング郷で間違い無さそうだ。先にも説明したが、吸血鬼退治の第一人者。魔術師だが、魔術師協会に籍を置かず、独自にフリークスハンターの会社を立ち上げている。もちろん公のものではなく、探偵事務所と言うことになっている。物の怪退治では直接攻撃せず、弱体化させたり結界を張ったりの防御がメイン。この手の魔術師は時間を与えると鉄壁になるので、早めに潰した方が良い。攻撃方法は不明。だが、強力なものには違いない。後半だけみんなに説明する。
「ならなおさら、早くいかないと駄目ね」
咲夜さんの判断に異論は無い、異論は無いが。
「全員で行くのか? 流石にそれは・・・・・・」
イスクさんが俺の思っていたことを代弁する。紅魔館の人間が揃って出たとなれば、目立つにも程がある。さらには敵側に他の人間が見えないとなれば、この近くに潜伏している可能性もあり、危険だ。
「そうねぇ、帰って来たときにフランと妖精達にここを乗っ取られているかも。そうなると面倒だし」
全然違った。その程度らしい。
「よし、今回は私が出る。私の安眠を、いや、庭をボコボコに、もとい、宗司を傷つけてくれた礼をしたいから」
睡眠>庭>>>>>超えられない壁>>>>俺。
いや、解ってたけどね、そう言われるのはさ。お嬢様だし、吸血鬼だし。あれ、なんでだろう、目から汁が・・・・・・。
「じゃあそこで馬鹿な顔して泣いてるキモイ燕尾服も来なさい」
「へーい」
もうなんとでも言ってくれ。パチュリー様は呆れ顔、小悪魔は俺に口を寄せて来る。
「大丈夫です、たとえ宗司さんが馬鹿顔で泣き虫でキモくても私は宗司さんが好きです!」
かつてこんなにも貶められた「好き」があっただろうか? いや無い! そんなに必死な顔で言わないでくれ。慰められた気がしない。
正直、小悪魔は天然なのか聡いのか良くわからん。ギャップが酷すぎる。
「私と、キモスギ宗司と・・・・・・」
「人の名前で遊ぶな!」
思わず敵として認識。しかもそれ字数しか合っていない。
「心の狭い執事ね。黙って最後まで聞く位の気遣いは出来るようになさい?」
たしなめられた!? いいや、もうやめよう、また自爆するだけだ。このままだと別名が「自爆に定評のある男」になってしまう。
「私と、自爆に定評のある宗司と」
もうなってました!
「咲夜とパチェね」
うえ、それって主力じゃ。ああ、俺以外は誰でも主力なのか。
「今宗司が勘違いしたみたいだから言うけれど、あなたも戦力よ? 術展開の早さ、技術の応用性、接近戦においては相手を寄せ付けない、もっとも、私には適わないけれど」
最後に自分を持ち上げるのを忘れないところがお嬢様クオリティ。そう言われれば、悪い気はしない。・・・・・・今、俺口に出してないよな?
「レミィと咲夜のオフェンス、私のバックアップと宗司のサポート。良いんじゃないかしら」
「オーケーね。出発は夕暮れ時。日没と同時に森に着くようにしましょう。夜ならば太陽が出てないし好都合」
お嬢様の「解散」の一言で皆持ち場に戻り始める。いやに、あっさり決まったな。咲夜さん辺りは反対するかと思ったけど。それだけ、あいつらが煩わしいと言うことか。そうだよな、外の世界からやってきて、ルールも守らず住人を殺し、しかも紅魔館を最大の敵と定めているんだ。ウザくない訳が無い、か。
それにしても、緊張感たりない気がする。いいのか? 何か、見落としてないか?
そんな俺の不安は的中する。
全く見当違いの所で。