些事

「がぁっ!」

「! どうなさいました!?」

「・・・・・・いや、大丈夫だ、有り難う」

「そこまでする理由が何かあるので?」

「ああ、やらねばならんのだ」

「私にも何か出来れば・・・・・・」

「君には君の役割が有る。それを全うしてくれ」

「・・・・・・はい」

「いつまで拘っているつもりなのだ・・・・・・」

「は?」

「いや、独り言だよ」

 ぐらりと傾く体を、ちゃぶ台の縁を掴む事で支える。口の中がカオスなのは一緒だが、同時に目眩まで来た。微妙に気持ち悪い。多分薬酔いだ。

 霞む目で辺りを見渡すが、止まって見えるので自信はないが、どうやら誰にも気付かれていないようだ。良し。今のウチに何とか回復して何事もなかったかのように中華まんを口にせねば。しかしこのままでは他の行動をすることすら難しい。回復まであとどのくらい掛かる? このままだとパチュリー様が心配してしまう。此処で倒れたりなんかしたら余計に機嫌悪くされてしまうし・・・・・・。体内洗浄しようにもグリモア引き出したら訝しがられる。だからって何もしないといつまでこの状態が続くか解らない。かなり焦り始め思考が錯乱しはじめた。

『いただきまーす』

 みんなの声ではっと我に返る。思考していた時間から、多少時間がたったと思っていたのだが、実際はごくごく短い間だったようだ。主は中華まんを渡した直後と殆ど変わらない。気付けば、目眩も気持ち悪さも収まっている。口の中も平常時に戻っていた。おや・・・・・・?

「宗司、どうしたの? やっぱり毒だった?」

 俺が首を捻っていると、パチュリー様が中華まんを2つに割った状態で此方を見ていた。俺の状態には気付いていないようだ。

「いや、決して毒では無いです」

 中華まんを手に取る。こころなしか、体が軽くなったような。というか、さっきの戦闘の疲れが抜けてしまったような? 全身に魔力が行き渡っている。凄いぞこのドリンク! 

「ですが止めておいた方が無難かと」

 確かに効き目は抜群だが、飲んだ瞬間が地獄だな。ショック死しかねない。

「そう? 宗司の魔力が急に上がったから、興味が出てきたのだけれど」

 流石魔法使い。その辺は見逃さない。

「確かに日陰少女から日向少女に早変わりするくらいの『威力』はありますね」

「『効果』じゃなくて?」

「ええ、それでよろしければ止めませんが・・・・・・」

 あえてそう言った。確実に魔力は上がるし、元気になるのは間違いない。

 パチュリー様は暫く悩んでいたようだったが。おもむろにかぶりを振ると。

「・・・・・・やめておく」

「賢明な判断です」

 美鈴さんご免なさい。

 食事も終わり、霊夢さんがほうじ茶を用意してくれた。俺は片付けの手伝いを買って出たのだが。

「お客は大人しくしてるものよ」

 と断られてしまった。まあ確かに。他人にあまりうろつかれるのは良い気分では無い、か。執事としての習性がどうも出てしまうのは宜しくないか。

典雅と萃香さんはまたもやごろごろしている。萃香さんに至ってはいびきをかいていた。2人とも牛になってしまえ。

「さて」

 霊夢さんが片付けに出て行った所で、パチュリー様が此方を見る。

「行きましょうか」

「そうしたい所ですが、僕の格好が・・・・・・」

 ボロボロである。死人に付けられた切り傷、自らの魔術による焦げ及び多少の腐食。正直こんな状態でどこかにお邪魔するのは控えたい。今でもちょっと申し訳ない位なのだが。

「服とかは出せないの? 繊維だから元は木でしょう?」

「引き出せませんね。流石に無理みたいです」

 実は以前試したことがある。その時出てきたのは画用紙に服の絵が描いてあるモノだった。おそらく「読む」「見る」以外の目的の物は駄目なようだ。どこぞの猫型ロボットの様にはいかないらしい。つうか引き出せたら俺のアイデンティティが崩壊しかねない。

「ふむ、木行ではなくてあくまで紙なのね」

「ですね」

 主は意味ありげに此方をちらりと見ると。

「わかった。不本意だけれど一度帰りましょう」

「なんで不本意なんです?」

「鈍感」

 一蹴された。やべえ、マジで解らん。

「なにー? 帰るの?」

 典雅が割り込んできた。相変わらず寝そべったまま。

「ええ、燕尾服を新調してこないと」

「だったらあたしは先に行って待ってるね」

「典雅も行くの?」

「うん、みょんちゃんと話あるし」

「さっきの会話でも出てきましたが・・・・・・みょんちゃんて誰です?」

 食事の前にも出てきた名前だ。自然にスルーしてしまったが、たしか庭師の名前は「魂魄」さんだったような? 魂魄みょん? おかしな名前だ。

「ああ、そっか。魂魄妖夢っていう娘。初対面で『みょんな格好してますね』って言われたから、そっから」

「それは嫌がらせでは?」

 恐らく噛んだのだろう。

 典雅とは白玉楼で待ち合わせすることにして、俺とパチュリー様は博麗神社を後にした。帰り際に霊夢さんからくれぐれも伝言を忘れないようにと念を押されたが・・・・・・。冗談じゃなかったのか、あれは。

行きと違って飛行して帰ることに。紅魔館まで10分で着いた。直線距離だとこんなにはやいものかね。相変わらず寝ている美鈴さんをスルー。ただいまを言って館に入ると咲夜さんが出迎えてくれた。俺の姿を見て顔をしかめたが、事情を話すと今度は柳眉をつり上げた。

「完全に私事で戦ったのね」

「う゛」

「咲夜、結果ちゃんと私を護ってくれたのだから。そのくらいにしてあげて」

「・・・・・・パチュリー様がそう言われるのなら、良いですが」

 そう言って着替えを用意してくれた。危ない危ない。

「じゃあ私はレミィに会ってくるから、宗司は図書館で待ってなさい」

パチュリー様有り難う御座います。さっさとお嬢様に会いに行ってしまった主に対し、心の中で礼を言う。さて、部屋に戻るか。

地下に降りて、図書館の扉を開けると同時。嫌な予感。だが時既に遅し。

「おかえりなさーい!」

 ばびゅん! という勢いで飛んできた小悪魔の頭突きをもろに前頭部にくらう。すげぇ鈍い音がしたのが聞こえ、星が見えた。頭の中で鐘がぐわんぐわん鳴っている。

その場にうずくまる俺と小悪魔。先に復活したのは俺。

「っっっこあ! 僕だったからいいもののパチュリー様だったらどうするんですか!?」

「あう〜」

 頭を押さえながら立ち上がる小悪魔に対して怒鳴りつける。

「パチュリー様なら足音で解りますもーん」

 若干舌足らずな感じで小悪魔が反論してくる。おいおい。

「それにしたってこんな事したらどうなるかわかるでしょうに!?」

「さびしかったんですよぅ!」

 目の端に涙をためながら恨めしそうに言う。

 うぐ、涙は痛みの為とはいえそんなこと言われたら怒るに怒れないじゃないか。だけどね。

「それは朝起きれなかったこあが悪いです」

「むぅ」

 しょんぼりとする小悪魔。今朝はものすごく早起きしたのだが、小悪魔は起きてこなかった。主が何も言わなかったので放置しておいたのだが。

「だってだって、昨日はパチュリー様の言いつけで遅くまで本棚の整理をしてたんです。朝起きれなかったら寝てて良いからって・・・・・・でも寝てる間に出かけるなんて聞いてませんよぅ」

 そいつは初耳だ。てっきり直ぐに寝たものと思っていたのだけれど。

「きっとパチュリー様は宗司さんと2人で出かけたいが為に仕組んだ陰謀にちがいないです!」

「こあじゃないんですから・・・・・・」

 思わず呆れた声を出してしまう。それに、そうとも思えない。

「だいいち3人で出かけたら図書館が留守になっちゃうじゃないですか」

「それはそうですけどー。見送りくらいはさせてもらっても良かったとおもいますー」

 ほっぺたを膨らませ、腕を組んで不快感をあらわにする。ああ、小悪魔が怒ってるのはそこなのね。

「起きたらお2人ともいないし、書き置きもないし。何が起きたのかと慌てて地上に上がったら咲夜さんが美鈴さんに説教してるし。妹様には追いかけられるし。イスクさんに事情を聞いて初めてお出かけになったことを知ったんですよ? 酷いです」

「うーん、なんだかこっちが悪い気がしてきました」

「ですよね!? だからお2人には私の要求に応えていただく義務が有ります」

「何故に!?」

「特に宗司さんには私のすぺしゃぅな要求が用意されております」

「すぺしゃぅ!?」

「ええ、私の耳掃除を。しかも膝枕で」

 いってぴこぴこと耳元の羽を動かす小悪魔。

「だからちょっと? そんな権利はこあに・・・・・・」

 いやまて、小悪魔の耳だって? おそらくあの羽が耳なのだろうが、いつもは髪の毛に隠れていて解らないその根本を拝めると、そういうことか!? そうなのか!? まじで!? 猫耳娘の本来の耳がどうなっているのか確認したい諸兄は沢山いるだろうが、これもそれに準じるのではないか!?

 長年の謎となっていた獣耳の正体を!

 拝めるのですか!?

 俺は歴史の目撃者になれるわけですか!?

気分はやたら知らない物を覗きたがる中学生である。そうとうハイテンションで何を考えているか自分でも解らない。

「ふむ、そうですね、それくらいの罪滅ぼしは、必要かもしれませんね」

 精一杯の自制心を効かして平坦な声を装う。ここで悟られて「やっぱり止めます」などと千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないっ!

「そうですよぅ、そのくらいしていただかないと私の気は晴れません」

 俺の思惑など知らずにたたみ掛けてくる小悪魔。それに対してわざとらしくため息を吐いて見せて。

「しょうがないですね、従いましょう」

「やたーっ!」

 小悪魔が自室から耳かきを取ってきて、俺は床へ直に正座をすると、小悪魔の頭を膝に乗せた。はたから見たらかなり危ないシチュエーションだが、そんなことはもはやどうでもいい。

「うふふ〜」

 やたら上機嫌な小悪魔はさておいて、俺は梵天の付いた耳かきを握りしめ、いよいよ小悪魔の掻き上げようとせんと欲す。なんだ俺、動揺してんのか? 俺。

「こ、こあ、いい、ですか? 髪、どかしますよ?」

 めっちゃ声がうわずっていた。

「あ、邪魔ですよね。いまどけます」

「いやいやいや! それくらい僕がやらせていただきますですよ!?」

 こんな貴重な体験を自分の手でやらずになんとする!

 俺は新世界の神になるのダ!

 完全に思考が逝っているが、気にも留めない。否! 留めてやらない。

「い、行きます!」

 ぷるぷると震える手で、小悪魔の赤い髪の毛を耳元からどかそうとしたその時。

「何やってるの?」

 主が見た物は、小悪魔の頭を膝にのせ、ハァハァと荒い息をつきながら顔に手を伸ばす変質者の姿だった。



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