裸の付き合い? 2


 思考しているウチに、体を洗い終わる。湯船が無いのでさっさと上がらないと冷える上、水の無駄だ。紅魔館に無駄という言葉は似合わないのだけれど。

「パチェ、では僕は先に上がらせていただきます、お話の続きは図書館でしましょう」

「待って」

「なんでしょう?」

 あんまり長いと湯冷めしてしまうのだけれど。

「ねえ、あの神父に叩きつけた言葉、もう一度言ってくれる?」

「え!?」

 数時間前に典雅に言った言葉。恥ずかしくて、本人には言えないと思った言葉。

「それは、あの・・・・・・」

「恥ずかしいのは解ってる、でも、言ってくれたら2人とも安心出来ると思うの」

 ・・・・・・。

「本気で恥ずかしいですから、一度しか言いませんよ?」

「解っているわ」

 息を吸って、呼吸を整える。

「不詳わたくし文車宗司。主、パチュリー・ノーレッジに仕えることをお許し頂けるならば、貴女の手となり足となり、全身全霊を以て貴女に尽くしましょう。わたくしは貴女の為に生き、貴女のために逝きましょう。我が誓いは、貴女の魂と共に。不躾な我が儘ではありますが、お許し願えますでしょうか?」

 少しの、間。

「ならば私は、貴方の主で居続けられる努力をしましょう。私の命尽きるまで、宗司と共に生き、宗司の為に生きましょう。私の誓いは、貴方の覚悟と共に。貴方の望みを叶えることが、私の我が儘」

 え・・・・・・?

「貴方が私に仕える事を許します。貴方が私と共に在ることを願います」

 だから。

「一緒に生きましょう、宗司」

 やられた。

 俺スーゲーかっこ悪い。

 くっそ、まさかそんな返し言葉を用意されているとは。

 何で風呂場でこんなやりとりしてるんだ、全く格好付かないじゃないか・・・・・・。

 最初から裏切るつもりも、止めるつもりも無いけれど。

 それでも、今の言葉で完全に捕まえられた。

 なんだか、立場が逆だよなぁ・・・・・・。

「パチェ、そこまで用意なさってたのならここでなくても」

「嫌。面と向かってなんて恥ずかしい。2度は言ってあげない」

 苦笑。どうして台無しにしてくれるかな、ここの方々は。

「有り難う御座います。お伝えしたい言葉は山ほどありますが、今はこの言葉に代えさせて貰います」

「ええ、宗司、また後で」

「はい、では」

 今ので湯冷めする心配は無くなった。勿論気のせいだけど。だから、素早く水分を拭き取って服を着る。

 ・・・・・・いまさら起きるな。静まれ。馬鹿か、俺は。

 がしがしと頭をかきながら扉を開ける。

「ごきげんよう、色男」

「うおっつ!?」

 扉を開けたら吸血鬼がいた。ホラーである。

「お、お嬢様、どっから湧いて出たんですか。びっくりしましたよ」

「失礼ね。私が紅魔館の何処にいようと私の勝手でしょ?」

 お嬢様は眉を潜めたが、直ぐににたりと笑うと、口元に指を当てた。

「そっかー。パチェに隷属を誓ったんだ〜」

「・・・・・・全部聞こえてたんですか?」

「勿論。私の使い魔は優秀ね」

 どっかにコウモリがいたらしい。全く気付かなかった。

「隷属とはちょっと違いますよ?」

「そうね、お互いが契約者じゃ優劣はないか」

 なんとも悪魔っぽいとらえ方をする。

「でも残念」

「何がです?」

「宗司が『うぉぉぉぉぉぉぉ! パチェェェェェェェ!』とか叫びながら裸で飛び出して来るのを期待してたんだけど?」

「僕は変態ですか。そんなことしたらパチェに殺されます」

 ご丁寧に声真似までしやがって。

「わからないよ? もしかしたらその低俗で下劣な情欲を受け止めてくれるかもしれないじゃない?」

 なんてこといいやがる。

「なんでみんな揃って僕をエロキャラに仕立て上げようとするんですか。止めてください。誰かに聞かれたら僕の品格が疑われます。つうかさっきも言いましたけど、なんで此処にいるんです? そろそろお開きの時間とはいえ、パーティーの最中では?」

 俺の問いに、お嬢様はほっぺたに掌をあててため息ひとつ。

「つまんないのよ」

「おや、珍しい」

「人が来なくてね、鬼が3人いるだけ。おおかた協会とやらのせいでみんなぴりぴりしてるんでしょう。余裕の無いことね」

 普通はそうなると思うのですが。などと口が裂けても言わない。

 しかし・・・・・・鬼3人というと典雅と伊吹萃香と星熊勇儀か。鬼が集まって何を話しているのやら。3人で喧噪起こすくらいだから・・・・・・。

「で、使い魔からの報告が面白そうだからこっちにきたの♪ 実際面白かったしぃ?」

「うぐ」

 にやにやと笑いながら俺を眺めていたが、ふと、真顔になって。

「宗司、これからちょっと私の部屋に来なさい」

「はい・・・・・・はい?」

 一瞬何を言われたのか解らなくて2度聞き。ここに来てからお嬢様の部屋に入った事はないし、呼ばれるような事があるとも思えない。

「なんでしょう?」

「貴方との契約を解くわ」

「・・・・・・何故? 特に支障は」

「それがあるの」

 やれやれ、肩をすくめると改めて俺を見上げる。

「あなたも悪魔契約の強制力は知ってるでしょ? 私の言うことも聞く、というのは私に絶対服従と言う事よ。宗司は私がもし「死ね」って言ったら死ねる?」

「できませんね」

「でしょ? だから契約破棄するの。でないとパチェに悪いわ。それに・・・・・・」

「それに?」

 お嬢様はついと顔を逸らすと、そのまま振り向いて歩き出した。そのまま、背中で喋る。

「宗司にそんな枷はもう要らないからね」

 おり?

「お嬢様、それは」

「いいからきりきり付いてくるの!」

 怒られた。照れ隠しでも怒鳴らなくたっていいだろうに。そのまま、後をついてゆく。

 お嬢様の部屋は、謁見の間から近いところにある。大抵そこにいるからだが、多分面倒というのが一番の理由だとおもう。

 部屋の中はさして広くない。間取り的には俺の部屋と大差は無い感じ。ただ、大きなクローゼットがいくつかおいてあるからそう感じるだけであって、実際は一回りおおきいのだろう。装飾品やらなにやらは高級品で、明かりは豪奢なシャンデリア。ぬいぐるみなんかがいくつかあって、意外にも可愛らしい雰囲気。ひときわ目を引くのはベッド脇の大きな熊のぬいぐるみ。何故か眼帯をしている。

ちょっと吹きそうになったが、振り向いたお嬢様を見て、一気に浮ついた気持ちと、弛緩していた体とが引き締まる。

「さて、じゃあはじめるわ」

 お嬢様の瞳の色が、金色に変わっていた。完全な戦闘態勢。ここに来て、契約破棄が困難なモノであると認識させられた。

「僕は、何をすれば?」

 お嬢様の魔眼は見られただけで精神力を削っていく。見上げられているのに、見下ろされている感覚。飲まれないように気をつけながら、ひりつく舌を動かした。

「怖い? 今ならまだやめられるけど?」

「止めませんよ、僕と、パチェの為です」

 その言葉に、お嬢様は満足そうに微笑んだ。

「契約の解除方法は2つ。ひとつは契約者か被契約者が死ぬことよ。ぶっちゃけこっちの方が楽なんだけどね」

 戦闘態勢で恐ろしい事を言わないで欲しい。

「そういう訳にもいかないからもうひとつの方法。被契約者の前で私が契約の破棄を宣言すること。ただし」

 お嬢様の体から魔力があふれ出す。その膨大な魔力は、部屋の景色を歪めるほど。

「ただし、私が身を以て宗司の力を認めなければならないわ。その方法は何でもいいけれど、ここは幻想郷のルールに則って弾幕バトルでいくから。良いわね?」

 部屋が、ゆがむ。正確にはお嬢様の魔力で部屋が異質なモノに変化していく。

 ひたすらに紅く、何処までも紅く、何もかもが紅い空間。

 幻想具現化。

 最上級の魔術師や、人外の一部が保有する固有の結界。世界を歪め、異空間に相手を引きずり込み、自分に有利な状況を作り出す。

恐らくさっきまでいた部屋に、お嬢様と俺はいなくなっているハズだ。

「ようこそ。私の体内(なか)

 お嬢様は一礼。

「解ってると思うけど、気を抜いたら死ぬから。そのかわり私の弾幕を一定時間避けられたら認めてあげる。イスクに手合わせで勝った宗司なら、面白い展開になりそうね」

 ぎら、と黄金の瞳を期待に輝かせながら。

「宗司、私を、楽しませてごらんなさい」

 

「馬鹿」

「すみません」

「私に内緒で危ないことしないでよ」

「すみません」

「でも」

「はい」

「ありがとう、私のために」

「僕のためですよ」

「ふふ・・・・・・そういうことにしておく」

 

第参話 了



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