「油断も隙もないな」

 こめかみを押さえながらにやりと笑って見せるイスクさん。ぞくりと、背筋に嫌な汗が走る。どうやら、スイッチを入れてしまったようだ。ここからは死んでも自己責任。そんな感じの笑みだ。

 イスクさんは左腕を地面に打ち付けると、爪を食い込ませて固定。やや低い姿勢を取る。対して俺は六角棒を前面に構えて突進。どんな攻撃が来ても対応が効くようにする。

 イスクさんは更に身を沈め、体を撓める。刹那。左腕を起点として自ら弾丸のように此方に跳ぶ。まずい! 相対距離は既に間近。突進威力は向こうの方が高い、ぶつかればぺしゃんこになるんじゃないか?

 あわてて六角棒を地面に突き刺してブレーキ。棒高跳びの要領で、スピードのベクトルを上方に変えて飛翔する。恐らく後方に抜けるハズだから、後ろからの攻撃が可能となるはず。着地と同時にどついてやる! ここでもまた俺の読みは甘かった。「機械仕掛けの神」を地面に叩きつけてブレーキ。そのまま、地面を殴って飛び蹴りをしかけてくる。本人は意識したか知らないが、中国拳法の穿弓腿に似ていた。違うのは、跳んだ後に攻撃判定があるということ。

 無理矢理体を捻って、上段から蹴り足めがけて六角棒を振り下ろす。激突。一瞬、その状態で固まり、俺は後方回転で着地、イスクさんは落下するも、左手を再び地面について着地する。

 すかさず攻撃。正中線を狙った三段突き、左回転からの棒による足払い、フェイントを織り交ぜた突き上げと連続で仕掛けていく、何発かは命中するものの、クリーンヒットは一発もない。何しろ防御範囲が広い。左半身は殆ど狙えないから、狙うのは右半身に限定される。接近しようにも盾の様に「機械仕掛けの神」を構えているため阻まれる。

 美鈴さん位の勁力があれば、そのまま吹き飛ばす事も可能だろうが、生憎そんな威力のある打撃技は持ち合わせていない。さっきの様な奇襲はもう通用しないだろうし・・・・・・。

 意識しないうちに自分自身じれてきたのか、甘い踏み込みの突きを出してしまう。そこを狙われた、左腕に六角棒をがっちりとつかまれ、引き寄せられる。ぎりりと、弓のように引き絞られる右腕。インパクトのある左腕のせいで解らなかったが、イスクさんの右腕は鋼の様に鍛え上げられていた。握られた拳がひらいてゆき、手刀となる。放たれれば矢となって俺の左肩を貫くだろう。

 超集中。思考時間を引き延ばす。正確には思考速度を上げるのだけれど。許された時間はコンマ5秒。この体勢で反撃する術は・・・・・・。

 手刀が放たれた瞬間、首を振って無理矢理体勢をずらす。手刀は俺の左肩を掠めて抜ける。激痛。恐らく多少肉を持っていかれた。それを無視して左肩の付け根をめがけて痛めた左肩を叩きつける。再び激痛がはしるが、これも無視。イスクさんがぐらつき、六角棒の拘束が緩む。

 引き抜き、短くバックステップ。斜めに回転、逆袈裟に六角棒を叩きつける! イスクさんは右腕でガードするも、完全に体勢が崩れる。

振り向いた所に、六角棒の先を鼻先に突きつけた。

「っはぁ、はぁ、はぁ」

 激しい呼吸。それが自分のモノだと気付くのに、数秒かかった。勝・・・・・・った?

「そこまでです!」

 美鈴さんの声がかかる。

「見事だ、宗司」

 イスクさんにそう言われて、俺は膝を付く。全身から嫌な汗が流れ出していた。最後の手刀を放った時のイスクさんの表情はやばかった。殺気、と言うより喜悦に近い気配がした。それを思い出したらコレである。

「いや、もう貴方が怖くて無我夢中でしたよ・・・・・・」

 そんな言葉が出てきてしまった。

 イスクさんが左腕を掴んで引き抜くようにすると、「機械仕掛けの神」は一瞬で元の処刑剣の形に戻っる。

「すまんな、どうにも、夢中になるとこの左腕に引っ張られてしまう」

 剣を見つめながら、呟くイスクさん。

「それって」

 俺が疑問を口にしようとしたとき、拍手が聞こえてきた。

「んー、面白かったわ。まさかイスクが負けるとは思わなかったけど」

 お嬢様だ。やはり日傘を差している。一人だ。

「すまん、レミリア」

「いいのよ、紅魔館に強いのが揃うのは良いことだし。かなりギリギリの所だったようね」

 俺の左肩をみて、お嬢様が言う。今更になって、えぐられた傷が痛み出した。深くはないようだけど、痛いモノは痛い。この燕尾服はもう駄目だなー。上着だけでも脱いでおけば良かった。

「大丈夫ですか?」

 美鈴さんが近づいてきて、傷の具合を見る。とたんに顔をしかめた。

「酷いですね、上着脱げますか?」

「いや、燕尾服ももう駄目なんで、袖ちぎっちゃいましょう」

 肩口の辺りから中のシャツごと袖を千切る。自分で傷口をみると、うわ、ひでぇ・・・・・・。かなりのグロ表現になるので詳細は省く。まぁ、トマト潰して練ったみたいな。

美鈴さんが手早く応急処置を始める。

「宗司さんやっぱり凄いですね、今私と戦っても勝てるんじゃ?」

「んん、どうでしょうね。正直勝ったのが信じられません」

「どうやら宗司は危機に陥って初めて実力が出るタイプのようね」

 お嬢様が言う。

「でもそれは危険な事。普段から全力が出せるようにすることね」

「精進致します」

 苦笑。その通りだ。ぼけているつもりはないが、普段から危機感が欠けているのは事実かもしれない。そのせいで前回パチュリー様を危険な目に遭わせたとも言える。

「イスクも。まだ『機械仕掛けの神(それ)』。制御しきれないみたいね」

「ああ、殆ど攻撃に使わなくてもこのざまだ」

 剣を一振り、いずこかに消える。さっきイスクさんがこれ以上怖いモノは無いと言っていたように、どうやら相当危険なもののようだ。

「完全体にはまだなれないか」

「ああ、危険過ぎるな」

「完全体?」

 思わず口を挟む。完全体って、怪獣か何かか?

「その内みることになると思うわ、その時はまた手合わせしてみたら? 驚くわよー」

 悪戯っぽい笑みを浮かべてお嬢様。嫌な予感しかしない。ちょっとそれは遠慮しておこうかな。美鈴さんをみると、首を横に振る。美鈴さんも知らないのか。

「止めろレミリア。悪戯に使って良いモノじゃない」

「冗談よ。宗司なんかぷちっとなってしまうでしょうね」

 やべー。怖い物見たさがあるかも。でも見ないに越したことはないんだろうな。

「あまり面白い話ではないからな。あまり聞かないでくれ」

「私は面白いけど?」

「・・・・・・レミリア、話はおわったのか?」

 話題を変えるイスクさん。

「ええ、終わったわ。咲夜はもう仕事を始めてるから、2人とも戻りなさい。その前に・・・・・・」

 お嬢様は此方を交互に見て。

「取り敢えず着替えなさい。その格好でうろつかないで」

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