妹様は危険信号
「おかーちゃんのためーなーらえーんやこーら♪」
現在廊下の掃除中。別に頭がおかしくなった訳ではない。紅魔館は広いので誰もいない場所が出来る。そんな地上階の廊下の一角。黙って一人で掃除をしていると気が滅入るのですよ。普段ならこんな所まで掃除に来ないのだが、なんでもパチュリー様が小悪魔の説教をするらしく。追い出されたのだ。咲夜さんから仕事を貰い、進行中。
「この機会に小悪魔に常識をたたき込んでおくわ」
だそうだ。いや、小悪魔のアレは多分わざとだと思うけど。しかもパチュリー様の常識はたまにずれるし。まぁ理由は解っているので悪い気はしない。つうか嬉しい。それも手伝ってちょっと歌など。雰囲気に合わせてみました。
「変な歌」
失礼な! 郷里の母親を思って仕事をする素晴らしい歌だというのに!
振り返って見ると、一人の少女が窓枠に腰掛けて此方を見ていた。
金髪、紅い瞳。お嬢様と色違いだが、同じ型の帽子。身長は小学生程度。赤を基調とした、スカート丈の短い子供服のドレス。背中には、小さくカラフルな羽が付いた枝状の翼。口元からは長い犬歯が覗いている。レミリア・スカーレットが妹、フランドール・スカーレットだ。朝っぱらから嫌な予感はしていたけれど、まさか妹様と会うことになるとは。勿論、同じ紅魔館に住んでいるのだから、たびたび遭遇したことはある。なんてゆうか、苦手なのだ。友好的にいきたいのはやまやまなのだが。
「これは妹様。どうなさいました?」
とりあえず話しかける。どうやら機嫌は悪くないようだ。酷いといきなり後ろから撃たれたりするからな。
「んー? 適当にぶらぶらしてたら変な歌が聞こえて来たからなんだろー? って」
ようするに暇らしい。掃除も八割方済んだ所だし、相手をしても問題無いと判断。苦手な相手だからこそ、コミュニケーションは重要ですよ? ・・・・・・つうか後が怖い。
「変な歌とは心外です。これは故郷に残してきた母親の事を思って働く人の歌なのです」
「宗司はお母さんがいるの?」
「そりゃいますよ。まさか木の股から生まれて来たりはしません」
「木精ならそれでもおかしくないんじゃない?」
む、鋭い。だけど木精というより妖怪なんだけどね。どう言おうか考えていると、妹様の方から全く違う話を振ってきた。
「パチュリーは元気なの?」
「ええ、お元気ですよ。何かご心配でも?」
妹様はうーんと一言うなると。
「ほら、パチュリーって本ばっかり読んでるから、私みたいにパーッと遊んだりしたほうが良いんじゃないカナって」
その辺りは同意である。日陰少女なんて呼ばれてたりするし。
「ですね。今度進言しておきます」
「うん、いっしょに遊ぼうって」
無邪気な言葉に思わず微笑む。見た目通りの少女なんだけどなー。問題が。
「で、暇だから宗司遊んで?」
来たよ・・・・・・。無邪気さは時に邪気に通じるという良い例だ。
「何して遊びますか?」
「お医者さんごっこー!」
世の中のロリコン諸君。勘違いしてはいけないぞ? これは死亡フラグだからな? 今から証明しよう。
「僕が患者とか嫌ですよ」
「えー、解体とか解剖とかしてみたかったのに」
ほらね? 妹様は真面目な顔で手術台の前に立つ医師のまねをする。
「では、これよりオペを開始する」
「宜しくお願いします」
「のこぎり!」
「殺す気満々ですね」
「ずばずばずば」
エアのこぎりを使ってエア解体。のこぎりの入れ方がやけにリアル。
「生々しいなぁ・・・・・・」
「先生先生! 脈がありません!」
「そりゃないでしょうよ!」
あったらホラー映画じゃん。却下。流石に死ぬと思います。
「じゃあおままごとー!」
「えーと、鬼嫁と虐げられる旦那ですか」
「うん! 包丁で刺したり車で轢いたりするの」
「それは殺人事件です」
妹様は笑顔を浮かべて、旦那を迎える奥さんの姿勢。
「あなたお帰りー。刺殺がいい? 轢殺がいい? それとも〜、じ、さ、つ?」
「生命保険貰う気皆無ですね。なんで結婚したんですか?」
「刑事さん! 私あの人が憎くてしょうがなかったの!」
拳を握りしめて必死の形相で力説しはじめる。どうやら事後のようだ。
「ほう、ならばどこが憎かったんですか?」
「そこはかとなく」
「嫌な動機ですね!」
多分「なんとなく」の間違いだろうけど。特に間違ってないのが更に嫌。
「後悔とか、ないんですか?」
「ついカッとなってやった、後悔はしていない」
ここだけ無表情で、まるで原稿を読んでいるかのような棒読み。
「またニュースの定型句みたいな事を」
サスペンスドラマにもならん。謎解き皆無だし。却下。
「じゃあじゃあ、お姫様ごっこー!」
「僕は虐げられる従者役ですか」
「違う違う」
妹様はちっちっと指を振る。違うのか? 他に思いつかないが。
「あのね、お姫様は悪い魔法使いに掠われちゃうの」
ほほう。なんだかまともそうだ。
「それでね、お姫様のお父さんは勇者を募って助けにいかせようとするの」
「ふむふむ」
「一人の若者が選ばれて、いざ出発!」
「おおー」
「だけどその時!」
む、まだ出発もしていないのに何かあるのか?
「お姫様が帰ってくるの」
「はい?」
「そしてお姫様は言うの。悪い魔法使いは私がフルボッコにしたから安心して!」
「超展開!?」
「あら、勇者様? 私、殿方にまもって頂くほどやわではありませんのことよ?」
口元に手を当てて高笑いしてみせる。それはお姫様じゃなくて女王様だな。
「おーほっほ! よの男どもわ私にひれふすのよー」
「お姫様に対するイメージが反転しました」
なんつーか、斬新だな。その場でではなくわざわざ掠われるとこが。でもそれだと、役割どうなるんだ?
「お姫様は妹様がやるとして、僕はなんです?」
「だから悪い魔法使い」
「結局ボコられるんですね・・・・・・」
この思考体系はなんとかならんものか。なにかと破壊する方向にもっていくのは妹様の能力に起因しているという噂もあるが、実際はわからない。なんでもあらゆる物を破壊する程度の能力だとか。
「ううー! じゃあ宗司はなにがいいのよ!」
ああ、拗ねだした。こうなるとなにか上手いことやらないと弾幕ごっことか言われかねない。
うーん。
「妹様、頭の体操とかどうです」
「頭の体操?」
オウム返しに聞き返してきた。顔にははてなマークを浮かべて、首をかしげる。くるくると表情がかわるのは、見ていて面白い。
「逆立ちとかするの?」
「それは頭で体操です」
いいですか。と前置きして説明する。
「1から20まで順番に、交互に数えていって、最終的に20を言った方が負けです。一度に言えるのは三つまで。どうですか」
「よくわかんないけど、やってみる!」
よし、なんとかのってきてくれた。
「では、練習してみましょう。妹様から先にどうぞ。1からです、3までしかいえません」
「じゃあ、1!」
「2、3、4・・・」
ややあって。妹様の番。
「18、19。あ」
「20。これで僕のまけですね」
「やったぁ♪ 宗司に勝った!」
嬉しそうにはねる妹様。まぁ、練習位は、ね。
「じゃあ本番いってみましょう」
15分後。
「何で勝てないのよー!」
妹様が悲鳴にもにた叫びを上げる。現在俺の10連勝中。
「いやー、今日はついてます」
「うー! もう一回!」
ムキになって挑んでくるが、このぶんだと負けは無いな。妹様は勘違いしているようだけど。
ご存じの通り、この遊びには必勝の法則がある。先手なら7、11、15、を取れば19が取れるので勝てる。後手でもこれを知らなければやっぱり勝てる。ついてます。なんて言ったのは確率だと妹様に信じ込ませるためだ。
「にじゅ、うー! またなの!? もっかい!」
悔しげにうなる妹様。目の端に涙を浮かべている。
あっはっは、愉快愉快。日頃から女性陣に掌転がしされてるうさをはらさせてもらおうか妹様よ! もちろんそんな表情は出さない。
「ぐぐぐぅ、まだまだ!」
・・・・・・幼女をいじめて楽しんでるように見えるのがやだ。
「むぅー! 勝つまでやるもん!」
あう。だめだ、これ以上は俺の良心がもたない。負けますか・・・・・・。
「19! よっしゃー!」
「20・・・・・・」
飛び跳ねて喜ぶ妹様。まぁ、良しとしよう。
「宗司って弱いのね!」
弱いのは貴女の頭です。
突っ込みたかったが、それこそ自爆なので自重。寝た子を起こすこともないだろう。
「今度負けてたら宗司を壊しちゃおうと思った」
怖っ!
「あ、でもそれも面白かったかも」
どうやら俺は九死に一生を得たようだ。自分の良心に感謝。お袋、今日もなんとか生き延びることが出来ました。まだ午前だけど。
妹様はうーんと、伸びをするとくるりと一回転。
「ん! 有り難う宗司、いっぱいお話できてよかった!」
にこりと笑って、そんなことを言った。いや、まぁ。
「いえいえ、こちらこそ面白かったですよ」
なんとなく苦手意識があったが、実際面白かった。ちゃんと話せば色々と話せるんだな、上手く話をしないと弾幕ごっこやるー! とか言われそうだから綱渡り的なスリルが満載だけどね。
「ねぇねぇ」
おもむろに、妹様から声がかかる。
「宗司、私の事嫌いだったでしょう?」
「そんなことは御座いません」
瞬時に答えたが、声がうわずるのは隠せなかった。
「いいよ、隠さなくてー。何となく避けられてる感じがしたし、最初に私と目が合った時もなんだか嫌だって気配させてたし」
おおう、凄いな。他人の感情。特にマイナス方向には敏感らしい。
「あー、その、申し訳ありません」
「なんで謝るの?」
「いや、だって」
「今宗司は私と遊んでくれたじゃない。だからもう、お友達」
「・・・・・・有り難うございます」
なんだかんだ言って、姉妹なんだな。言うことが似ている。
「でも懐かれると面倒だから、あんまり感激しないでね?」
やっぱり姉妹だな!
「んじゃね、今度はイスクに構ってもらおう! イスクは黙って私の遊びに付き合ってくれるから好き〜」
イスクさん、ご愁傷様です。まぁ、注意だけでも。
「イスクさんは片腕なんですから、あんまり無茶させないでくださいね?」
無用な心配かも知れないけれど。対して妹様はきょとん、とした表情。
「何言ってるの? イスクほど両腕を器用に使う人間は見たことないよ?」
え? 両腕? どう見てもイスクさんは隻腕のハズ。
「凄いよー。あんまり凄いからもっといっぱいあるんじゃないかと思った」
考え込む。違和感と、違和感と、違和感。全てがずれる。
「イスク・秦・パラドクスさんの事ですよね?」
「そうだよ、イスクはイスクしかいないもん」
「・・・・・・」
「変なの。じゃあ私行くね? ばいばーい」
俺がそれ以上の疑問を挟む暇もなく、妹様は角を曲がって消えていった。最後の台詞が飲み込めず、まるで幻でも見ていたかのような感覚。
「両腕を、器用に、扱う?」
俺の言葉は何処にも届かず、ただ、廊下の壁に当たって落ちた。