前提

 薄く笑ったまま、西行寺幽々子は黙して語らない。その表情からは、どんな答えを持っているのかを読み取るのは難しいように思えた。

 実際、解らない。

 正直、好意的には見えない。だからと言って、敵意があるようにも見えない。もっとも、このくらいの人物ならば真意を隠すことなど造作もないか。

 主も答えを促すような事はせず、じっと、亡霊が語るのを待っている。待つのはパチュリー様の十八番だ。典雅も、何も言わずにじっとしている。さっきから大人しいのは、彼女なりに色々と考えることが有ってのことだろう。

 やがて開かれた口から出てきたのは俺を安堵させるに充分な答え。

「そうねぇ〜、此処で文車君を捕まえて解決するなら考えるけど、そうじゃないでしょう〜?」

「良くわかってるじゃない」

 深呼吸するように息をはく。主もひとまず安心したようだ。

 幽々子さんが短絡的な考えの持ち主で無かったことに感謝。だてに白玉楼の主はやっていない。

「そんなことで解決するなら〜、あのコウモリがさっさとやってるでしょ〜?」

『それは無い(です)』

 俺とパチュリー様の声が被る。

 その発言はお嬢様を理解していない証拠である。トラブルを未然に防ぐなんて考えは、あの赤い月の吸血鬼には微塵もない。むしろ自分からトラブルを呼び込むのが趣味と言っても良い。

「あら〜そう?」

 俺と主の言葉に面食らった様子だが、さして気にした風もなく続けた。

「なんだかバタバタして良くわからなくなっちゃったわね〜。結局どうなってるの〜?」

「貴女からも話を聞けていないしね」

「あら? そう?」

 再び。

「私が話せるのは〜。雪華って娘とあの死人が何かしら関係が有るって事だけよ〜?」

「今更ね」

 すっぱり。いや、そう言わんでも。ああ、幽々子さんが微妙に悲しそうな顔を・・・・・・。

「あのさ。結局なにがどうなってるのさ? 協会と死人の問題名ワケ? その何が問題なのか良くわからないのさ。あたしの頭脳を持ってしても」

 典雅が口を挟む。長々と考えた末の典雅の結論は、「わからん」だったらしい。後半の台詞は無視。典雅は頭は良いけれど話が複雑になると考えるのを放棄するきらいがある。

 実は俺も多少混乱しているので、整理しておきたいのだが。

「ここらでまとめましょうか? ちょっと情報量が多すぎて何かを見失ってる気がするんですが?」

 俺の言葉に主は頷くと、幽々子さんに向かって。

「良いかしら? 第三者に聞いてもらえると、見えない部分とか見えてきそうだし」

「構わないわよ〜。私も協力させてもらうわ、関係無い話じゃ無いでしょ〜?」

 そう言って、急須を手に取る幽々子さん。微妙にあぶなっかしい。さすがにここで手を出すわけにはいかないが。

 さて。

「では僭越ながら私がまとめさせていただきます。魔術師協会が襲ってくることは決定事項ですので、そこは割愛します。現在の問題としては、死人の存在。これにつきます。彼がいったい何者なのか? それが焦点ですね。彼の行動如何によってはこちらが問題を2つかかえる事になりますから。重要なのはここです。明言はしていませんでしたが、そういうことです。宜しいですか? 宜しいですね。典雅、寝ないでください。ではまず。此処までのことで判明していることを並べさせていただきます。

 死人の正体は召喚されたモノ。

 死人は、正確には「死人使い」は以前幻想郷に居たことがある。

 阿求氏の話によると、死人使いは幻想郷を護ると言った。

 幽々子さんの話から推測するに死人使いと魔術師協会は関係がある。

 ただし死人使い及び死人は単独でうごいている節がある。

こんな所です。此処に矛盾点がいくつか。幻想郷を「護る」と言っているのに博麗神社が襲われました。幻想郷を護るならば博麗神社は絶対不可侵です。推測されるのは死人使いが趣旨を変えた可能性。或いは何らかの理由があっての事。いずれにせよ敵対行動に出ている以上、火種のひとつには変わりないですが。協会側が捜していたとなると・・・・・・、ちょっとやっかいかもしれません。敵の1人に含まれる可能性が出てきます。逆に、協会の敵で有る可能性・・・・・・、第三勢力の可能性も有りますが、先ほども述べた通り「敵の敵は味方」とは行かない模様。八雲紫の次に何を考えているかが解らない。このままだと出たとこ勝負になりかねません。魔術師協会との関係さえはっきりすれば、解るかもしれませんが」

 言葉にしてみて解ったが、酷く曖昧だ。なにも解っていないに等しい。主も幽々子さんも。難しい顔をしている。

「宗司君」

 典雅が青い顔で言う。

「もっと解りやすく」

 この娘は・・・・・・。

「つまり敵か味方か良くわからん。という事です」

「襲われたのに?」

「襲われた理由次第ですね。全てが敵ならそれはそれで良いですが、協会側の刺客となるとちょっと・・・・・・いえ、かなり厳しいです」

 典雅の顔から、はてなマークが消えない。

「でも倒したんでしょ?」

「召喚されたモノは死にません。還るだけです。一時的に呼び出せなくはなりますが、消滅したわけではないですから・・・・・・って典雅はヘルシング郷の授業受けてたでしょう?」

「寝てたさ」

 そうかい。

「事も無げにそんなことをおっしゃる貴女には良いモノをあげましょう」

 良いモノと聞いて身を乗り出してくる典雅。目がきらきらしている。うむ、ご期待に添えるようなモノをあげようじゃないか。

「なになに?」

 俺は懐から一冊の本を引き出す。

「頭が良くなる本です」

「えー・・・・・・」

 露骨に顔をしかめる。残念さと、疑問符が一緒に成った顔。

 そんな典雅に俺はにこやかに本を手渡す。

「ホントですよ? 試してみてください」

 それを聞いて釈然としないながらも本を手に取る。

 良し、黙らせた。典雅には悪いが、まとまる迄は黙っていて貰おうか。

 考えていたパチュリー様が、ふと顔をあげる。

「宗司、死人使いは敵として認識してしまってもいいんじゃないかしら?」

「そうですか?」

「襲ってきた事には変わりない訳だし。魔術師協会が今の時点で捜して居るとなれば刺客である確率は相当高いハズよ。万一そうでなくても、勝手につぶし合ってくれたら良いのだから」

「ふむ」

 全くその通りなのだけれど。なんだろう。なんか、違う気がする。どこだ? 何を見落としている?

「幽々子さん、雪華が尋ねて来たときどんな様子でした? その、死人について聞いたとき」

「そぉねぇ〜」

 開いた扇子で口元を隠す。どうやら癖らしい。そのまま上目遣いで俺を見ると。

「感じられたのは『心配』『不安』かしら〜? 気遣っているような印象だったわ〜」

「ほら」

 いや、ほら。と言われましても。確かにそうなんだけどさ。どうにも、納得がいかない。

「なら、宗司が敵とは断定出来ない理由を教えてくれる?」

 俺の表情から読み取ったのか。主が俺の意見を促してくる。

「いや、それが、僕にも良くわからなくて・・・・・・」

「何よ、それ」

 俺の言葉に深くため息を吐く主。

「そんな不確かなことで悩んでる訳なの? いつもならそんな思考はしないでしょう?」

 いや、ごもっとも。だけどこの引っかかり方はおかしい。無視しては重大な間違いを犯すと脳の奥が言っている。

「そーしくーん」

 典雅が復活。

 しまった! 思ったより時間を稼げなかった!

「なんですか? もう読み終わったんですか?」

 知らず、言葉に刺が混ざる。

「違う。難しくて読めない。無理。何コレ」

 そんなハズは無いと思うのだけれど・・・・・・? 優しくて図解入り、どんな人でも文字さえ読めれば読破可能な素敵本だったはずだけれど?

「そんなに難しいですか?」

「なんで心理学の話に哲学とか三平方の定理とか化学式が混ざるのさ?」

「あれ?」

 典雅の読んでいた本のタイトルを見る。

「頭が良くなる本−超宇宙心理学編−」

 ・・・・・・。

「ごめんなさい。間違えました。サブタイトルまで気にして無かったので、違うの引き出したみたいです」

 正直、人間が読める本では無い。著者不明。作成年代不明。だがどんな書店にも置いてあるという謎の本だ。因みに最新版は第932版である。

「これ読めるの魔術師協会の会長位じゃあ?」

「ですね、済みませんでした」

 そうか、あの人がいたっけ。

 ん?

 あれ?

 あれあれ?

「あああああああああああああああああ!」

 突然の俺の叫び声にびっくりする一同。でも俺はそんなことに構ってなど居られない。

「そうだよ! 俺何でこんな事に気付かなかったんだ! つうか最初に考えろよ! やーべー。俺やーべー! 馬鹿にも程があるぞ!」

 興奮のあまり敬語をすっかり忘れている俺。余りの豹変に、一番びっくりしているのは主だった。目を見開いて俺を凝視している。

「そ・・・・・・宗司?」

 声を掛けて来るも、俺の耳には届いていない。今思い出した事を起点に思考開始

「パッチェちゃん。このときの宗司君は凄いから、黙って見てて」

「え・・・・・・ええ」

 そんな会話が遠くで聞こえたが気にしない。結果が、出た。

「おっけー」

 呟く。

「おにゃ? 随分と早いじゃないのさ?」

「情報が少ないですから。本来なら特にこんな思考なんてしなくていいんですが、つい」

 大半はどう伝えるかを纏めただけだ。特に難しい思考はしていない。

 パチュリー様と、幽々子さんにむかって頭を下げる。

「お見苦しい所をおみせしました。やっと繋がりましたよ」

 ゆっくりと、頭を上げる。

「結論から言います。死人使いは味方です」



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