条件

「おかまいなく」

「幽々子しゃんおひさしぶりですっ!」

「橙ちゃんはいつ見ても可愛いわね〜。今日は紫のお使い?」

「はい! ホントは藍しゃまのおしごとなんですけど、いそがいしいみたいだから私が来ました」

「そうなの〜って妖夢。惚けてないでお茶〜」

「ねえ亡霊、私帰って良い?」

「ちょっと! 敵かもしれないのよ!? 幽々子?」

「パチェ、あんまり大声を出すとお体に・・・・・・」

「宗司は黙って!」

「宗司が怒られた?」

「せっちゃんせっちゃん、宗司君は尻にしかれちゃってるのさ」

「藍しゃまに雪華しゃんのごえいをたのまれたんです」

「帰っていいのね? 帰る」

「幽々子様。お茶、おまたせしました」

「阿求待って〜。1人じゃ危ないわ〜」

「尻に敷くって・・・・・・私そんなことしてない」

「言葉のアヤかと」

「妖夢〜。阿求を家まで送ってあげて〜」

「解りました」

「宗司ってそんなキャラだったんだー。残念だったね、典雅」

「ホントにさ」

「では皆さん、ごきげんよう」

「あ! 阿求、サインを・・・・・・」

「うまくできたら藍しゃまに頭をなでなでしてもらえるんです♪」

「その前に私が撫でてあげるわ〜」

「・・・・・・はい、じゃあね、魔女」

「ええ、また」

 混沌としてるな〜。人が多くて良くわからん状態になってる。今阿求さんと妖夢さんが出ていって、現在622で。6人。それでも余裕のある客室だ。

 しかし幽々子さんは凄いな。張りつめていた空気を一瞬にして流してしまった。さすがは白玉楼の当主、といったところか。暢気なだけではない。同じ事をお嬢様が言ったとしても・・・・・・いや、余計に混沌として訳がわからなくなるだろうな。

「それで〜? 雪華さん、だったかしら〜? 何かご用? もう話すべき事は話したと思うけど〜?」

 状況がやや落ち着いてきた頃、幽々子さんが雪華に話しかけた。典雅と話をしていた雪華は、自分が声を掛けられたことに気付くと、目を向けた。殺気も、敵意も無い。

「今妖怪達の間であなた達魔術師協会の評判は良くないの〜。勿論私もそう。だからここに長居するのは得策じゃないわ〜」

 ぴく。と、典雅の肩が揺れる。俺も眉が寄りそうになるのをなんとか堪えた。やはり、今の雪華は魔術師協会の人間なのだ。先ほど典雅と話していた時もその話題には触れていなかった。

「今日は貴女にお話があって来たんじゃ無いの。用があるのは、そこの2人」

 俺と典雅・・・・・・では無く、俺とパチュリー様をみる。

「紅魔館までいったんだけど、2人は出かけてるって言うから」

 その言葉に今度こそ、俺は眉根を寄せた。紅魔館まで行った、だって? 

「良く話が聞けましたね」

 雪華の事だから魔術師協会の人間だと言うことを隠したりしてないだろうから・・・・・・。

「ん? 聞いてないよ。入ろうとしたら十三妹(シーサンメイ)みたいなおねーさんに止められた」

 十三妹みたいなお姉さん・・・・・・? ああ、美鈴さんか。珍しく寝て無かったらしい。十三妹、ね。言い得て妙だ。

「で、私は協会の人間だって言ったら襲われて、2人に話をしに来ただけだっていったら、『お2人は白玉楼にお出かけ中ですっ!』って叫んだから」

 隣でパチュリー様が頭を抱えるのが見えた。おおう・・・・・・美鈴さん、あんたどじっ子にも程があるぞ。小悪魔とどっちがドジ、いや、小悪魔は狙ってあのキャラをしてる節があるから、その意味では美鈴さんに軍配が上がるだろう。

「じゃあ私は席を外した方が良いかしら〜?」

 橙さんの頭を撫でていた幽々子さんが、少し腰を浮かす。

「ううん、貴女にとっても関係のあるお話だから。聞いて」

「そお〜?」

 上げかけた腰を下ろした。ここに来てこの人には気を使わせてばっかりだ。かなり面倒見の良い性格らしい。単純にトラブルを回避しているだけともいえるが、それにしたって空気の変え方や間の外し方が見事だ。

 ・・・・・・巫女の言づては伝えたく無いな。

 などと考えていたら、うっかり雪華の話を聞き逃しそうになった。初対面の人間が多いと重要な話も聞けないのか、俺は。

「えっと、魔術師協会は幻想郷に危害を加えるつもりはもうないんだ」

 そこで、此方の様子を伺う雪華。パチュリー様はうんざりした表情。俺も似たような顔をしているに違いない。幽々子さんと典雅はほぼ無反応。

「あれ?」

 片眉を跳ね上げて戸惑う雪華。これはこれでレアな表情なのだが、そんなことを楽しんでいる状況ではない。

「ねぇ、なんか反応してくれないと困るんだけど?」

「その話ならもう聞いたわ。魔術師協会は横の連絡ができて無いの?」

 うんざりとした表情のまま、パチュリー様が答える。

「おかしいな・・・・・・伝言役は僕だけって聞いてたけど」

 首をかしげる雪華。ふん、まだ準備段階といったところか。エリニュスがこちらに来たことも伝えられていないらしい。

2人は解ったとしてー、あなた達もなんで無反応?」

 取り敢えず自己解決したのか、首を逆側にかしげると、今度は疑問の矛先を幽々子さんと典雅に向ける。

「あれだけやっておきながら今更無条件なんて無いでしょ〜?」

「幽々子さんと同意見さ。あとせっちゃんが協会の手先だと確定してせつない」

「むー」

 大層不満げだが、そんな表情をされてもこちらも困る。

「解った、知ってるなら良いよ。でも仕事だから最後まで言うけど」

 やれやれと、肩をすくめて立ち上がる。

「条件は宗司を帰らす事。これで僕の話は終わり。お邪魔しました。橙、いこ」

「雪華、ちょっと待って下さい」

 聞く耳持たずに、ぺこりと頭を下げる。どうやら拗ねてしまったようだ。仕事と言ってる割にはその辺いい加減すぎやしないか?

 当の橙さんは、幽々子さんの膝枕ですやすやと寝息を立てていた。

「橙、君が居ないと僕帰れないんだけど・・・・・・?」

 ネコマタは膝にぐりぐりとおでこを押しつけると、大きく欠伸。

「藍しゃま〜。おなかいっぱいですぅ〜。うなうな」

 ため息を吐いて耳飾りを弄くる雪華。

「ほらほら、橙ちゃん。起きて〜? 雪華ちゃんが困ってるわ〜」

 ゆさゆさと、ネコマタの体を揺する亡霊。橙さんは身を起こして大きく伸びをすると、にぱっと笑う。

「幽々子しゃんのひざも、藍しゃまに負けないくらいふかふかでしたっ!」

「うふふ〜。よかったわ〜」

「橙、帰るよー」

「はーい。あなたが、文車しゃん?」

 いきなり話しかけてくるネコマタ。ちょっとびっくりして反応が遅れる。この手の娘にしては珍しく噛まなかったし。

「え、ええ。そうです」

「ねこは、好きですか?」

 なんだ? いきなり。

「好きですけど?」

 それをきいたネコマタは満面の笑みを浮かべると、がばりと抱きついて来た。

「うおう!?」

 思わず受け止める。相手は(見た目)子供なので、別にどうということは無いのだけれど・・・・・・。パチュリー様も多少びっくりした感じだが、黙って見ていた。取り敢えず害は無いとの判断らしい。それに従うことにした。

 胸ぐらに鼻を寄せて、くんかくんか匂いをかぎ始める、なんだか気恥ずかしい。

「いいにおいが、します」

 顔を伏せたままなので、表情は解らない。

「もり、にんげん、けもの、ようせい、しんぴ」

 すいと、俺から離れる。帽子を直して、お辞儀ひとつ。

「幻想郷の、におい。文車しゃんはもうここの人なんですね。紫しゃまに言っておきます」

 そういうと、猫のように外に飛び出して行った。

 なんだ? 良くわからない。やば、いろいろ混乱してきたぞ・・・・・・。

「じゃあ宗司、考えておいて」

 呆然としている俺に、改めて雪華が言う。

「もう断りましたよ」

「そか。まぁいいけど。橙の鼻は良く効くし。そうなんだろうな」

 ますます解らないが、取り敢えず、頷いておいた。

「じゃねー」

 それだけ言って、姿を消した。文字通り。雪華は現れるときも去るときも気配を残さないのでちょっと気持ちが悪い。

「やっと」

 何か、唐突に隙間が出来たような気がして、暫く誰も言葉を発さなかったが。不意に、主が呟いた。

「落ち着いて話が出来る」

 そういやごちゃごちゃして殆ど幽々子さんと話してないな。比較的大人しかったのは、やはり人が多いのが得意なのではないからだろう。

「その前に聞いておかないといけないことが出来た」

 主は幽々子さんを見据えて、言う。

 鋭いまなざしで。まるで睨み付けるかのように。

「宗司を差し出せば安全だという事を知った貴女は、一体どうするのかしら?」

 白玉楼の主は、薄く笑ったままだった。



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