察知
再び戻ってきた紅魔館。美鈴さん(起きてた)に挨拶して、お嬢様に軽く報告。詳しい話は後ほどと言うことになり、まずは図書館に戻って休むことに。
長い時間外出していたので、パチュリー様がかなり疲れていたのだ。朝に出て、現在3時ちょうど。主としても半日近く出かけたのは初めてだそうで。かなり疲労の色が見えていた。
お茶の時間でもある。
さて、何を淹れようかなと考えながら図書館の扉を開け・・・・・・。
いや待て。
取っ手にかけた手を離す。
「どうしたの? 宗司」
「いえ・・・・・・典雅、ちょっといいですか?」
「なに〜?」
付いてきていた典雅を扉の前に立たせる。
「なんかの儀式?」
「いえ。パチェ、離れてください」
言いながら、扉を引き開けると同時に身を引く。
「おっかえりなっすぁーい!」
どがしっ!
「ぶべらっ!」
派手な音を立てて、飛び出してきた小悪魔とぶつかる典雅。そのままもつれるようにして廊下の壁に激突する。
予測通り過ぎて声も出ない。
いや、実をいうともう無いかなーとか思っていたのだけれど・・・・・・。
「うぐぇぇぇぇぇぇ」
妙な声で呻く典雅。腹に高速で飛んできた小悪魔が突き刺さったのだ。鍛えていなければ吐いていてもおかしくないくらいの衝撃だったろうに。丈夫な娘だ。
「うぴゅぅぅぅぅぅ」
自分でも想定以上の速度が出ていたのか。小悪魔も目を回している。
しかし典雅は見事だ。一緒に後ろに跳んで突進のダメージを軽減すると同時に、小悪魔のクッションにもなったのだから。廊下が狭かった為に壁にぶつかるという結果になってしまったけれど。
などと分析していたら、2人とも回復したようで。
「いたた・・・・・・なにさ? 突然?」
「あうー・・・・・・。またやっちゃいましたぁ・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ってどちら様!?」
見慣れない人物に驚いたのか、慌てて身を引く小悪魔。
「ごめんなさいごめんなさい! てっきり宗司さんだと思って・・・・・・」
「いや、怪我が無くて良かったさ。だけど突っ込むのは頂けないかなー」
「あうう・・・・・・」
耳と背の翼を寝かせて落ち込む小悪魔。そんな小悪魔の頭を撫で、笑いながら典雅が自己紹介。
「きにしなさんな〜。あたしは森崎典雅。宗司君のお友達さ」
「お友達・・・・・・?」
左上に目をやって、腕を組み、思い出すような仕草をする小悪魔。
「ああ!」
電球。
「昨日いらっしゃった方ですね? ごめんなさい、少ししか拝見できなかったものですから。私はパチュリー様の僕で小悪魔と言います」
ぺこりと、頭を下げる。
「へえー。貴女がうわさの・・・・・・」
しげしげと、小悪魔を眺め回す典雅。お前はエロ親父か。
そんな典雅の様子に、恥じらうように自らを抱く小悪魔。
「・・・・・・確かに宗司君が好きそう」
「いきなり何を!?」
思わず突っ込む俺。
「え? だって。もろ宗司君の好みじゃん? この娘」
「うぐ・・・・・・!」
その通りだ。主も小悪魔も、すげえ好みなのだ。典雅から見れば俺は好みの女性に囲まれた職場に居るように見えるのだろう。
小悪魔、目をきらきらさせながらこっちを見るのは止めてくれ・・・・・・。
「話は終わった?」
今まで俺たちを眺めているだけだった主が、声を掛けてきた。
あー・・・・・・この声色は・・・・・・。
「パ、パチュリー様?」
振り返った小悪魔の表情が凍り付く。パチュリー様は笑っていた。但し目がやばい。日本刀をイメージさせるような冷たい色。
うわぁ・・・・・・。ありゃ本気で怒ってるぞぉ。俺に対する態度なんかまだ可愛いほうだったらしい。
「小悪魔」
「は、はい!」
おののく小悪魔。完全に腰が引けている。
「突っ込んだ先に居たのが私だったらどうするの?」
「え、えと。足音がみっつ聞こえたから・・・・・・一番最初に入ってくるのは宗司さんだと思って・・・・・・」
「そうだとしても、今のはやりすぎじゃないかしら? 実際、今典雅に当たったわけだし」
「え、えとあの。さ、寂しかったんで・・・・・・つい」
「寂しいときにこんな事をして良い何て誰が教えた?」
「あうう・・・・・・」
主は終始笑顔で以上の質疑を行っているのだ。やられてる方は不気味でしょうがないだろう。
さしもの典雅も相当びびっていた。顔が引きつっている。
ああ、俺が止めるしかないか・・・・・・。
「パチェ」
「何?」
ひぃ!? 実際に目をむけられると酷く怖いっ! つうか何で主はこんなに怒ってるんだ?
「そろそろお茶の時間です。紅茶でも飲んでゆっくりなされば少しは落ち着かれるかと」
呼吸を乱さないようにするだけで大変な労力を使う。
「ふむ・・・・・・そうね」
言って、すたすたと図書館の中に這入ってゆく。
理解していただけたようだ。なんつうか、パチェのキャラが一定でないのは気のせいか? なんか悩みでも有るんだろうか・・・・・・って俺か。
図書館に入ってく時も目から冷たい色が消えて居なかった。やっぱり色々と怒ることがあって混乱してるんだろうけど・・・・・・、心配だな。
様子を見に行こう。なんか、まずい感じがする。
そう思うと、不安がこみ上げてきた。
「有り難うございますー・・・・・・」
半べそをかきながら小悪魔。うん、かなり怖かったからね。
「とりあえず、こあはお茶の用意をしてください。茶葉はリゼで、チャイにしてください。典雅は僕とパチュリー様の様子を見に行ってもらえますか? 様子が変です」
「はい! カルシウムですね!?」
「解ってもそういうことは言わないでください」
「あう」
さて、パチュリー様をおいかけないと。多分自室だろうし。典雅にはいてもらわないと。俺だけだと話がこじれる可能性がある。というかプライベートな話をしてくれるかもちょっと怪しいし。
「宗司君」
「何です? 早くいきましょう」
促すも、典雅は首を横に振る。
「あたしは小悪魔ちゃんの手伝いをするから、宗司君が1人で行って?」
なぬ?
「いえ、典雅にそんなことさせるわけには」
「鈍いなぁー」
「はい?」
言葉の意味がわからず聞き返す。
「いいから行きなよー。宗司君なら大丈夫だって」
ますます解らない。おいおい、いいかげん解らない事にあきてきたんだが。つうかこんなことばっかりじゃね?
「さあ小悪魔ちゃん行くよー」
「あわわ! 押さないで下さいよぅ」
小悪魔を押して図書館に入っていく典雅。
うーん・・・・・・。かなり不安だが、まぁ、行ってみましょう。典雅が行く気がないのなら何を言っても付いてきてくれないだろうし。
取り敢えず、主の自室に行ってノック。応答無し。
「パチェ? 宗司です」
やはり、応答無し。悪いとは思いつつも、ドアを開ける。
中に主は居なかった。
「あれ?」
ここに居ないとなると。困ったな。何処のテーブルに居るのやら。多人数でお茶を飲めるテーブルはそう多くないから、しらみつぶしに当たってみるか?
「・・・・・・いや」
そうはせずに最奥の仮眠ベッドのある所に向かう。なんとなく、そこに居るような気がしたのだ。
果たして、パチュリー様はそこにいた。ベッド隣のデスクに突っ伏している。寝ているようには見えないが、起きているような気配もない。なんとも微妙な感じだ。
この辺は薄暗い図書館の中でも特に暗い。幻想的な魔術の明かりのせいで、髪の毛が深い紺色に染まって見えた。
そんな主にどう声を掛けたかと困っていると。
「宗司」
くぐもった感じの声が、主から発せられた。特に起伏のない、平坦な声。
「はい」
「こっち来て」
言われて、近づく。特に危険な感じは無い。つうか主の要望を断ってどうする。
脳内で訳のわからない1人突っ込みをする。
その隙をつかれた、訳ではないが。
主の手がするりと伸びると、俺の胸ぐらを掴んだ。その手を起点にゆらりと立ち上がる。
顔をあげて、俺を見た主は俺を睨み付けていて・・・・・・。
その目には、涙が溜まっていた。