裸の付き合い!?
ゆらゆら、くらくら、ふらふら。
あしおと。
ゆらゆら、くらくら、ふらふら。
ひらくおと。
ゆらゆら、くらくら、ふらふら。
あしおと。
ゆらゆら、くらくら、ふらふら。
いきづかい。
ゆらゆら、くらくら、ふらふら。
−。
ゆらゆら、くらくら、ふらふら。
「っっ!?」
がばっと、身を起こす。
急激に覚醒させられた脳が悲鳴を上げるが、酸素を送り込む事で無理矢理黙らせた。
デスクランプを頼りに辺りを見るも、何もおかしな所は無い。
飾りっ気のない部屋、机とイス、壁に掛かった絵画。
人のいた気配も無い。
「今のは・・・・・・?」
脳がついて行ってないってことは、深い眠りだったということ。はっきり感知出来たわけでは無いから、深いところで見た夢とも考えられるが、夢ならこんなに慌てて覚醒したりしない。
時計を確認。深夜3時。お嬢様や妹様が騒いでいる時間帯だが、地下の図書館までは地上の喧噪は聞こえて来ない。
「・・・・・・気のせいか」
恐らく、気が立っていたのだと思われる。あくまで多分だけれど。
もう一度寝ようかと思ったが、一度完全に覚醒させた脳はもう睡眠を欲していない。
仕方ないな。
グリモアを取り出して中身を読む。新しいグリモアで、まだ使った事がない。グリモアは便利だが、何処に何が書いてあるか把握していないと戦闘中に使うことは出来ない。いちいち目的の魔術が書いてあるページを捜す暇なんて無いのだから。
頭に文字そのものを刻みつけてゆく感じで読む。
・・・・・・。
「うーん・・・・・・」
かぶりをふって本から意識を逸らした。
だめだ、内容が入ってこない。無理矢理起こした頭にはちょっと無理な作業みたいだ。
「風呂でも入るか」
紅魔館の風呂は常時開放されている。といっても、男性はシャワーだけ。男手は2人しかいないので、湯船は女性専用。掃除に何回か入ったことがあるが、大理石張りの豪華な風呂だ。実に羨ましい。シャワー室は風呂の隣にある。急造されたらしく、作りがいい加減で正直狭いが、贅沢など言ってられない。
バスタオルと下着を用意。扉をあけるといつもの薄暗い図書館。ここは24時間照明が入っている。この時間だと恐らく小悪魔も寝ている。特に作業はなかったハズだ。典雅は地上階に泊まってもらってるが・・・・・・今頃はお嬢様達と酒でも飲んでいるだろう。
地上に上がると、喧噪が聞こえてきた。今日はエントランスホールでやっているらしい。幸い近くを通る事はないのですたすたと進んでゆく。この先の角を曲がってまっすぐ行けば、シャワー室はすぐそこ。
角を曲がったところで、見覚えのある背中を見つけた。
「パチェ」
微笑みを浮かべて、くるりと体ごと振り向いたパチェは、ちょっと顔が紅潮していた。
「宗司。どうしたの?」
「パチェこそ。あの倒れ方だと朝まで起きなさそうでしたが?」
「うん・・・・・・ちょっと目が覚めてしまって」
「僕もです。奇遇ですね」
「そうね」
ぱぁっと、嬉しそうに笑う。こっちも釣られて笑みを作ってしまう。
「時間が時間だし、お風呂に入って本でも読もうと思って」
と、手元の本を示してみせる。
「火星の歩き方」
・・・・・・。ちょっとだけパチェのセンスを疑いたくなった。
違和感。
なんだ? 別になにも・・・・・・そうか。行動だ。普段のパチェなら、機嫌が良かろうと悪かろうと体ごと振り返ったりせず、首を曲げて視線だけで此方を見る。そして、此方から目を逸らさずに話している。本を持っているなら、それを読みながら話すか、目的地があればそこに移動しながら話をする。
つまりそれらの事柄よりも、俺との会話の方が優先されているということ。
「宗司は? シャワーかしら?」
「ええ、そのつもりでしたが、読書の邪魔するのも悪いですから僕は後にしましょう」
危険やトラブルが有ったときのために、風呂とシャワー室は、壁がと天井の間に30センチくらいの隙間がある。そのため音や会話が聞こえるような構造になっているのだが。それも俺がシャワー室を嫌う理由のひとつで、いろんな意味で逆に危ない。
石けんが切れたときなんかは便利だけれど、お嬢様が投げると必ず顔面に当たる。意味がわからない。
「ううん」
だがパチェは首を横に振って。
「いい。宗司と話してた方が楽しいから」
のたまった。
本を読むことより上となると最早最優先に近い。
「それは・・・・・・光栄です」
俺の顔、赤くなって無いよな?
パチェは俺の顔を見て。
「ふふ・・・・・・」
いきましょう? と、歩き出した。
ううん、多分読まれたな。あんな満足そうな笑顔を向けてもらえるのら、まんざらでもないけれど。
浴場に到着、俺は脇にある、取って付けたような扉から中に這入る。これまた取って付けたような鏡台と洗面台のある脱衣所で服を脱ぎ、シャワー室に入る。俺は作務衣だから直ぐに脱げるけれど、パチェは時間が掛かるはず。
・・・・・・想像するなよ?
あー、またカビが出てる。なんでこんなカビが付きやすいんだ、ここは。掃除しなきゃな。全く、イスクさんはここの掃除をしようとしないし、妖精達はめんどくさがるし、咲夜さんはやってくれないし・・・・・・なんて愚痴を言っててもしょうがない。
シャワーは壁に取り付けてあり、取り外しの効くタイプではない。壁から突き出ているバルブを捻り、温度調節。流石に水シャワーということはない。
頭から湯を被る。
青年洗い中。
詳しく描写して欲しくはなかろ?
「宗司ー」
壁の向こうから反響したパチェの声が聞こえてきた。
「はーい」
ちょっと声量を上げる。
「良し、シャワーだけ出して逃げ出していたりはしないわね」
「そんな勿体ないことしませんよ」
苦笑。二重の意味で勿体ない。
「だって、宗司はこうゆうのは嫌がるかと思って」
ちょっと、心細そうな声。
「余程の事で無い限りもう遠慮したりしませんって」
「余程って?」
「・・・・・・夜這いとか?」
「ばっ!」
息を呑む気配。
「いきなり何を言うの!? びっくりするじゃない!」
・・・・・・成る程。
「あの気配はパチェでしたか」
「・・・・・・しまった」
顔を赤くして小さくなっている様子が目に浮かぶ。何のことはない、気配を消す魔術なんてのは、ごまんとある。
「それで?」
「ん?」
「何をしたんですか? 僕に」
「えっと」
「はい」
「・・・・・・昼間の続き。止めたけれど」
「あっははははは!」
思わず、弾かれたように笑ってしまった。
「何よ、笑うことないでしょう?」
少し、怒ったような声。
「いえ、済みません。安心したものですから」
魔女でも、素直な悪戯をするのだなと。
パチェは納得のいってない様子だったが、ぽつりと。
「安心、か」
呟いた。
「宗司は、不安とか今は無いの?」
「ありますよ」
当然だ、いろいろと有る。もっとも気に病むのが、パチェの機嫌を本気で損なう事である。怖い以上に、俺の信条から外れる。ここ数日で思い知った。
もちろん今回の事も懸念すべき事ではあるけれど。
「そうよね・・・・・・」
考え込むように、ぽつり。実際考え込んだようで、続きはない。
恐らくパチェも俺と同種の不安を抱えているのだろう、この騒動のこと、この先のこと。お互いの決して読めない部分への不安。心が通じ合ったもの同士に生じる、不可解な不安。
普通はこんなに早く感じることはない。浮かれた気分は最低でも3ヶ月はおさまらないから。けれど、パチェは持ち前の聡明さで、俺は典雅に教えられて、気がついた。
逆に今はそれが幸いして、今回の件を冷静にみれるのだけれど。
もっとも、戦いの前にこうならないのがベストだったのだ。
コレばかりは、しかたないことかもね。贅沢だ贅沢。