魔術師協会

「・・・・・・どういう事?」

 俺の言葉に暫く考えていた主だったが、どうしても話が繋がらなかったのだろう。そう、問いかけてきた。

「どこをとっても死人使いが味方である根拠がないわ。何か隠してたの?」

 まるで睨むかの様に俺を見るパチュリー様。

 いや、隠していた訳じゃないんですがね。

「隠してたというか、思い出したんです」

「何を?」

「阿求さんの言っていた名前。飛騨・ラクレス・裕樹って名前ですが。魔術師協会会長の名前がユーキ・レクレシアスなんです」

 典雅が反応。まさか、という顔

「名前が似ているだけという可能性は?」

 主がたたみ掛けてくる。いや、ちゃんと喋らせていただけると助かるのですが・・・・・・。

「まぁまぁ〜。パチュリー。取り敢えず大人しく聞いてあげたら? 怖いわよ〜?」

 幽々子さんが助け船を出してくれる。

「えーっと。ごめんなさい。最初から話しますね」

「・・・・・・ええ」

 パチュリー様は冷静さを欠いたことを恥じているのか、ちょっと拗ねたように頷く。

 俺は一呼吸おいて、話し始める。

「僕が魔術師協会に入ったきっかけは、ユーキ・レクレシアス協会長に誘われての事です」

 それ以外に選択肢が無かったのだが。

「その時に名乗ったのが、飛騨・ラクレス・裕樹という名前です。恐らくプライベートでは此方を使っていらっしゃるのでしょう」

 阿求さんに聞いた時は記憶が古すぎて引っ張り出すまで時間がかかったのだ。なにしろ10年以上も前の、それも一度聞いただけの名前である。

「何故味方と断定するかは、ちょっと話がややこしくなります。魔術師協会は魔術師のための学舎であり、住み処であり、僕らのような人ならざるモノの避難所でもありました。もちろん、代償として「仕事」をしていましたが」

 戦闘行為である。これは血の気の多い人外の抑制の意味も有った。

「協会は『教会』と呼ばれる組織とセットで動いていたんですが・・・・・・。この『教会』といのがやっかいで、こちらの役割は人外の徹底した排除。僕らの存在を快く思わなかった『教会』は、魔術師教会を乗っ取ってしまったんです」

 辛そうな顔の典雅。俺も、あまり思い出したくは無い。因みに何故セットで動いて居たかは解らない、恐らく・・・・・・創立時と何かちがって居たのだろう。

「現在の魔術師協会はこの『教会』の下部組織となっています。やっていることは・・・・・・人間以外のモノの研究。及び戦力としての育成」

 研究。いわゆる人体実験だ。いや、彼らにしてみれば人間でなければただの実験なのだろうけれど。もちろん俺たちも被験者だった。

「戦力としては『教化』した人外。あるいは従順な人外です。人外の排除を目的としているのに、人外を使う・・・・・・目的の為に手段を選ばないのは何処の組織でも似たようなものですが、度がすぎますね。洗脳ですから」

 度し難い。だが、それがのさばる様な世界だ。いや、『人間』にしてみれば・・・・・・。

「そんな魔術師協会に嫌気がさして逃げ出したのですが、その手助けをしてくれたのが協会長です。その後の話は聞きませんでしたが、生きているとは思いませんでした」

「そうね、前任のトップを生かしておく理由はないか」

 殺伐とした話だが、そんなものだろう。

「ええ、ですからほぼ間違いなく、僕らの味方です」

「でも〜。あなた達は襲われたのよね〜? それはどう説明するのかしら〜」

 幽々子さんの指摘。もちろん、ちゃんと回答は出ている。推測ではあるが。

「戦ってみて思ったのですが、明らかに手加減されていました。僕の怪我が軽かったのが、良い証拠です。協会長の肩書きを持つ者が、あの程度のハズが無い」

 手足や内臓の一つ二つ、持って行かれていてもおかしくはない。

「決定的ではないわ」

「勿論、これは補足です。決定的なのはその死人を使う能力です。協会長の能力は見たことが有りませんが・・・・・・。黄泉繰り(よみくり)とよばれていました」

「黄泉繰り・・・・・・」

 死人を操る程度の能力。で間違いないだろう。

「幻想郷で黄泉という概念・・・・・・というより、黄泉という言い方はしませんよね? 死人は黄泉という言葉を使いました。更に、消える寸前、『流石だ』みたいな事も言っていました。僕の事を詳しく知らなければそんなことは言えません」

 教会の人間は俺のことに詳しくない。それは魔術師協会にしても同じ事。チームメイト以外はよく知らないハズ。知っていたのは一部の幹部と作戦立案部の人間だけ。その全てが、殺された。

「そして襲ってきた理由。恐らく彼は監禁、もしくは監視されていると思われます。直接接触するわけにはいかない。だからでしょう。目的は、僕らを鍛える、もしくは試すためです」

「試す?」

 コレは典雅。

「教会と戦えるだけの力があるかどうかです」

「舐められたものね」

 主が表情を動かさずに言う。怒っていらっしゃる・・・・・・。

「前提として阿求が言っていた人物と同じである事。でもこれは良いでしょう。阿求だから。でも、宗司が味方だと断言できる理由は?」

「協会長は信頼出来ます。これだけは理屈では言えません」

「あたしも宗司君と同じかな。あの人は信頼できる」

 もちろん、信頼に足る理由はある。でも、それを話した所で意味は無い。

「・・・・・・そう、なら、私はその人物を信頼している宗司を信じましょう。良いかしら?」

「有り難う御座います」

 安堵した。解ってもらえた事より、さんざん不快な思いをさせてしまっても信頼してもらえている事に。

「ん〜。そうなると〜。雪華ちゃんも味方って考えて良いのかしら〜?」

「そうね、今の話からすると彼女は死人使いの為に動いている様だし」

 そんな2人の会話に笑顔の典雅。確かにそうだ。彼女と戦わずにすみそうだし。敵には回したくないからな。

「でも〜。雪華ちゃんの言っていた魔術師協会は危害を加えるつもりはないっていう意味がわからないわね〜。その人に権限はないんでしょう〜?」

「それは・・・・・・僕にも解りません」

「多分」

 主が口を挟む。

「宗司や典雅と話がしたいんじゃないかしら? わかりにくい隠語だけれど。そういった意味で捉えると食い違いも納得がいく」

 成る程。雪華の言葉をちゃんと聞いていればわかったかもしれない。でも・・・・・・

「今は行く意味が無いです。あっても。外の世界のことでしょうから」

 俺にとって、此方のほうが大事だから。

「途中で投げやりになったせっちゃんもどうかと思うけどね」

 ですな。すねちゃったからね。

「そうなるとあの隙間妖怪は両方に付いている事になるか。あの女狐、私たちを戦わせて何かするつもりの様ね」

「なるようになるでしょ〜」

 パチュリー様の悪態に、幽々子さんがあっけらかんと答える。

「随分楽に構えるのね?」

「私は当事者じゃないし〜。紫の考えてる事なんてわからないもの〜」

「あのねぇ・・・・・・」

 額を押さえて呆れる主。幽々子さんは口元を隠して上品に笑うと。

「他人事って言うのは冗談よ〜。でも、私も白玉楼を預かる身だから〜。手助けはちょっと出来ないかな〜」

「いいわ。これは紅魔館の問題だから」

「文車君の、じゃなくて?」

 試すような、視線。

「ええ」

 対して当然の如く答える主。

「へえ〜。レミリアならともかく〜。貴女がそう言うなんてね〜」

「何よ?」

「ふふふ〜」

 怪訝な表情のパチュリー様に対して、笑うだけの幽々子様。典雅は欠伸をしている。

 ・・・・・・。まぁ、なんだ。嬉しい。

「疑問点も殆ど解消出来た事だし。そろそろおいとましましょうか。これからのことも考えなきゃいけないし」

「はい」

 俺は答えて、幽々子さんに頭を下げた。

「ご助力有り難う御座います。それと、重ね重ねの失礼、誠に申し訳ありませんでした」

「気にしないで〜。慣れてるから〜」

 霊夢さんと同じ事を言う幽々子さん。但し此方は懐の深さが伺える。幻想郷で大きな人物はおっぱいのサイズに比例するのだろうか?

「宗司」

「はいっ!?」

 まさか!? これも読まれたのか!?

「紅白から伝言を預かっていたハズだけど?」

 ・・・・・・びっくりしたー。タイミングが絶妙すぎる・・・・・・。

「いや、流石にあの伝言はどうかと」

 主は伝言の内容を知らない。此処は説明、したら同じ事か。

「なになに〜? 霊夢が何か言っていたの〜?」

 興味津々と言った感じの幽々子さん。

 あう、期待されると余計に言えないのですが?

「いえ、これは流石に・・・・・・」

「いいじゃない〜」

「宗司、幽々子もこう言ってる事だし、伝えたら?」

 そんな軽く言われても困るし!

「あー、えー。怒らないで聞いてくださいね? それから言ったのは霊夢さんですから、くれぐれも・・・・・・」

「解ったから〜」

 言われて、腹をくくる。ここまで来たら言うしかない。

「『いい加減にしろこの食いしん亡霊。手前の管理してるモノくらいちゃんと手綱握ってろ。『やっちゃった、てへ☆』がつうじるのは小学生までだ』・・・・・・だそうです、が!?」

 気付けば、幽々子さんの持った湯飲みにヒビが入っていた。

「そぉう」

 前髪に隠れた瞳が、危険な輝きをはなって居るのが見えた。

「この期に及んでそんなことを言うのね、あの巫女は〜」

 後半無理に言葉尻を修正したようだが、はっきり言って何の意味もない。ここはっ!

「宗司、典雅、逃げるわよ」

『了解っ!』

 脱兎の如く、白玉楼から逃げ出した。


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