ぱりんと。何かが割れる音。死人の張った結界が強制的に解かれた音だ。がくんと、膝から力が抜ける。息が荒い。汗がだらだらと出てくる。大量に魔力を消費したせいだ。「零下」は人に優しくないので、練った魔力を根こそぎ持って行く。

 ボロボロで打撲と裂傷が数え切れない程あるが、骨も折れていないし、深い傷もない。あの化け物相手にこれで済んだのだ。激運だったと言って良いだろう。八つ当たりというにはいささか割が合わないが。

 飛翔した霊夢さんが降りてくる頃には、辺りは何事もなかった様に戦闘前に戻っていた。

「流石半神ね、凄い威力・・・・・・」

 感心した様子の霊夢さんが此方にやってくる。俺は立ち上がって出迎える気力もないので、仕方なしに地面を見たまま答える。

「純粋な攻撃力なら魔理沙さんの方が上です。僕は搦め手だから嫌らしいんですよ」

「力押しって意味では同じだと思うけど?」

「・・・・・・」

 反論不可。確かに力押しには違いない。そうか、策練ってやってるつもりでも結局力押しなのね、俺。それでうまくいってしまうのだから仕方ないけれど。呼吸を整えて、立ち上がる。取り敢えず行動に支障はなさそうだ。浅い傷だったので血も止まっている。燕尾服はボロボロだが。また咲夜さんにどやされる・・・・・・。

「でも、何だったんでしょうね。さっきの死人は」

 霊夢さんの事は知っていて不思議ではない、有名人だし。何かしら恨みを買っている事もあるだろう。でも俺の事まで知っているとなると、ちょっと話が違ってくる。俺は紅魔館から殆どでていないし、出たとしても人間の里くらいだ。妖怪達に恨まれる様な事をした覚えはない。そうなると魔術師協会の線が強くなってくる。しかしそうなると、今度は霊夢さんの事を知っているのがおかしい。巫女が居ること位は解るかもしれないが、顔を見ただけで博麗霊夢と断定している。面識は無くとも死人自身が見たことが有る、ということだ。ますます解らなくなってくる。

 俺の問いに霊夢さんは腕を組んで唸ると、呟くように言った。

「白玉楼」

「はくぎょくろう?」

 しらなかったの? と顔をあげて、俺の方を見る。

「西行寺家の屋敷よ。幻想郷で死んだものは冥界に行くの。全ての死者の管理をしているのが白玉楼の主。西行寺幽々子よ。だから最初は彼女の差し金かと思ったのだけれど」

「嘘かもしれませんよ?」

「だけど殺しにまで来る理由が無いから」

「ふむ」

 詰めても理由はわからなさそうだ。ひとまずあの死人がその西行寺の手先だったかは置いておこう。霊夢さんとあの死人の会話で感じた違和感。キーワードを頭の中で並べていく。

 黄泉、彼女、四季映姫、俺が思った高位魔術師の特徴、死人の持っていた剣・・・・・・。連想されるのは、

黄泉という言い方が不自然な所。

死人と西行寺が知り合いである可能性。

閻魔様は何人か居たはずだが、直ぐに四季映姫が出てきた事。

高位魔術師によく似た特徴。

どこかで見たことのある剣。

 だめだ、全く繋がらない。幻想郷の住人の特徴も有るし、外の世界の感じも持っている。可能性としては外の世界の住人「だった」ということだが、魔術師協会の人間で無い限り俺との面識は無いし、俺個人が知られていると言うことも考えづらい。糸をたぐり寄せても手応えが無く、そして終わりも見えない。嫌な感じだ。

「でも何にせよ幽々子の監督不行届には違いないわ、文句言ってやるんだから。あーでも、私が動くわけにはいかないのか・・・・・・もう!」

 ぷりぷりと音が聞こえてきそうなくらいの霊夢さん。こんな感じで妖怪退治に出たりするのだろうか、この人は。

「なら我々が行きましょう。その西行寺さんに聞きたい事もできましたし」

 この疑問を解くにはこうした方が良さそうだ。事情を話せばパチュリー様も了解してくれるに違いない。

「そう? そうしてくれるなら伝言頼むけど」

「何でしょう?」

「いい加減にしろこの食いしん亡霊。手前の管理してるモノくらいちゃんと手綱握ってろ。『やっちゃった、てへ☆』がつうじるのは小学生までだ」

「・・・・・・一言一句そのまま伝えて良いので?」

「勿論」

「流石に・・・・・・いえ、承りました」

 なんか睨まれた。普通俺が改ざんして怒られるパターンだと思うのだけれど。この人の感性は良くわからん。くいしん亡霊って。そんな人なのか?

「宜しく頼んだわよ」

 満足そうに頷く。霊夢さんは鳥居の土台に置かれていたお茶セット(無事だった)に再びお茶を注ぎ、ひとつを俺に手渡した。

「有り難う御座います」

 茶を啜って、思わず顔をしかめる。口の中が切れていたらしく、ちょっとしみた。

「そう言えば、なんの話してたんだっけ?」

 突然霊夢さんが口を開く。

「はい?」

「ほら、あの死人が来るまで何か話してたじゃない」

「えっと、八雲紫の話では?」

「そうじゃなくて! そのあと、ほら」

 ほら。とか言われても。んーと。

「重要な話じゃなかった気がしますが?」

「一度気になると気持ち悪いでしょ? 重要かもしれないでしょ!?」

 必死の形相で両手を広げて訴えかけてくる。

「そこまで興奮しなくても・・・・・・」

「あー、なんだっけ? ここまで出てるのに」

 のど元をぺしぺしとはたく。久々にみたな、その行動。確か、八雲紫と仲が良いとか言う話をしていて、んー。不愉快とか2回くらい言ってたな・・・・・・。あ。

「お嬢様と何で喧嘩したか、ですね」

「それ!」

 びしっと。俺を指さして目を輝かせるも、そのまま指が落ちて、顔から覇気が無くなる。

「ホントに大した話じゃ無かったわね・・・・・・」

「いや、でも気になります」

「大福が3つしかなくて取り合いになったのよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 無言で見つめ合う2人。お互いの目には後悔と自責。霊夢さんは必死こいて思い出した内容があまりにもしょぼかった事。俺はお嬢様の株が下がったので聞かなきゃ良かったと思ってる。

「申し訳ありません」

「いえいえ、こちらこそ」

 同時に頭を下げる。霊夢さんまで敬語。

 お嬢様。お願いですから外でつまらないトラブル起こさないでください・・・・・・。留守番しているお嬢様に懇願。半分こすれば良いだけじゃないか。多分お嬢様が我が儘言い出して、何か言ったに違いない。

 そして同時に、ため息。

「宗司!」

 呼ばれて振り返ると、パチュリー様がやってきていた。典雅と萃香さんの姿は見えない。

「捜したわ、私の目の届くところに居なさいって・・・・・・どうしたのその格好!?」

 慌てて駆け寄ってくる主。

「お話は済んだのですか?」

「そんな事は良いから診せなさい」

 俺の質問に構わずてきぱきと傷を診る主。腕をひっくりかえしたり、ぱむぱむと叩いてみたり。

「痛っ! 痛いですパチェ!」

「切り傷と打撲ね。おなかの辺りはアザになってそうだけど。何? 紅白にカツアゲされたの?」

「あんたねぇ・・・・・・私をなんだと」

 こめかみを押さえる巫女。最近主が攻撃的なのは気のせいですか?

「貴方ならやりかねないわ」

「そう・・・・・・喧嘩売ってるのね」

 御幣を構える霊夢さん。

「私は事実に基づく客観的な意見を言ったつもりだけど?」

 だから挑発しないで!? 何とかパチュリー様の気を逸らそうと、話題を振る。

「パチェ! 次の行き先ですが・・・・・・」

 それを聞いて、主が振り返る。

「そうだ宗司、次の行き先は・・・・・・」

『白玉楼に』

 ・・・・・・。

『は?』

 疑問の声まで、見事にハモった。


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