「宗司さーん」

 後ろから声がかかる。小悪魔だ。

「あ、昼食できました?」

「ハイ、給仕手伝ってもらえますか?」

「お疲れ様です。了解しました」

 片付けかけの本をまとめてから、キッチンに向かう。小悪魔が用意したのはパスタだ。明太子と茸の和風パスタ。茸はエリンギ、シメジ、エノキ。人数分一気に作るのにパスタはベストチョイスだ。
 盛りつけて、刻みのりをふる。トレイに載せて会議室に運ぶ。ナプキンを敷き、シルバー(食器)を並べて、グラスに水を注ぐ。

「宗司さんどうかしました? ちょっと暗いですよ?」

 突然心配顔の小悪魔からそんなことを言われる。さっきのことを考えていてしまったらしい。

「いえ? 特にかわりないですよ」

 別に暗い思考をしていた訳でもないので、とぼけてみる。しかし小悪魔の表情は変わらない。

「そうですかー? いつもだったら料理に対して感想とか、そうでなくても何かおしゃべりしてくれるとおもうんですけど」

 う・・・・・・。

「ちょっと朝から色々在りましたからね。疲れてるのかもしれません」

決まりが悪いと思いつつもはぐらかす。自分の中の矛盾と問答していましたなんて、格好悪すぎる。これから昼食なんだし、気分も切り替えますか。

「こあ、お客様がいるのに我々が一緒に食卓に着いていいものなんですかね?」

「え? あ、はい。さっき聞きましたけど、良いそうです。大勢の方が楽しいからって」

 いきなり話を振られてびっくりしたみたいだけど、答えてくれた。

「おお、こあにしては手回しがいいですね」

「にしては、ってゆうのは余計ですよぅ。私だって僕なんですから」

 ぶぅ、とほっぺたをふくらませて言う。

「そう言うなら宗司さんが先に確認しとくべきだったんじゃないんですか?」

「僕は整理を仰せつかっていましたから。いまの食事担当はこあです」

「にゅ。そうですけどー、無駄に馬鹿にされた気分です」

「気のせいですよ。言葉のあやです」

 普段の言動が言動なだけに誤解されがちだが、実際小悪魔は良く気がまわる。俺が実習期間中にまず覚えたのは、小悪魔の動きだ。たまにギャグで俺の事を師匠とかいうが、師匠は彼女の方である。たまに忘れるけど。

「こあが出来る娘なのは僕とパチェが知ってます。そう怒らないで?」

 そういうと小悪魔はにへらっ、と相好を崩す。うーん、乗せやすい。何かあった時はこの手を使おう。

「やだぁ、宗司さん。そんな事言われたら照れちゃいますよぅ」

 くねくねしながら寄ってきて、俺の腕にからみつく。それをするりとかわして。

「さて、準備も整った事ですし、皆さんを呼びに行かないと」

「ぶーぶー」

 再びふくれる小悪魔を放置して三人娘を呼びに行く。さっきの話は終わったのか、幻想郷の真の馬鹿は誰かという話になっていた。ものっそい興味をそそられたが、料理がさめても宜しくないので声をかける。

「おーやっと飯か。腹ぺこだぜ」

「魔理沙は遠慮という言葉を勉強するべきね」

 全くだ。そんなやりとりをしながら会議室に案内する。パチュリー様は特に変わった様子も、いや、ちょっと堅いか? 俺も努めて意識しないようにした。

 全員席に着き、めいめいに食事をはじめる。俺は手を合わせて、いたたぎます、と言ってからフォークを手に取る。コレをやらないと気持ちが悪い。紅魔館でもいただきますを言うのは俺と美鈴さん位だ。咲夜さんも名前のわりにはこの習慣がないらしい。

「おお、小悪魔の料理食べたのは初めてだが、けっこういけるぜ。特にキノコ」

「そうね、茹で具合も丁度良いし。おいしい」

 確かに、小悪魔の料理は美味しい。普段から料理の本を読みあさって実践しているだけはある。当の小悪魔は照れながらパスタを口に運ぶ。出来にも満足しているようだ。

がっついていた魔理沙さんはふと手を止める。

「そう言えばパチュリーは料理出来るのか?」

「わ、私!?」

 黙って食事をしていたパチュリー様は突然の事に目を丸くしている。

「そんなにびっくりすることないだろ?」

「だって・・・・・・」

 パチュリー様はおろおろして・・・・・・何で俺を見るんですか? どうやら俺に助けを求めているみたいだが、俺もパチュリー様が厨房に立っている様子は見たことがない。俺や咲夜さんみたいな小間使いがやっているのだから、当然と言えば当然なのだけど。

 小悪魔の方を見ると困った様な顔で見返してきた、俺も多分同じような顔をしている。なんだかなー。しょうがない、話をそらしてみようか。

「魔理沙さん、アリスさん。食後のデザートはどうしますか? 宜しければご用意いたしますよ」

「デザートか! 良いね〜」

「何かあるのかしら?」

「えっと、下ごしらえはしてあるのでミルフィーユ位なら直ぐできますよ?」

「文車が作るのか!?」

 びっくりした様子で魔理沙さん。まぁ、咲夜さんほどではないけれど。一通りは作れる。

「ええ、そうですけど」

「宗司の作るお菓子は美味しいわよ。食べてみて損は無いとおもう」

 ここぞとばかりにパチュリー様が合いの手を入れる。

「それは是非食べてみたい」

「承知いたしました、では直ぐに」

 俺が立ち上がると同時、魔理沙さんがパリュリー様を振り返る。

「で、パチュリーは作れるのか?」

 だよなぁ、この程度で誤魔化せないか。パチュリー様は観念したようにため息をついた。

「やったことはないわ」

 出来ない、といわないのは精一杯の強がりか。あまり変わらないと思うのだけれど、それはそれ。これはこれ。

「そーかー」

 対して落胆した様子もなく、魔理沙さんは腕組みをする。

「なによ」

「いや、出来るんならその手もあるかなと思ったんだが」

 なんの話だ? 話を出した以上、デザートを作らないわけにもいかないのでキッチンに向かう。さて、ではちゃっちゃと作っちゃうかな。

 昨日のうちに作っておいたパイ生地を取り出し、オーブンの板に敷いてからフォークで空気穴を開ける。その間にオーブンを暖めておく。オーブンが適温になったら生地を入れ、5分。生地がふくらんで来たら一度取り出し、鉄網を押しつけて空気を抜く。ここから更に15分程きつね色になるまで焼く。その間にカスタードを・・・・・・といった所でパチュリー様がキッチンに入ってきた。みんなの分のお皿を持っている。よろよろしてあぶなっかしい。

「よっ、ちょっ・・・・・・」

「いっぺんに持ったら危ないですよ」

 ひょいと、パチュリー様から皿を取り上げる。平皿5枚とシルバー一式。女性にはちょっと重いかもしれない。

「有り難う、宗司」

「いえいえ。というか、何でパチェが? こあにやれせれば良いことでしょう」

「あの二人が五月蠅いから逃げてきたのよ」

 うんざりした表情で備え付けのイスにとすん、と座る。思わず苦笑。女三人寄ればかしましいと言うのに。この人は逃げてきたらしい。あの状況じゃ仕方ないかもしれないが。今頃は小悪魔がとっつかまっている頃だろう。

 食器は取り敢えず流しに放り込んでおいて、カスタードを混ぜる。なるたけゆっくり、なめらかになるように。

 ぼーっと座っていたパチュリー様が、声をかけてくる。

「ねえ、宗司」

「はい」

「私って、何も出来ないのかしら?」

 何を今更。

「パチェのお仕事は何ですか?」

「魔法の研鑽と、この紅魔館のトラブルを解決すること」

 よどみなく答える。ならば何故迷うのか。

「パチェにこんな事を言っても馬の耳に念仏でしょうが、適材適所というものがあります。僕や小悪魔は、そのお仕事のサポートをするために居るんです。そのお仕事自体はパチェでなければ出来ません」

 オーブンを覗くと、良い感じに焼き上がっていた。取り出して長方形に等分する。

「貴女が他のことに煩わされないように、僕たちは動いて居るんです。掃除しかり、炊事しかり。それを取られてしまったら僕らの商売あがったりです」

 おどけるように肩をすくめてみせる。イチゴを取り出して、適正のサイズにカット。へたは取っておく。

「無理に仕事以外の事に手を出す必要は無いんです。魔理沙さんとアリスさんが何を言おうと良いじゃないですか。パチェは為すべき事をしているのですから」

 パイ生地にカスタードを塗り、その間にイチゴを挟んでゆく。思いついて、一つを手に取る。黙って聞いていたパチュリー様はまた深くため息。

「全くその通り。ご免なさい。今日は私、本当にどうかしているわ」

「謝る必要も無いですよ」

 俺は笑顔でイチゴを無理矢理パチュリー様の口に押し込む。

「ぐむっ」

「パチェは僕らにご命令下されば良いんです。命令という言い方が嫌なら、お願いでも良いです。僕らは喜んでそれに答えましょう。間違えても堂々としてればいいんです」

 パチェはもぐもぐと口を動かしながら、上目遣いに俺を睨む。不意に、その表情が明るくなった。

「おいしい苺・・・・・・」

「季節はちょっと早いですが、人間の里の方に譲っていただきました。良い職人は良い仕事をします。パチェも、一流の魔法使いとして仕事をなさってください」

 言って、作業に戻る。先ほどのモノに、更にパイ生地を重ね、同じようにカスタードとイチゴをのせる。最後にパイ生地を乗せ、粉砂糖を振りかけて出来上がり。

 簡単イチゴミルフィーユの出来上がり。あとはこいつを量産すれば良い。

「ふふ」

 パチュリー様が笑う。

「おかしな話ね。この間は私が宗司に説教したのに、今度は私が諭されてしまったわ」

 俺も苦笑、言われてみればそうだ。

「すいません、出過ぎたことを言いました」

「良いの、有り難う、宗司。でも私は謝るべき時は謝るし、感謝したいときはするわ。私に仕えて貰っている者への最低限の礼儀」

 うん、俺は使えるべき主を間違えていないことを再確認できた。手早く、残りのミルフィーユも完成させる。

「でもそうなると困ったわね。あの計画を実行するしか・・・・・・」

「なんですか? 今不穏な単語が聞こえましたけど?」

「え? いやいやいや、図書館が荒れちゃって困ったなって」

 顔の前で両手をぶんぶんと振って誤魔化すパチュリー様。いや、しっかり聞こえていましたけど。特に気にせずにミルフィーユを皿にのせ、運ぶ。まぁ、悪いようにはならないだろうし。いっか。

 パチュリー様と会議室に戻ると、予想通り小悪魔が質問攻めに合っていた。

「宗司さんはむっつりスケベですよ。時々私のパンツ覗こうとしますし」

「マジで!?」

「今朝なんか抱きしめられちゃいました。さっきだって私のおっぱいを・・・・・・」

 ってこらー!

「こあ! 変なこと言わないでください!」

 小悪魔はばれた! みたいな顔をしていたが、直ぐに開き直ったのか。

「いえ? あること無いこと喋ってただけですよ?」

「余計悪いです!」

 魔理沙さんとアリスさんは明らかに引いている。

「文車、お前そんなやつだったとは」

「パチュリーには求められない生命のたぎりを小悪魔にぶつけていたのね・・・・・・」

 待て! 一体何を?

 小悪魔をみると、さも当然そうに。

「え? だからこの間夜中に激しくお互いをぶつけあったって」

「だから弾幕バトルでしょう!? 同じ事で2回突っ込ませないでください! なんか僕に恨みでも!?」

 絶叫。すると急に小悪魔はさめざめと泣き出して。

「師匠がいけないのですよぅ。私があれほど活人拳を推奨しているというのに」

「そのパターンはもう良いです。いい加減飽きました」

「私に飽きたと!?」

「・・・・・・あんまり物わかりの悪い子にはデザートあげませんよ?」

「わーい! 宗司さんのスイーツは美味しいから大好きです!」

 はぁ。

 幸い、パチュリー様はいつもの事とあきれ顔で静観しているだけだ。

「なんだ、弾幕バトルの話か」

「でも小悪魔のパンツを覗こうとしたところとか否定してなかったわよ?」

「どこまで本当かわからんな・・・・・・」

 微妙に、誤解が解けたんだか解けてないんだか解らない感じだが、どうやら生命の危機は脱したらしい。本日3回目。なんだかんだ言ってパチュリー様の事から注意がそれたので良いと言えば良いのだけれど。恐らくそれを狙ってやったのだと思われる。意味無く俺を貶めたりはしないはず。しかし代償が女性陣二人の不信感ときたもんだ。

 なんだか、小悪魔が俺の評価をあえて下げ、万が一のライバルを減らす作業に入ってる様に見えるのは俺の考えすぎだろうか? まさかである。まさか、ね。

 背筋に悪寒が走ったが、無理矢理押さえつけてデザートを配膳。

「おお! ホントに旨いな! お前只のむっつりスケベじゃなかったんだな!」

 魔理沙さんの一口食べた感想である。

「喜んで良いのか凄く微妙です」

「喜ぶべきね。只のむっつりスケベから、美味しいデザートを作れるむっつりスケベに昇格したのだから」

 と、コレはアリスさん。表情をゆるめているのを見る限り、お気にめしたようだけれど。けれど!

「むっつりスケベは固定なのですね・・・・・・」

 流石に小悪魔のせいばかりではない。強く否定出来ない日頃の自分も悪いのだから。しくしく。もっと自分に厳しく生きよう・・・・・・。

 小悪魔は口いっぱいにミルフィーユを頬張ってむしゃむしゃ食べてるし、パチュリー様は苦笑しながらも否定はしない。しかもこっちを見て、

「宗司」

「はい」

「改善しようと思っても無駄だからやめなさい」

 ひでぇ!? くっ! なんだこの非常に居心地の悪い空間は!

「むしろ改善されたら困る」

「はい?」

「なんでもない」

 それっきり黙ってしまい、ミルフィーユを口に運ぶ作業に戻る。

 わからん。パチュリー様と小悪魔が何を考えているのかさっぱりわからん! 俺は仏頂面で紅茶を啜るしかない。

 ものすごく苦く感じたのは、冷めてるせいだと思いたかった。

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