魔法の森。高温多湿。障気が濃く、生物の住みづらい環境の森。故に、隠れるにはもってこいでもある。所々砂漠のオアシスのように障気の薄い所があり、アリスなど森に住む僅かな人間はそこをねぐらにしている。ヘルシングもその一つにいるらしい。

 その上空。俺たち4人は飛んでいた。文字通り。

 弾幕バトルは主に空中戦で、みんな飛べるらしい。もちろん俺にそんな能力は無いので、風の精霊の力を借りて飛んでいる。

「あそこね」

 お嬢様が森の一角を指さす。夜の森は言いようも無いくらい不気味だ。黒い固まりが今にも動き出しそうに風に吹かれてざわめいている。目をこらして見る。小さめの洋館があり、そこに近い開けた場所が目視できる。上空からで無ければ自分の位置さえ見失う様な深い森だというのに、そこだけぽっかりと穴が開いたようになっている。

「いた、やっぱり二人。あらら、気付かれちゃってる」

 未だ小さすぎて人影など解らないが、お嬢様には見えるらしい。闇夜は吸血鬼の領域だ。暗さなど関係ないのだろう。

「準備万端てところか。どうする? 行く?」

「嫌だと言っても行くおつもりでしょう」

 咲夜さんがため息と共にはき出す

 お嬢様はにやりと笑うと速度を上げた。慌ててついて行く、風きり音が鼓膜を叩き、夜の冷気が肌を刺す。ぐんぐんと迫る森。まるで落下しているような錯覚をするが、飲まれない用に注意。風の精霊は感情に敏感だ。恐怖を読み取られればおもしろがって本当に落下させかねない。

 俺でも見える用になるが、特に何か仕掛けて来る様子は無い。ヘルシング郷は眼鏡越しに此方を睨み付けている。オールバックにした白髪。青い目。顔には無数の皺が刻まれ、年齢と威厳を感じる。黒いロングコートに身を包んだその姿は、闇に紛れる告死鳥。リベリオンは嗤っている。サングラス越しの目はどうなっているのか解らない。

 お嬢様が降り立つ、続いて咲夜さん、俺、パチュリー様が着地。同時にヘルシング郷が口を開く。

「お前が吸血鬼か」

 しゃがれた声。それでいて良く通る。

「そうよ」

 腕を組み、余裕の表情でお嬢様が答える。目には興味の色。

「吸血鬼よ、何故夜を歩く」

「人間、なぜ太陽を恵みとするの?」

「吸血鬼よ、何故人の領域を侵す」

「人間、なぜお前達は争うの?」

「吸血鬼よ、何故人を食らう」

「人間、なぜ食事をするの?」

 ヘルシング郷はふむ、と鼻を鳴らして俯く。

「成る程、私が滅してきた吸血鬼どもよりは理性的なようだ」

「私が滅ぼしてきた人間よりは理性的なようね」

 最後の言葉に意味は無い。お互い、相容れぬ存在だと言うことを確認しただけだ。お嬢様の瞳も、興味の色は褪せ、殺意が宿る。

「ヘルシング郷」

「フグルマ・ソウシか、どうやら、自分の意志でそこにいるようだな」

 ため息と共に、ヘルシング郷が答える。俺が話をする事は既に了承を得ている。

「何故此処に来たんですか?」

「むろん物の怪を滅ぼすためだ。それ以外に何がある」

 何を今更いうのか解らない。という顔。だがどこか空々しい。

「別の世界の出来事だとしてもですか」

「こうやって我々が入って来られる以上、もはや別世界ではなかろう。人間に害を及ぼす物は、全て滅ぼさねばならない」

「悪意が漏れだしたのはあなた達のせいでしょう。何を考えているんです」

「・・・・・・必要悪だ、人間が頂点でいるためのな」

「病に冒されたあなたが出てくる理由がわかりません」

「どこで、いや、そうだな、協会だよ・・・・・・ここまでだな」

 無理矢理話を切られた。意図的に話を飛ばして測ってみたが、やはり反応が遅い。多少障害が出ているようだ。

 それにしても、なぜ此処で協会の名前が出るのか、口をすべらせたのだろうが・・・・・・。

 思考はそこで遮られた。リベリオンが抜刀と共に剣風を幾重にも飛ばしてきたのだ。空気が啼き、芝が踊り、大木が巨体を大地に預ける。一瞬にして、そこは戦場となった。

 すかさず、ヘルシング郷がGBを投げる。あたりに立ちこめるニンニクの匂い。

 吸血鬼はニンニクに弱い・・・・・・俗説で根拠に乏しいが、その俗説が物の怪には良く効く場合が多い。一般的に物の怪の類は人の妄想や恐怖からうまれたとされているため、思いこみによって作られた弱点が存在する。十字架、ニンニク、太陽の光、流水。現にお嬢様は太陽と流水が苦手だ。十字架は信仰がないと効果が無い。ニンニクは?

「臭いわ」

 以上だ。効かない物は効かない。むしろニンニク料理が好きだったような。

 因みにGBというのはガーリック・ボムの略。そのままだとあまりにも緊張感が欠けるために略したらしい。略すのもどうかと思うけど。ニンニクの匂いでいささか緊張感に欠ける。風で吹き飛ばそうかとも思ったが、時間稼ぎのためだとするとやっかいだ。ヘルシング郷に注意を向ける。コートから取り出したのは焼夷弾。

 森でそんなもん使われたら大火事になる。俺は開きっぱなしにしていたグリモアを発動。風の固まりを飛ばしてヘルシング郷を吹っ飛ばす。腕から焼夷弾がこぼれ落ちる。ピンは抜かれていない。大きく飛ばされたヘルシングは空中で後方に回転。綺麗に着地する。老いてはいても、身のこなしは軽い。そこをパチュリー様が大量の弾丸を撃って追撃。青白い弾丸が尾を引いて飛ぶ。わざと狙いを甘くし、広範囲に打ち込む事で動きを制限する。 ヘルシング郷とリベリオンの分断に成功。

 お嬢様と咲夜さんはリベリオンに向かう。剣風の応射をされるが、難なくすり抜けて接近。咲夜さんのナイフが飛ぶ。リベリオンは円を描くようにしてナイフを払う。さらにナイフと、お嬢様の紅い弾丸。手数と言うより密度のような弾幕。さしものリベリオンも防戦が精一杯だ。それでも僅かな隙間を見つけては剣風を放つ。

空気を裂いて飛ぶ剣風は、ある程度弾幕をはじき返して回避の助けにもなる。

「お、ああっ!」

 特大の剣風。そこからさらに細かく剣風をいくつも飛ばす。ナイフと弾丸が弾かれ、二人の少女を引き裂かんと剣風が迫る。お嬢様が紅い壁を作り出していくつかを無効化。抜けてきたいくつかを、コウモリの形をした弾丸で相殺する。

 暫く、そんな状態が続くも、お互いに細かく傷が付き始める。

「やっかいね。咲夜、攻め方を変えるわ」

「了解です」

 お嬢様の眼前に小型の魔法陣が無数に出現。そこから、先ほどと同じコウモリ型の弾丸が高速で飛ぶ。リベリオンは剣風を放つが、コウモリは剣風を食い破って肉薄。回避行動をとる神父。しかし、コウモリは意志を持っているかのように追尾する。

「ぬ」

 コウモリにレイピアを直接叩きつけて消してゆく。祝福を受けた細剣は魔力を帯び、同じ魔力を払うことが出来るらしい。だが、いかんせん数が多い。後退しながら払い続ける神父。そこに、後ろからナイフが襲いかかる

咲夜さんはリベリオンの正面に居るが、投げたナイフが軌道を変えて逆向きに飛んできたのだ。完全に死角だったはずだが、リベリオンは何かを感じ取ったのか、後ろ手にレイピアを振る。弾かれるナイフの群れ。

 ぎぎぎぎぎぎんっ!

「がぐっ!」

 鈍い音を立てて、何本かは背中に当たった。刺さらずとも衝撃は食らう。体が前に泳ぎ、コウモリの弾丸が直撃。爆煙をあげてリベリオンが吹っ飛ぶ。

すかさず、お嬢様は追撃。爪を伸ばしてしとめにかかる。翼を打ち鳴らして加速、間合いに入る。

「馬鹿がっ!」

 神父が嘲弄の声を上げる。レイピアを手放し、襲いかかる爪の手首を掴んで止める。至近距離。さらに距離をつめ、密着状態となった神父と吸血鬼。咲夜さんはだいぶ後方、手助けは不可能だ。

「奴に聞かなかったか? 私は貴様に噛み付けばそれで良いんだよ!」

 嗤い声とともに大口を開けてお嬢様の細い首に噛み付くリベリオン。

 がちん。

 しかし、リベリオンが噛み付いたのは銀色に輝くナイフ。咲夜さんが超高速で接近し、口と首の間にナイフを差し入れたのだ。咲夜さんの手にはスペルカード。周りの時間を遅くし、長距離を駆け抜けたのだ。

「馬鹿はお前の方だったみたいね」

 唇を歪めて、お嬢様が言い放つ。既にスペルカードを持ち、準備状態。

「紅符『不夜城レッド』」

 紅い魔力がお嬢様の体から迸る。その魔力は、天を突く紅い柱となってリベリオンを飲み込んだ。

 

 吸血鬼主従組が戦っている間、こちら図書館主従組もボサッとしていたわけでは無い。むしろ相手がそうはさせてくれなかった。

 ヘルシング郷は5本の試験管を取り出すと、それを大地に叩きつける。煙があがるが、辺りを覆い隠すほどではない。

「目覚めよ、呪われし獣どもよ。人ならざる者どもを食い破れ」

 歌うような詠唱。逆再生したかのように煙が収束してゆき、5体の獣が現れる。てらてらと輝くぬめりを帯びた鱗の肌。本来は緑色であろうその肌は、月明かりの中では黒く変色して見える。は虫類の、トカゲに似た顔、レザーアーマーにバトルアックスを装備し、瞳は獲物を求めてぎらぎらと輝いている。

 リザードマン。人間とは虫類を掛け合わせた人体実験に依る産物。召喚者に忠実だが、どう猛な性格をしており、獲物を食らいつくすまでは止まらない。生命力が高く、ちょっとやそっとでは動きを止めることはない。通称リズマン。

「随分と悪趣味なモノをお持ちで」

「皮肉だよ、物の怪を狩るために物の怪の力を借りねばならん。・・・・・・かかれ」

 一斉に、5体のリザードマンが襲いかかってくる。意味のない奇声を上げ、斧を無茶苦茶に振り回しての特攻。腕力も半端ではない。殆どがパチュリー様に向かう。俺よりも組み伏せやすいとふんだためだろう。

「っ!」

 顔に嫌悪感を貼り付けて、パチュリー様が指先から5つの火の玉を放つ。それぞれが全員に着弾、爆発する。強烈な熱風が頬を叩く。俺は口元を隠して異物が入り込むのを防ぐ。もうもうと立ちこめる煙。その煙を突き破って、まるでひるんだ様子もなくリザードマンたちが躍り出る!

「なんでっ?」

「リズマンは高い魔術耐性を備えています、上位魔法も効きづらいです」

「先に言いなさいよ」

「無茶を言わないでください!」

 なんて言ってる場合ではない。パチュリー様の壁になるように移動。壁のように風を放って足止め。馬鹿の一つ覚えの様に風の精霊魔術を使っていると思うだろうが、もっとも汎用性が高いために俺は好んで使っている。

「強化」

 ヘルシング郷の短い言葉。思ったより早い! 淡い光にリズマンたちが包まれると、風の壁をものともせずに襲いかかってくる。死の輝きを放ち迫り来る五本の斧。

「くっそ!」

 グリモアを仕舞い、まず両脇から処理。それぞれ斧を持った腕を掴み、勢いを殺さずに引っ張る。俺の正面で2体のリズマンが衝突。崩れ落ちる2体には手を出さず、俺は後ろに下がる、目の前を正面のリズマンが振った斧が横に抜ける。銀弧に前髪が数本、持って行かれた。その一匹は衝突して転倒したリズマンに躓いてバランスを崩す。そこに右足を踏み込んで掌底。吹っ飛ばす。つもりだったが、相手は後ろによろめいて転倒。強化された筋力は、みぞおちを突いた攻撃でも威力が抜けきらない。

 さらに転倒した1体を飛び越えて別のリズマンが飛びかかってくる。着地位置を予測。振り下ろされる斧の軌道の内側に入り込み、背中でリズマンを受け止め、そのまま仰向けに地面に叩きつける。バウンドしたリズマンの喉めがけて踏みつけ、気道を潰す。ぐしゃりという嫌な手応え。

 ひゅーという、空気が抜ける音をたてて、リズマンは絶命した。あと一匹は・・・・・・。

「きゃあっ!」

 パチュリー様の悲鳴。見れば、一体のリズマンにパチュリー様が押し倒されていた。リズマンは顔からブスブスと煙を上げている。回り込んだ一体に対して、至近距離で高威力の火球を放つも、痛覚の鈍いリズマンは構わず襲いかかったのだ。

「てんめっ!」

 慌てて駆け寄ろうとしたその時、がくん、と全身から力が抜け、その場に倒れ込んでしまう。ヘルシング郷を見ると、此方を指さして嗤っている。「弱化」を食らってしまった様だ。食らうのは初めてだが、これは半端無い。どうやら下半身を中心に弱められたらしい、足が全く動かない。転倒した3体も起きあがり始めていた。

 パチュリー様にのしかかったリズマンは鼻息荒く、目には下劣な情欲の色がある。

「ひっ・・・・・・」

 直接的な恐怖に身がすくんでしまったようだ。パチュリー様は固まってしまっている。しかしローブに手を掛けられた事で、恐怖より怒りが勝ったらしい。細い腕でリズマンの腕を掴むと引き離しにかかる。

 だが、もともと力が強く、更に強化されたリズマンの筋力に貧弱な力しか持たないパチュリー様が抵抗出来るハズもなく、ローブを引き裂かれる。残るはワンピース。荒い息が少女の顔にかかる。

「やめ、なさいっ!」

 迫るリズマンの腕を掴んで必死に抵抗する。だが、それも時間の問題だろう。起きあがって来た3体も軽い脳しんとうを起こしていたか、軽く頭を振ると此方にゆっくりと歩いてくる。倒れて動けない俺をいたぶろうと、目には嗜虐の色。

 こいつらはあっ! 怒りで思考が乱れるが、それを押さえ込み、高速で考える。いまのこの状態で打てる最速最善の手! 両腕は動く、ならば! 

 グリモアを引っ張り出す。取り出したのは、錬金術のグリモア。パチュリー様を襲うリズマンに向かって楔型の弾丸を一発放つ。もちろんこれだけではリズマンに傷一つ付けられない。そこで錬金術の出番。

「鋼鉄よ! 集まり一つとなりて先駆けし者に力を!」

 地中の鉄分をかき集めて弾丸に纏わせる。魔力で出来た弾丸は、高硬度のチタンを纏って高速で飛翔する70mm超の銃弾に変化、更に速度を持たせて威力を上げる。銃弾はリズマンの後頭部に突き刺さると、肩口までを消失させて突き抜ける。

短距離ながらも超高速で打ち出された巨大な弾丸は、その勢いで着弾した周りおも消滅させるほどの威力を持つ。血を撒いて倒れるリズマン。

それを見届けずに、俺は右手に新たなグリモアを引き出す。仲間が倒れたのを見て、危険と判断したか、残ったリズマンは一斉に襲いかかってきた。好都合!

「魔力変換、精製、召喚、具現、固定」

 錬金術でウィル・オー・ウィスプを高速精製。魔力生命体は輝く光の玉の姿をしており、ふわふわと浮かんでいる。次いで取り出したグリモアの精霊魔法発動。

「光の精霊よ! そのまばゆき光を! 陽光の光を此処に具現したまえ!」

 ウィル・オー・ウィスプから前方、放射状に光の照射。巨大なスポットライトが出現したようなものだ。わざわざウィスプを召喚したのは光量を増すため。月明かりでは充分な光量は得られない。このときに、お嬢様の「不夜城レッド」が発動。辺りは真昼の様に明るくなる。

「ぎゃっ!」

 目を焼かれ、その場でのたうち回るリザードマン。2冊のグリモアを仕舞い、新たに2冊引き出す。禁書「ネクロノミコン」。クトゥルー神話の重要アイテム、死者の書。ネクロマンスにおいて強大な力を持つ。その凶悪な魔術故、禁書となった最悪の書。この場の死体は2つ。それに向かって、呪いの言葉を投げかける。

「無惨に殺害されし哀れな魂よ。生あるものどもを贄とし恨みを晴らせ」

 ヘルシング郷を悪趣味だと言ったが、これも充分悪趣味だ。死体から白いもやが出てくると、のたうち回るリズマンの内2体に入り込む。とたん、痙攣し始め、泡を吹き始めた。内部で怨霊が暴れ回っているのだ。

 もう一冊はある魔女の書いた本。この本自体が魔物と言われる程の魔力を内包する。リズマンに向けて開くと、しわがれた腕が本から伸び、倒れたリズマンを掴む。みるみるうちにリズマンの体から生気が失われ、ミイラの様になる。たいして皺だらけで枯れ木の様だった腕は、急速に若々しい女性の腕へと変貌していた。その時点で本を閉じると、腕はかき消えた。

 大昔の魔女が、永遠の若さを手に入れようとして作り上げた名も無き書物。半永久的に生物から生気を吸い上げ、保存する。一度開けば無差別に周りから生気を吸収してしまう恐るべき書物だ。

 急いで2冊とも仕舞う。封印されていない状態で存在するのは危険すぎる代物だ。そこにあるだけで災厄をもたらしてしまう、ある意味、哀れな書物。

 パチュリー様を見ると、顔を血で朱に染めながらも、立ち上がってヘルシング郷を凝視している。ヘルシング郷は片目を押さえて呻いていた。どうやら、光をまともに見てしまったらしい。

「こざ、かしいわっ!」

 ヘルシング郷が叫ぶ。懐から取り出したのは赤い、小さな木の杖。

「燃えよ!」

 叫ぶと同時、杖の先から炎が迸り、渦を巻いて襲いかかって来る。パチュリー様は素早くスペルカードを取り出し、発動。

「水符『ジェリーフィッシュプリンセス』」

 水の幕が、パチュリー様を包み込む。炎は水球ごとパチュリー様を飲み込むが、水球は蒸発することなく少女を守りきった。水球を納め、次のスペルカードを用意する。

「炭と化せ!」

 再びヘルシング郷が叫ぶと、先ほどよりも強い炎が立ち上る。あの杖は危険だ、術者の魔力を吸い、それに比例した炎を呼ぶ杖のようだが、明らかにヘルシング郷の魔力キャパを超えている。恐らく、生命力まで魔力に変換しているに違いない。その証拠にヘルシング郷の顔はフルマラソンを完走したかのように憔悴し、額には脂汗が浮いている。

 対してパチュリー様は涼しい顔。というよりいつもの表情。いや、俺には、怒っているように見える。

「あなたの覚悟は解った、だけど残念。ここで終わり」

 呟くと、スペルカードを発動。パチュリー様の顔の前にカードが浮かぶ。溢れる魔力、それだけで、パチュリー様の体が宙に浮き、長い髪の毛が泳ぐ。

「よくもあんなモノを差し向けてくれたわね。男性恐怖症になったらどうしてくれるのよ。宗司が怖くなるだなんて、そんなのゴメンだわ」

 炎を迎えるように両手を大きく広げて、力ある言葉を放つ。

「日符『ロイヤルフレア』」

 カードのあった位置に出現したのは、輝く小太陽。その小太陽から、極太の熱線が放たれる。周りに被害を出さないため限定的に結界が張られているものの、その熱量は凄まじく、俺の肌をちりちりと焦がす。炎を貫いて熱線がヘルシング郷にむかって行く。更に炎を出して防ごうとしるヘルシング郷。その顔が驚愕に彩られる。足下の草が、体をはい上がって杖をからめとっていたのだ。

 バインドブッシュ。木の精霊魔法。今日は大盤振る舞いだ。

「ぐ、うおおおおおっ!」

 熱線が、ヘルシング郷を飲み込んだ。

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