幻想入り徒然物語参

第参話

お出かけ

 秋もすっかり深まり、冬の気配が感じられるようになった。朝の空気はとても冷たく、吐く息は白い。空を見上げれば、冬独特の低い青が出迎える。幻想郷に来てから、意識して空を見上げたのは初めてかもしれない。元いた世界も、幻想郷も空の蒼さは変わらない。

「いやー。良い朝ですね」

 紅魔館の門前で伸びをしながら、隣にいるパチュリー様に話しかける。視線をこちらにちらりと向け、直ぐに前方に戻すと、ぽつり。

「寒いわ」

 そっけない。まだ怒っていらっしゃるようで、昨日の夜からまともに話をしてくれない。なんだかなー。この一週間四六時中側にいろと命じられたけど、この調子だとかなり厳しい。そう、俺はおしゃべりなのだ。気付いたのは此処にきてからだけど。それを差し引いても、今のパチュリー様の対応はきつい。此方の質問や問いかけに自分の心境を一言言ったきり、黙ってしまうのだ。会話のしようがない。

 手持ちぶさたにその辺を観察。こちら側からは湖は見えない。目の前には森が広がるだけだ。そんなに深い森ではないが、ちゃんと道があるため好きこのんで入る者は少ない。ただ、それなりに動物は居るらしく、咲夜さんは食材をここから調達してきたりする。兎と野鳥が絶品。

 館の方から走る音。振り向くと、美鈴さんがやってくるのが見えた。手には大きめの紙袋。

「おまたせしましたー」

 息も切らさずやってくると、俺たちの前で停止。紙袋を差し出しながら。

「はい、特製弁当と美鈴印の元気ドリンクです」

 にこやか。

「有り難う御座います。お手間を取らせて申し訳ない」

 俺がいうと、美鈴さんは気にしないでとでも言うように掌を此方に向ける。

「いいんですよ。パチュリー様がお出かけになるんですから。これくらいのことは」

 そうなのだ。なんとパチュリー様がお出かけになるのである。少なくとも俺が此処に来てから主が出歩く姿をみた事がない。せいぜい庭までだ。本格的に外出となるとコレが始めてである。もっとも、異変解決やなにやらで外に出ることは有ったらしいが、珍しい事に変わりはない。

 出かける先は博麗神社。霊夢という巫女が管理している、外の世界と幻想郷の境だ。俺も行くのは初めて。といっても、人間の里以外には行ったことがないので行く場所は殆ど初めてな訳だが。

 今回の騒動について、巫女に話を聞く。ここまでの騒動に博麗霊夢が動かないのはおかしいと、昨晩パチュリー様と話し合ったことだ。レミリアお嬢様に提案をしに行った、まではいいのだが。

「で、誰が行くの?」

 お嬢様の言葉に主は以表を突かれたか、ちょっとびっくりした顔。

「え? 咲夜かイスク辺りに頼もうと思っていたのだけど。なんならレミィに行ってもらっても」

「私は嫌」

 即答。肘掛けに腕を乗せ、手の甲で顔を支えながら憂鬱そうにため息。

「今は霊夢と会いたくない」

「珍しいわね」

 主がさして珍しくも無さそうに言うと、お嬢様は左下に視線を向ける。

「こないだ喧嘩してね、あっちが謝ってくるまで許してやらない」

「そう」

 またか、といった感じでパチュリー様が頷く。察するにしょっちゅう喧嘩しているらしい。お嬢様と喧嘩して無事でいる人間に、ちょっと興味が出てきた。

「レミィが行きたくないのは解った。咲夜とイスクは?」

 そう言えば二人の姿が見えない。いつもどちらかが常に付いているはずなのだが。

「咲夜はちょっと忙しいのよ。だから代わりに咲夜の仕事をイスクにして貰っているわ」

「そうなの・・・・・・」

「美鈴は門番だからだめ、今紅魔館で博霊神社に行けるのは」

 指おり数えながら名前を挙げていくお嬢様。

「フランドール、妖精たち、小悪魔、そこの宗司に」

 最後に小指をおって、パチュリー様を見る。

「貴女」

「ふう」

 ため息をつく主。

「フランと妖精に行かせても確実に途中で用件を忘れるし、覚えててもまともに報告なんかできないでしょうね」

 うん、ほぼ100%そうなる。俺でも選択肢にそこは含まないだろう。

「小悪魔に行かせても良いのだけど・・・・・・しょうがない」

 パチュリー様は此方をみると、またもやため息。

「まぁ、良い機会ね・・・・・・」

 ぼそっと呟く。

「はい?」

「なんでもない」

 いつもよりやや低いトーンの「なんでもない」だ。むぅ。

「レミィ、私と宗司で行くわ」

「あら、パチェまで?」

 すっと、顔をあげて、目を丸くしながらお嬢様が聞く。

「ええ、ちょっと」

「ふーん」

 なにやら疑わしげな目で此方をみるが、目を細めてにやりと笑うと。

「解ったわ、行ってらっしゃい。襲撃に対する準備はしておくから。と言っても食器を片付ける程度だけどね」

「ええ、お願い」

 主は、お嬢様ではなく俺を見て言った。

 とまあ、こんな感じだ。パチュリー様とお出かけである。ただ、主の機嫌がすこぶる悪いので楽しいお出かけにはならないだろうけれど。あーうー。

 取り敢えず、美鈴さんに渡された紙袋の中身を見る。大きめの弁当箱がひとつと、瓶に入った液体が2瓶。ドリンク? の分量に対して重さが無いので、弁当箱の中身は恐らくパン系統の何かと思われる。しかし・・・・・・。

「なんでしたっけ? このドリンク?」

「美鈴印の元気ドリンクです!」

 胸を張って言う。

「飲めばたちまち元気百倍! そこな日陰少女もたちまちパワフル魔法使いに大変身!」

 パチュリー様を見れば、興味無さそうに瓶を持った俺の手元を眺めている。

「誇大広告もいいとこです。怪しいなぁ・・・・・・中国産?」

「失敬な!」

 俺の発言に美鈴さんは憤慨する。腰に手をあてて。

「私の知識の粋を持ってして漢方薬をブレンドしたものです。騒がれているような一部の悪徳工場と一緒にしないで下さい! それから私と中国と掛けましたね!?」

 はい掛けました。俺は黙って美鈴さんの反応を見る。

 腕を組んで頷く美鈴さん。

「ちょっと上手いじゃないですか」

 いいのか? それで? 認めちゃうんだ・・・・・・。

 どうやら名指しで中国と呼ばれない限り文句はないらしい。

「宗司」

 主から声がかかる。ちょっといらいらした様子で。

「何時までも中国といちゃついてないで行くわよ」

 そう言い放つと、背を向けてさっさと歩き出す。うーん・・・・・・。

「パチュリー様お機嫌悪いみたいですが・・・・・・」

 それを見た美鈴さんが不安そうな顔で俺を見る。

「ええ、ちょっと、ありまして」

「浮気ですか?」

「違います」

 何をいうかこの中華人民共和国親善大使が。と、言いそうに成るのを喉の奥で堪える。俺も余裕無いなー。

「僕の不甲斐なさが招いた結果です。なんとかご機嫌直していただこうと思ってはいます」

「成る程、小悪魔に手を出したと」

「違います。耳どこについてるんですか?」

 美鈴さんはいやーと、髪の毛を掻きながら。

「昨日の小悪魔と宗司さんのやりとりから想像して、誘惑にまけたのかと」

「まっ、負けてません!」

 うあ、少しどもった。ちょっと傾いた事があるのでその後ろめたさが出たようだ。・・・・・・いや、後ろめたいのか? 俺。だって。

「そもそも僕とパチェはそういう関係と違います」

 ある種の罪悪感ではあっても、後ろめたさや浮気のような裏切り行為に感じるものとは別の、ハズ。

 俺の台詞に、美鈴さんは肩をすくめて。

「そう思っているのは宗司さんだけだと思いますけどね」

 ・・・・・・。今のところは困った認識、としておくべきか。色々とずれている。俺が。

「ほら、宗司さん。あんまり待たせるとまた機嫌悪くされますよ?」

 見れば、パチュリー様が先の方で此方をみている。眠たそうな無表情。

 あー・・・・・・。

「では、行って参ります」

 だっしゅ! あの表情は有る意味危険に近い。

「いってらっしゃーい」

 美鈴さんの声を背中で聞きながら、主の元へと駆け寄った。


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