真意
ありえない。
とは、言い切れない。
なぜならここは幻想郷だから。
便利な言葉だ。
それですべてが許されるかのような言葉。
まさか。
そんなことがあって良いわけがない。
少なくとも、少なくとも、俺がそれだけで納得できるわけがない。
「どういう事です?」
努めて冷静に、だが明らかな懐疑の色を乗せて紫とパチェに詰め寄る。パチェは目を伏せ、それを見た紫がこちらを見据えて口を開いた。
「本当はね、予定外だったのよ」
「予定外・・・・・・?」
「貴方がここに来たときは殺すつもりだった」
「!?」
この場にいるパチェ以外が息を呑む。
「どういうことさ?」
返答次第ではただでは置かない、といった感じの典雅。その怒りは紫はもちろん、パチェにも向けられていた。
「あら、パチュリーは関係ないわよ、彼女は途中で気がついてしまっただけ」
「それでも!」
「典雅、最後まで聞きましょう、話はそれからです」
「・・・・・・」
しぶしぶ典雅が引く。俺の対応に満足げにうなずく紫だが、俺だって内心穏やかではない。パチェが気付いて言わなかった、それは俺を騙していた事に繋がる。もちろん俺の為を思ってのことかもしれないし、パチェを疑う訳ではないが話が話だけに気が気ではない。
「殺そうとした理由は、解るわね?」
「僕があの匣を開けてしまわないように」
「そう、一番手っ取り早いのは貴方が居なくなれば良いから。そのため。貴方の母親は私以上の傍観者だからそもそも匣に干渉できないしね」
確かに、お袋だけなら何の問題も無かったわけだ。神というのは万能なようで以外と何も出来ない。日本の國津神は特にそうだ。概念化して居る神というのは自分の役割以外の事は出来ないようになっていることが多い。お袋に匣を開ける術があっても、それを実行することは出来ないのだ。神は望まれていないことは出来ない。
「だけど問題は貴方。人間と神のハーフ。つまりそれは進化出来る神ということに他ならない。そんな危険な存在をほおっておくことがどうかしてる」
協会長も同じ理由で俺を連れてきたに違いない。
「で、話が戻るわけ、最初の予定外は貴方が幻想郷に来たこと。それ自体。貴方が幻想郷にかかわらなければそれで良かったのだけれど、まさか次元の魔法使いと知り合いだなんて思わなくてね」
「それは僕もびっくりですよ、本物の魔法使いがいたなんて思いませんでした」
「でしょうね、知っていれば私も殺そうなんて思わなかった。関わりさえしなければここに影響は無いからね。2つ目、貴方が紅魔館になじんでしまったこと、そして幻想郷に馴染んでしまった事」
3つ目。
「貴方が幻想郷を護ろうとしてしまったこと」
「そんなおこがましい事は考えてませんよ。僕がいたら幻想郷を戦争に巻き込みかねないと思っただけです」
「その思い自体が護ろうとすることと同義じゃないかしら?」
「でも僕はここに居ます」
「貴方の思いが強くなっただけのことでしょう」
貴方も聞かない人ね。とため息ひとつ。
「とにかくそのせいで私はおいそれと貴方に手が出せなくなった、早めに手を打てなかったのは貴方の他にも次々と部外者が現れたからよ」
典雅、死人、リベリオン、ヘルシング郷、俺とほぼ同時に来たのはそのあたり。
「そうこうするうちに貴方はパチュリーと懇意になり、紅魔館での存在が確立された。そんな状態で貴方をさらおうものなら紅魔館を敵に回してしまう。そんな面倒なことはやりたくない。そこで別の方法を考えた、文車宗司を幻想郷から出さなければいい」
成る程。
「幸い現れた連中の殆どは貴方を付け狙うものばかり、適当に泳がせておけば貴方は勝手に紅魔館、いいえ、パチュリーを護ろうとする。貴方が負けないだけのお膳立てはしたし、魔術師協会との話も付けた。あとは・・・・・・」
「副協会長を倒せばすべて丸く収まる、と」
「その通り」
「ちょっと待つさ。何で副協会長倒せば終わるのさ? 教会の目的がそうなんじゃ?」
典雅が口を挟む。もっともな意見だ、が、ここでこの妖怪が種明かしをするならすべて終わった後と言うこと。そうすれば答えも見える。
「違うわ」
ぴしゃっと、扇子を閉じてあごに乗せる。
「確かに教会は魔術師協会の力を欲しがっていた。でもその先はすべてマティエルとかいう男の独断。教会側は特に問題は無いし建前上妖怪の殲滅は間違っていないから、何もしなかっただけよ」
「なんでそんなことが解るのさ」
「見てたからよ、全部ね」
「・・・・・・」
黙り込む典雅。恐らく言いたいことが山ほどあるのだろう。何故何もしなかった、とか。でも紫はあくまで幻想郷の妖怪である。外の世界の惨事にまで手を回すようなことまではしない。それが解っているから、典雅は黙ったのだ。
「ここまでこてんぱんにやられてはマティエルもやる気が出ないでしょう。彼の私兵も再起不能。もっとも、もう幻想郷に来る手段は次元の魔法使いに頼むしか方法がないし、あの人間が手を貸すこともないでしょう」
「それは不確定では?」
「だって私、あの人間と知り合いだもの」
ああ・・・・・・成る程。
「解ってるとは思うけれど、魔術師協会長の呼び出しは建前よ、だからタイミングがずれた」
雪華のことだろう。何しに来たのか良くわからないままだったが、色々と骨を折ってくれたに違いない。
「後始末はこちらでするから。のした連中はふんじばってその辺においといて頂戴。貴方がリベリオンを殺した事は・・・・・・閻魔に任せるわ」
言うべき言葉がない。というか、だ。うん。今はやめよう。
紫は大きく扇子で口元を隠しながら大きくあくび。わざとらしいことこの上ない。
「じゃ、私はそろそろおいとまするから・・・・・・文車宗司」
悪戯っぽい流し目を俺とパチェに向ける。
「はい?」
「うまくやることね」
「余計なお世話ですよ」
ころころと笑いながら、隙間妖怪は空間の裂け目に消えていった。パチェの事を全放置したのはこのためかい。
「えっと・・・・・・宗司」
「ヴァイセン殿、シュヴァルツァー殿、有り難う御座いました。またお呼びした時はよろしくお願いします」
黒白騎士は俺を怪訝な目で見ながらも返してきた。
「あ、ああ。ではまたな。力が必要ならいつでも参じよう」
「おいおい、いいのか?」
「シュヴァルツァー! 余分な事は良い」
「いや、だがな・・・・・・って文車! 勝手に召還するな!」
日記を取り出して詠唱。召還をかける。
「貴様! 次に来た時そちらのお嬢さんがそばにいなかったら私は手を貸さんからな!」
「はいはいさっさ帰ってください」
召還を止めようと手を伸ばした所を白騎士に羽交い締めにされながら消えてゆくご両人。騎士のくせに騒がしい。まじめすぎるのも考え物だな、今度から俺も気を付けよう。
「ねえ、宗司・・・・・・」
「ああ、宗司君、あたし幻想郷に残ることにしたから。向こうに仲間がいないのがわかってるんだからこっちにいればいつか会えるかもしれないし」
がばっと後ろから俺に抱きついてきて、おっぱい、じゃない! 今重要な事さらりと言わなかったか?
「こっちに残るんですか!?」
「そうだよ〜ん? 宗司君嬉しい?」
「いえ別に」
「相変わらず恥ずかしがり屋さんだねえ」
「相変わらず唯我独尊ですね」
「だったらどんなに楽かねえ」
「それは言っちゃダメです」
典雅はぺろっと舌を出すと、俺から離れて歩き出した。
「先に戻ってるよ〜。あたしが心配してもしょうがないだろうけどね」
「貴女も余計なお世話です」
「いひひ」
そういやらしく笑って歩いて行ってしまった。
「宗司・・・・・・?」
「小悪魔さん、帰りましょう」
「え? でもパチュリー様と宗司さんがぷっ?」
美鈴さんに頭を抱え込まれた小悪魔がずるずると引きずられていく。美鈴さんは最後にウィンク一つ残して、少し先で待っていた典雅と共に飛び去っていった。
みんな気を使いすぎである。もっとも、俺が望んでいた事ではあるのだけれど。
「さ、パチェ」
「宗司!」
必死の呼びかけ。
「何でしょう?」
俺はパチェに背を向けたまま答える。ちなみに今までの会話中、パチェには一切目を向けていない。
「その・・・・・・怒ってる、よね?」
「ええ。やっぱり解りますか?」
くるりと振り向く。そこにあったのはパチェの不安そうな顔。彼女の目に映るのは、笑顔で青筋たてている俺の顔。
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