死人と死闘を繰り広げてボロボロなのが原因か。はたまた自然とかは解らないが、取り敢えずイライラはすっきりした。多分主が心配してくれたからだろうけど。我ながら実に安い。この年でこんな感覚を味わうのは、俺がいかに魔術師協会時代は冷めていたかが解る。恋愛小説の主人公の心の動きが良くわかった。
ともあれ、白玉楼に向かうことになった訳だが。その前に色々と。
取り敢えず、また博麗神社の母屋に上げて貰った。パチュリー様の冷静とはほど遠い分析によって、霊夢さんがぶーたれていたが、俺が謝ると案外素直に許してくれた。
「貴方に謝られたんじゃ許すしかないでしょ」
とのこと。良くわからない。俺が謝っても意味は無いと思うのだが。
居間には典雅と萃香さんが文字通り転がっていた。この方達は人の家でよくここまでくつろげるな。典雅がごろりと転がって此方を向く。
「よほー。お帰り宗司君&パッチェちゃん」
片手を上げて挨拶する典雅。それに主が答える。
「ただいま典雅」
「あだ名に呼び捨て!? いつの間にそんな仲良しになったんです!?」
あの短い時間の間に何があったというのだ? 呆然とする俺を尻目に典雅と主が話し始めた。
「宗司君は何処にいたのさ?」
「巫女と宜しくやっていたわ」
「あー。宗司君の悪い癖だわ。女の子がいるとすぐにちょっかいかけたがるんだから」
「解るわ。紅魔館でもそうだもの」
なんぞ!?
「ちょっとまってください! 取り敢えず2人の仲がよろしくなったのは置いておいても、協会でも紅魔館でもそんな事をした覚えは無いですよ?」
必死で反論すると2人してじと目で眺められた。
「自覚がないっていうのは嫌ね」
「宗司君、もうちょっと気を付けた方がいいと思うよ?」
再びなんぞ!? 俺が目を白黒させていると、足下に転がってきた萃香さんが説明してくれた。
「なんかねー。最初は険悪な雰囲気だったんだけど、何かがきっかけでいきなり話が弾みだしてねー」
「何かとは?」
「あんまし聞いてなかったからわかんない」
「そうですか・・・・・・」
もし知っていたとしても教えてはくれなかっただろうけれど。そんな俺たちの様子を見ていた霊夢さんが、気を利かせたのか、もともとそのつもりだったのか。
「私は昼食の用意でもしてくるわ。みんなおなか空いたでしょ? 良かったら食べて行って」
「いえいえ、此方はお弁当を用意・・・・・・」
「やったー! れいむはやくはやくー!」
俺の言葉を遮って萃香さんがはしゃぐ。せめて最後まで言わせてくれ。ともあれ俺と主は美鈴さんが作ってくれたお弁当を食べることに。居間には俺と主と典雅。霊夢さんと萃香さんは食事の用意で出て行った。
その前に、何があったかの報告が先。襲ってきた死人についてと、俺なりの意見。霊夢さんの伝言を含め白玉楼に行く必要がある。といったところだ。
「うん、成る程」
俺の話を黙って聞いていたパチュリー様は深く頷いた。
「西行寺家の管理下に無い死人か・・・・・・。でも宗司が倒したのなら危険はなくなったと思って良さそうね」
どうだろう。あの手の輩は何らかの形で復活するか、なにか次の手を打って居ることが多い。それに最後の台詞も気になる。危険を示唆しておいた方が良いのかもしれないが、西行寺家に行ってからでも遅くは無いだろう。主に不要な疑問を抱かせることもあるまい。
「では、パチェは何故?」
「最近、白玉楼に魔術師協会の人間が現れたそうよ」
「は!?」
唐突過ぎる言葉。いや、唐突というか結論から先に言っただけなのだけれど。あまりにも意外な言葉だ。引き継いだのは典雅。
「庭師のみょんちゃんとは面識があってさ。一昨日位の話なんだけど、冥界に遊びにいったんだ、そしたら、そんな話題が出てきてね」
「3日前って・・・・・・じゃあ何で昨日話してくれなかったんですか?」
「ん? 忘れてた」
きっぱり。照れもしなければ悪びれた様子もなく、はっきりと。こういう所はいかにも典雅らしい。
「それで、被害とかは?」
「無かったって。それどころか襲われたんじゃなくて、話を聞きに来たらしいのさ」
「話を?」
「『おかしな死人はこなかったか?』って」
「それは・・・・・・」
「そう」
今度はパチュリー様が引き継ぐ。
「宗司の倒した死人。無関係とは思えないわ。最初は話を聞きに行くだけのつもりだったけど、興味深いわ。それに魔術師協会の線が濃い」
確かに。ほぼ間違いはないだろうが、やはり巫女の事を知っていたのが気になる。そして今の話でさらに疑問が増えた。何故西行寺家が幽霊を管理していると知っていた?
「簡単な事よ」
俺が疑問を口にすると、主は事も無げに答えた。
「向こうには八雲紫がついているんだもの」
そうか・・・・・・それなら知っていても不自然では無い。けれど、霊夢さんに関しては明らかに「知って」いた様にみえた。俺の気のせいかもしれないが。なんにせよ、行ってみれば解ることか。西行寺幽々子も食えないが様々な事柄に精通していると聞くし。
「でさ、宗司君」
典雅が声を掛けてくる。あまり聞く事の無い、ちょっと不安を含んだ声だった。
「何ですか?」
普段があっけらかんとしている分、ちょっとでも不安そうだと、俺まで不安になる。
「その、話を聞きに来たっていう人間の事なんだけどさ・・・・・・」
歯切れが悪い。俺は黙って待つ。一息吐いて意を決した様に。
「そいつ、黒髪の女で、耳にタグみたいのを付けていたらしいよ」
「耳にタグ・・・・・・ってまさか、雪華ですか!?」
典雅が頷く。朧雪華(おぼろ・せっか)。協会から一緒に逃げ出した4人のうちの1人、のはず。彼女の特徴はその耳飾り。いつもシュタイフ・テディベアのようなタグの耳飾りを付けていた。
「知り合い?」
主が聞いてきた。
「ええ、一緒に協会を脱出した人間の1人です。だからそのはずは無いんですが・・・・・・」
「そんな特徴的な耳飾り付けてるのはぬいぐるみ位のものでしょ」
断定口調の典雅。だが、雪華が簡単に捕まるとも思えないし、自分から戻った何てことは彼女の性格からしてほぼあり得ない。
「らしくないですよ典雅、見てみない事にはそうとも言い切れません」
「・・・・・・うん、だね」
そう言ってみたものの、気休めだ。さんざん否定しておいてなんだが、典雅の言うとおりなのだから。だけれど、典雅に元気が無いのは俺としても悲しい。特に典雅と雪華は仲が良かったから、不安なのも解る。
「有り難う、宗司君」
「典雅こそ。有り難う。出来れば黙っておきたかったんたんでしょう?」
「あ、わかった?」
へへ、と笑う典雅。やっぱりこの娘は笑ってないと落ち着かないな。
「にゃっぱり宗司君はあたしの事良くわかってるぅ↑」
しなだれかかってくる典雅。しまった!
「だから止めてください!」
「よいではないか〜」
急に酔っぱらった!? つうかこれじゃあさっきと同じじゃないかー!
パチュリー様を見ると、特に変化無し。いや、口元が引きつっている。和解しても面白くはないらしい。
流石にこれ以上不機嫌になられてはたまらないので強攻策。罵声モードオン!
「止めてください離れてください近寄らないでください死んでください」
「殺したいほど愛おしいのですね、わかります」
「僕はわかりません! つうかマジ離れて下さい! 酔っぱらいは嫌いです」
「嫌よ嫌よも愛してるぅ〜」
「その造語は唯我独尊すぎます」
「え? 愛って貪り喰らうものでしょ?」
「認識が違いすぎる!?」
ええい! 強敵だな。さんざん協会で似たようなやりとりをしていたから効果的な手段が見あたらない。最終手段は封印してあるし。いい加減焦り始めたとき。
がらりと、襖が開いた。食事が出来たらしい、お盆を持った霊夢さんと萃香さんが入ってきた。おお、ナイスタイミング!
だが、霊夢さんは俺と典雅を見るなり呆れた顔で。
「いちゃつくなら外でやってくれる?」
俺の突っ込みと必死の抵抗も端から見たらいちゃついている様に見えるらしい。俺も半分楽しんでしまった訳だが。む、これがいけないのか。
「お、来た来た」
食事が現れたのをみてとっていそいそとちゃぶ台に着く典雅。助かった・・・・・・。いやもう、このまま続けられていたらどうなっていたやら。
首を振って嫌な想像を消す。霊夢さんは大皿を並べてゆく。どうやら大量に作れる焼きめしにしたらしい。焦げた醤油の匂いが食欲をそそる。
俺は置いておいた紙袋から弁当箱を取り出す。開けると、大きな中華まんが2つ。美鈴さんあの短時間でコレ作ったのか? 感心しながら、ペーパータオルをつけてひとつを主に渡す。あとはこの美鈴特製元気ドリンクと名付けられた怪しいドリンクだが・・・・・・。
パチュリー様に確認すると、首を横に振られた。
「いらない。なんか怖い」
ごもっとも。だけどせっかくつくってくれたモノだし・・・・・・。うん。食べる前に先に飲もうか。幸いお茶は霊夢さんが用意してくれている。蓋をあけて、匂いを嗅ぐ。
なんとも香ばしい悪臭。というか完全に薬の匂いだ。確かに効き目はありそうだ、けど。
「ままよ!」
ぐいと、一気にあおる。
俺の全身を衝撃が駆けめぐった! これは!
辛くて甘くて苦くて酸っぱくてしょっぱくて濃くて薄くて清涼感があってどろどろしている! つまり不味い!
口の中が激しくカオスで地獄な状態だ。お茶を飲もうと湯飲みに手を伸ばした瞬間。
目の前が、回転した。