すれ違う葛藤
霧雨魔理沙(きりさめ・まりさ)。魔法使いの少女。正確には「魔法」を「使」う「人間」。金髪ロングヘアー。金の瞳。半袖パフスリーブのホワイトシャツに、黒いベスト。白いフリルの付いた黒いフレアスカートに、白いエプロン。大きく白いリボンが付いた黒い魔法使いの三角帽子。と、全体的に白黒で構成され、常にホウキを持ち歩いていて、いかにも魔法使い然としている。
よく図書館の本を盗んでゆく困った人だ。パチュリー様もほとほと困っていたようだが、特に対策も講じずに、持って行かれるがままだったのだが。それが急に喧嘩だって?
小悪魔と共に図書館に入ると、そこは既に戦場と化していた。パチュリー様と魔理沙さんが高速で飛び回っている。
「魔理沙っ! 今回ばかりは見逃さないわ! 土水符『ノエキアンデリュージュ』!」
高圧縮の水の弾が、散弾のように魔理沙さんに襲いかかる。衣装袋を背負った白黒の魔法使いは大きく迂回するようにかわすと、悲鳴の様に怒鳴る。
「ちょっと待てよ! なんで今日はそんなに元気なんだ!」
「怒ってるのよ!」
追撃するパチュリー様。それを見て、魔理沙さんは舌打ち。スペルカードを取り出す。
「ちいっ! 星符『ポラリスユニーク』!」
大きな星形の弾を発射。パチュリー様の手前で破裂したかと思うと、そこから大量の小さな星形の弾がばらまかれる。突っ込みかけたパチュリー様は急停止。踊るように上昇すると、星形の弾を次々と回避してゆく。
パチュリー様あんな動き出来たのか。普段動かないからバリアとかで無効化するだけかと思っていたのだが。考えてみれば、彼女の弾幕バトルを見るのはこれが初めてかもしれない。
撃つ、避ける、上昇、下降、加速、減速。基本的にはそれしかしていないのだが、まるで何年も練習してきたダンスを見ているようだった。ばらまかれる弾幕は、対象を打ち倒すものであるのにも関わらず、芸術の様な美しさが在る。
思わず見とれていると、燕尾服の袖を小悪魔に引っ張られた。
「宗司さん! 早く止めないと!」
「え、ええ・・・・・・」
もっと、見ていたい気もする。俺が躊躇っていると、しびれを切らした小悪魔が声を上げる。
「お二人とも止めてください! 本棚が滅茶苦茶になっちゃいますよぅ!」
「そういう訳にはいかないわ」
パチュリー様は此方も見ずに、弾をばらまき続ける。
「いや! 小悪魔の言うとおりだぜ? 本を大切にしているお前がそれでいいのかよ!」
「いつも勝手に持ち出す魔理沙がそれを言う!?」
「うぐ」
言葉につまる魔理沙さん。
なんだかんだ言っても普段は仲の良い二人がここまで衝突するとは。
「それにね・・・・・・」
弾を撃つのを止め、俯いてスペルカードを取り出すパチュリー様。その手ににぎられているのは「賢者の石」のカード。木火土金水、全てを増幅、射出する殲滅魔法だ。
「ちょちょちょ! パチュリー! それはまずいって!」
魔理沙さんはあわてて床に降りると、八卦が描かれた小さな炉を取り出す。
「貴女が今持って行こうとしている本は、宗司がくれたものなの!」
どきん、と。こんな状況にもかかわらず、胸が高鳴ってしまった。そして、考える前に体が動いた。
スペルカードから魔力が放出される。パチュリー様の周りに五つの、それぞれのシンボルカラーのクリスタルが展開。輝きを放ちはじめる。魔理沙さんの八卦炉にも、魔力が収束。
「仕方がない、マスタースパー・・・・・・」
その力在る言葉は、最後まで言われることは無かった。
俺はダッシュで魔理沙さんに近づき、パチュリー様に向けた八卦炉の手を取って、後ろに捻り上げる。
「うおっ?」
逆腕も取って拘束。最後に膝裏を崩し、ひざまずかせて終了。
「いてててててて! こら! 文車! 手加減しろ! あたしはか弱い女の子だぞ!?」
目に涙を浮かべて抗議する魔理沙さん。
「幻想郷のプレイガールが何をおっしゃいますか」
「あたしは遊んでるだけだって!」
「男が言ったら殴られる台詞ですよ? それ」
もしくはフラグ立てまくって全員から爆弾食らうかだ。
「宗司・・・・・・」
パチュリー様は賢者の石を納めると、此方にやってきた。小悪魔も小走りにやってくる。
「パチェ、お気持ちは察しますが、図書館を破壊するのはいかがなものかと」
「あ・・・・・・」
パチュリー様が何か言う前に此方から諫言する。図書館は本が散らばってぐちゃぐちゃになっていた。こりゃ片付けるの大変だぞぉ。
「今日は朝から暴れすぎですよ。いつもの冷静なパチェはどこにいったんですか?」
主人に意見出来ないようでは、執事たる資格もない。それにこれは俺からの我が儘だ。俺の主なら、もっとクールで居て欲しい。
「だって・・・・・・。いえ、そうね。ご免なさい」
頭を下げるパチュリー様。こころなしか、しょんぼりして見える。いや、してるんだろうけれど。
「宗司さん、パチュリー様は」
「ですが」
フォローをしようとした小悪魔を遮る。そのくらいは自分でやりますよ。
「お気持ち、嬉しいです。そんなに大切にしていただけているとは思いませんでした」
パチュリー様は顔をパッとあげ、反射的に言葉を出そうとしたが、俺に拘束されている魔理沙さんの視線に気付いて、ついと目をそらす。ふてくされた表情で。
「べっ、別にっ。その本が特別面白かったから持って行かれるのが嫌だっただけで、宗司がくれたから大切にしてるとか、そんなんじゃないわ。ちがうんだからね!」
パチュリー様が自爆だとっ!?
笑い出しそうなのを苦笑に留める。見事なまでのツンデレ式自爆。魔理沙さんの前で格好が付かないと思ったのだろうけれど、完全に逆効果だ。案の定。
「はいはい、痴話喧嘩はいいから。そんなもの犬も食わないぜ? いいから文車に離すように言ってくれよー。腕が痛くて」
「宗司」
「イエス、マム」
関節と逆方向に腕を捻る。
「いだだだだだだ! お、おおい小悪魔! 何とかいってくれよ〜」
今度は小悪魔に助けを求めだした。小悪魔は頭の羽に手をかざすと、羽をぴこぴこと動かしながら神妙な表情をして。
「む、おかしいですね、圏外かなー? もしもし魔理沙さーん?」
幻想郷に携帯電話はない(電話もない)ので、恐らく外の世界から迷い込んできた人間のまねをしているのだろう。小悪魔も図書館の本を持って行かれるのは快く思っていなかったわけで、助ける理由は無いと判断したようだ。
「〜〜〜っ。 おまえらーっ! わかった! 悪かった! 謝るから! 本も返すから、いい加減離してくれー!」
「パチェ、どうしますか?」
「反省してるみたいだし、離してあげて」
「イエス・マム」
拘束を解く。魔理沙さんは手首をさすりながら恨みがましそうに俺を睨んだ。
「文車さぁ、いくら主の命令だからって、ちょっとは手加減してくれてもいいんじゃないか?」
「日頃の行いでは?」
「心外だなぁ。あたしは清廉潔白が売りなんだぜ? 真っ正面から堂々と盗みに入るのになんか問題あるか?」
個人的に大好きなキャラクターの真似をされたようで、ちょっと凹む。真っ向から正々堂々不意打ってご覧にいれましょう。ってゆう。
まぁそんな個人的な感情は別にして、屁理屈には違いないのだけれど。本人曰く、「盗んだんじゃ無くて、死ぬまで借りていくだけだ」とか。どちらにしろ迷惑な事には変わりない。パチュリー様も口が上手い方ではないから、魔理沙さんみたいな口八丁の手に掛かるとどうしようもない。
それ以上に、この活発な魔法使いの事を気に入っているからというのもあるだろう。自分には無い行動力や、外でなければ得られない知識を持っていることも。
「とにかく、その本は駄目。ここで読む分にはかまわないから」
パチュリー様はそう言って魔理沙さんから袋ごと返して貰い、近くのテーブルに着く。そこにはアリスさんがいた。
「アリスさん、一緒にいらっしゃったんですか」
「ええ、魔理沙に誘われてね。私も丁度暇だったから」
今まで何事も無かったかのように紅茶を啜っている。
「止めてくださったら良かったのに」
「私が? 魔理沙を? 冗談」
全くその通りで御座います。この三人は仲が良い。確かにアリスさんだと魔理沙さんを止めるのは難しいだろうし、とめても無駄なのを一番解っている。
「収まったんだから良しとしましょう?」
「そうだぜ? やっぱりアリスは良い奴だな」
「褒めても何も出ないわよ?」
そっけないが、ちょっと照れてる? アリスさんは人形遣いだが、その容姿も人形じみているため、ちょっと怖い。いや、人形みたいだから怖いんじゃなくて。人形みたいな容姿で、アリスっていう名前。俺がここから連想するのは魔界に住む暴君、魔人アリス。もっともここは幻想郷だから、多分、いない、ハズ。いてもおかしくないけど。
とにかくかたさないと。このままにしとくわけにもいかない。
「パチェ、片付けにこあをかりてよろしいですか?」
「ええ、お願い。ごめんなさいね?」
いや、もう慣れましたがね。なんだか誰か来るたびに本がばらばらになってる気がする。もしかしなくてもコレが図書館の仕事だろう。
「じゃあお昼ご飯少し遅くなりますけどー?」
小悪魔が確認を取る。ああ、そういえばお昼だったっけ? なんだかあまりおなかが減ってる気がしないのは、どたばたしていたからだろう。
「仕方がないわ、このままじゃ落ち着いて食事も出来ないし。私のせいだけど」
「まったくしょうがないなー、パチュリーは」
イスにふんぞり返って魔理沙さん。自分もその一端を担っているというのにこの発言。
「あのねえ・・・・・・」
パチュリー様も言葉が出ないらしい。俺は取り敢えず手近な所から本を拾い集める。げ、何で奥の書棚の本がこんな所に。ざっと見たところ、いろんなところの本が散乱している。恐らく魔理沙さんが手当たり次第持ってきたのだろう。片付ける方の身にもなってくれ。思ったより時間がかかりそうだ。
「パチェ、かなり掛かりそうなので、地上で昼食を食べてきては?」
パチュリー様はそれを聞くと、眉根を寄せたが。
「いいわ、待ってるから。あなた達と食べたいし」
「えー、せっかく昼食にありつけると思って来たのに」
「あの、魔理沙さん? そのつもりで?」
「そうだぜ?」
本棚荒らした上に昼食をごちそうになりたいとおっしゃりやがるか、この魔女は。俺はため息。
「こあ、やっぱり本棚は僕一人で片付けますから、こあは昼食の用意を。5人分」
「いいんですか? 大変ですよ?」
「ええ、取り敢えずまとめておけば見栄えはなんとかなりますから」
成る程、と小悪魔は言うとキッチンの方に向かっていった。
「あら、私の分も用意してくれるの?」
コレはアリスさん。このタイミングで言うのは嫌らしいと思う。
「当たり前じゃ無いか、アリスも喰ってけよ」
お前が言うな。なんだか疲れてきたので特に突っ込みも入れずに片付けを開始。取り敢えず手近なところから整理していく。「ウサギの美味しい食べ方」は・・・・・・。分類順に判別。てきぱきと整理していく。整理の仕方も中々堂に入ってきた。書棚の位置も把握しつつある。
片付けている間、パチュリー様達の会話が聞こえてきた。
「なぁ、パチュリー。あの文車ってやつの事どう思ってるんだ?」
「何よ突然」
「私も気になるな。聞かせてよ」
俺は現在死角にいて、彼女たちからは見えない位置にはいるが、ちょっと軽率じゃないかい? そんな俺の思いも知らず会話は続く。
「どうって、別に。執事だもの。頼りにしてるだけよ」
「だからそれが気になるんだよ。お前が執事を雇うなんて、それも頼りにしてるなんて普通じゃないぜ」
「そんなにおかしいかしら?」
「おかしくはないけれど、珍しい事は確かよね。他人をこの図書館に住まわせるなんて」
「・・・・・・」
「だよなぁ、あたしが最初にここに来たときからは想像も付かない」
魔理沙さんが最初に会った頃のパチュリー様、か。ちょっと気になる。
「それは魔理沙が不法侵入してきたからでしょう? 美鈴から小悪魔からのして来ちゃうんだもの。警戒もするわ」
「魔理沙そんなことしてたの!?」
「あっ、あれは赤い霧の原因究明のためにだな・・・・・・」
「おまけに紅魔館までぼろぼろにしてくれちゃって。あのあとフランをなだめるの大変だったんだから」
「あの妹はおかしいだろう! さすがに死ぬかと思ったぜ!」
「貴女は人間なのに殺しても死ななさそうね」
「そこはパチュリーに賛成。魔理沙は幻想郷が崩壊しても生きていそう」
「お前ら・・・・・・」
こっそり俺も賛成。あれだけ図太い神経をもっていれば何処でだって生きていけるだろう。いま書棚に収めた本が「サバイバル大百科〜コレであなたもサバイバー〜」だと気付く。なんつーセンスの無いタイトル。
「つうか話逸らすなよ! あのムッツリ書籍妖怪の話だろ?」
吹き出しそうになるのを飲み込む。ムッツリ書籍妖怪!? だいたいあってるじゃねえか畜生! パチュリー様は「気付いたか」と一言。本を閉じる気配。
「即物的な事を言うようだけれど、彼の能力を私は買っているの。あんなレアな能力を手放すわけ無いでしょう」
突き放すような、冷たい口調。
「本気で言ってる・・・・・・?」
あまりにも冷たい口調だったためだろう、伺うようにアリスさん。
「本気よ、私は本と共にあるのが本分。彼の能力はぴったりじゃない?」
うーん。言葉に真実が感じられないから本気じゃないけど。嘘でもはっきり言われると辛いモノがあるね。
「嘘だな」
「ホントよ」
「じゃあお前の言動全部演技だってか? ないね。演技じゃあれはできないぜ」
流石に見抜くか。というかパチュリー様がこんな底の浅い嘘を吐くっていうのも理解できないところではある。
「・・・・・・正直」
「うん?」
「私にも解らないのよ。そう思った時期もあって、色々と理由を考えてみたわ。でもどれもしっくり来ない。どれも宗司をここに置いておく為のいい訳にしかならないような気がするの。さっきの事も含めて、ね。いて欲しい理由にはならない」
「パチュリー、それ」
「宗司に居て欲しいのに、その理由が解らないのよ。それを彼に伝える事が出来ないから、色々してあげたいのだけれど、うまくいかなくって」
気がつけば、本を整理する手を止めてパチュリー様の言葉に聞き入っていた。
「ねえ? 二人とも、どうしたら良いと思う? 何かしないと、宗司が離れていっちゃいそうで。いえ、そんなことは無いと思うけれど。でも何て言うか」
「気持ち的にって事?」
「うん」
「なあパチュリー。お前自分で答え言ってるの気付いてないか?」
「え?」
そこまで聞いた所で、こっそりと奥に移動する。なんだか、聞いて良い話では無いような気がしたのだ。いや、俺の事なんだから聞いて悪いって事は無いんだけど。
顔が熱を持っているのが解る。パチュリー様に自覚がないとはいえ、まさかそこまで想って貰っているとは思いもよらなかった。執事としてでは無く、個人として。さっきの自爆までの流れだって、そこまでの感情では無いと思っていたが。
ただ、ここに来て自分も思い知る。俺もパチュリー様の事が好きらしい。何を今更とか思うかも知れないが、俺のパチュリー様に対しての好意は、忠犬のそれだった。恩を受けた人物に対して何処までも忠実で在ると言うモノ。
だけどこれは忠誠とか、恩とか、そんな事は抜きだ。一目惚れなんてきっかけに過ぎないと思っていた。でもそれは大きな間違いで・・・・・・。
雑念を振り払い、書棚の整理に取りかかる。だめだ、それじゃあ俺が俺で無くなる。そんな事を認めてしまえば俺の我が儘は単なる自分の為だけの我が儘になってしまう。パチュリー様に喜んでいただくことを第一に考えなきゃならないのに、自分の事で彼女を煩わせるわけにはいかない。
今考えてみればこの理論も破綻していたのだけれど。このときの俺は素直さというものが欠落していた。多分、照れていたんだと思う。そのせいで暫く苦しむ事になるんだけど。
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