文車 宗司

 俺の顔を見たパチェは、びっくりするでなく、おびえるでもなく、ただ、あきらめの表情を浮かべた。
 いらいらする。
「そうよね、ごめんなさい。宗司にしてみたらこれは裏切り行為だものね。もう私は主失格ね、これからの事は宗司の判断にまかせるわ。許してなんて言えないけれど、ほんとごめんなさい」
「いい加減にしろ!」
 敬語なんてほったらかして叩きつける。びくっと、肩をすくませるパチェに対し俺は構わずに続けた。
「俺が怒ってたのはパチェがやっと事に対してじゃない! その態度にだ! そんな申し訳なさそうになんかするなよ! 俺の為を思って黙ってたんだろ? ならそう言えばいい! なんでそこで自分が悪いみたいな考えがでるかな!」
「だって」
「だってじゃない! パチェとあのときに誓った言葉は何だったんだよ!? そんなことで怒ってるなんて思われたら俺が悲しい」
「う・・・・・・ん。そうね、ごめ」
「だから」
 あやまろうとするのを遮る。
「俺が言いたいのはパチェは俺に対してそんな申し訳なさそうに謝る必要なんか何処にもないって事。もちろん僕はパチェを愛していますけど、パチェも僕を愛してくれているかって事なんです」
 敬語復活。うん、やっぱり無理。もうしみついちゃった。
「重要なのは、パチェがそれを理解しているかって事」
 うつむき加減で俺のの言葉を聞いているパチェを抱きしめ、唇を奪う。いつもパチェに任せていた、だから、今回は俺から動く。
「ん! ん!」
 いきなりのことでびっくりしてるパチェを無視して、唇の感触をひとしきり楽しんだ。
「ぷあっ! い、いきなりなんて酷いじゃない! ・・・・・・初めてなのに・・・・・・」
 ほっぺたを上気させて言っても、ねえ。そんな彼女の瞳を見つめて。
「何度も言いますけど、僕は貴女が気遣ってくれたことがとても嬉しいんです。だけど貴女がそんな様子じゃ、僕も不安になってしまう。女々しい事を言ってますが、男だって不安なものは不安なんです。
僕はそれを見せないのが格好いいなんて思わない。唯我独尊でいられるほど、僕は神経太くありません」
 昔の俺なら、みっともないと思っていたろう。
「パチェ、僕は貴女を愛しています、パチェは、どうですか?」
 パチェはしがみつくように俺の背中に手を回して、言った。
「愛してる。当たり前じゃない、何言ってるの馬鹿。言わないと解らないの? 私は強引なのは嫌い。ちゃんと愛して」
 やっとふっきれてくれたのか、泣き笑いの顔で主。そう、それでいい。俺は決して貴女を裏切らない。だから貴女は、僕に対してもっと傲慢で良い。全部、解ってるから。
「申し訳ありません」
「宗司も私に謝ったりしないの。大好きな人に謝られたくなんか無い」
「はい」
 これで衝突することもあると思う。だけどそうじゃなきゃダメだ。全肯定するのと甘やかすのは全く違うのだから。
「なんだか丸め込まれた気がする」
「いえ、丸め込んだんです」
「この!」
 ちょっとすねた感じの表情を一瞬浮かべて、いきなり接近。
 今度は唇を奪われた。さっきとは違い、長く、確かめ合うような、そんなキス。
「強引なのはきらいなのでは?」
「さっきのお返し」
「成る程」
 2人して笑いが漏れる。ちょっとばかり矛盾した言動は今の俺たちに似ている。主従でありながらの対等な関係。しばし見つめ合って、どちらからとも無くキス。
 さっきよりもさらに長く。長く。一つになってしまいそうな。
「宗司」
「はい」
「一緒に生きましょう」
「ええ、もちろん」

「へえ、ちゃんと終わったのね」
「ええ、貴女の評判を落とさずに済みましたよ」
 博麗神社。今は夜の宴会中である。いつも夜会に来るメンバーがこちらに勢揃いしていた。
 あの後紅魔館に帰ると、館が色々と酷いことになっていた。大広間の扉は粉砕。廊下のあちこちが巨大な槍でも突き刺さったかのようにぼろぼろ。何故かイスクさんが咲夜さんに延々と説教されていた。
それだけではない、図書館も凍り付いていたり焼け焦げている本が大量。図書館の荒れ具合を見たパチェはその場で卒倒してしまった。
 修復に時間が掛かるということなので、後日、博麗神社でお疲れ会をやろうと言うことになった次第である。
 事の顛末を霊夢さんに報告していたところだ。霊夢さんは興味なさげだったが、酒が入っていてもちゃんと聞いてくれている辺り、やはり気になっていたらしい。
「当たり前よ。出来なかったらレミリアをぶっとばす」
「僕じゃ無くて?」
「貴方は一生懸命やったんでしょ? あいつは遊んでただけに違いないもの」
「違いないです」
「宗司〜! 何か言った〜!?」
 顔を真っ赤にしてべろんべろんのお嬢様が俺と霊夢さんの間に割って入ってくる。
「お嬢様・・・・・・飲み過ぎですよ?」
 言うとお嬢様は俺の胸ぐらを掴み上げて酒臭い息を吐きかけながら。
「私が主役譲ってあげてんのになんであんたがのんでないのよ〜」
「いや、僕は酔うわけにはいきませんし」
「いいの! 今夜は私が許す!」
 ばっさばっさと羽をはためかせるからつまみが舞う舞う。
「ちょ! レミリア! やめてよねもったいない!」
「けち巫女は嫌ねぇ」
「あんたね・・・・・・」
 額に青筋をたてた霊夢さんに、俺は嫌な予感を覚えてそさくさとその場を離れる。幸いこちらのことはもうみていないようだ。
 しばらくうろつくことにする。騒がしい宴会。いや、騒がしくない宴会なんて聞いたことないけれど。特に今回は鬼が3人。減る酒の量は生半可なものじゃないだろう。
 そうそう、典雅は地底に行くことにしたらしい。その方が性に合ってると感じたか、もしくは、ああ、うん、うぬぼれかな。
 それと一度だけ雪華が尋ねてきた。八雲紫が協会の連中を回収するついでに来たのだとか。特に何を話すでもなく、さよならのあいさつだけ。雪華は協会長の秘書をやっているらしく、もうこちらにはこれないから、ということだ。
「宗司、あいつが死んだのは、キミの所為じゃないから」
 それだけ言って、雪華は去っていった。協会時代の話で俺が・・・・・・いや、この話は別の機会にしとこう。この物語には何の関係も無い。ただ、その一言でかなり救われた。
 歩き回る。途中何度か声を掛けられたり、酌をしたりされたり。一通り回って思ったのは、おおむねみんな笑顔だということ。そうじゃない人は酒に弱くて沈んでたりとか、そもそも笑顔が出来ないか。
それでも、楽しそうだった。笑う人間と妖怪。ここにいるのは殆どが妖怪だけれど、こんな妖怪達ばかりなら人間もさして怖くはないと思いたい。
 向こうで怖いのは人間同士だったのだから。
 俺は幻想郷に来て正解だったのだろう。向こうにいたら協会の追っ手と戦い続ける事になっていたろうから。安息など求めるべくもない。
 今は・・・・・・。
「宗司」
 後ろから声を掛けられた。振り返ると、そこにいたのは、酒が入ってほんのり顔を赤くしたパチェ。どうやら気付かないうちに宴会からちょっと離れてしまったらしい。
「何を黄昏れているの?」
「いえ」
「ふうん」
 パチェは俺に近づいてくると、手を伸ばしてきた。
 ん?
 ぎゅ。
「いだだだだだだ!」
 ほっぺたを引っ張られた。思いっきり。
「な! 何を!?」
 意味がわからない。パチェは手を離すと、眉根を寄せてぶーたれた。
「うん、ちゃんといるわね。宗司がそのまま消えてしまいそうだったから」
「そんなことありませんよ、誓ったじゃないですか」
「だったら黄昏れたりしないの、まるで全部終わったみたいな顔してた」
 パチェは俺の手を取って、とびっきりの笑顔を見せてくれた。
「ほら、行きましょ?」

                                  第終話 了
                          続き続きの、ひとつの終わり


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