付喪神2
ラーヴァクロムレクの雨が終わると同時、パチェを狙って切り返すように巨大剣風を放ってきたリベリオン。
素早くパチェの正面に移動、錬金術のグリモアを開いて金属で出来た目の細かい網状の壁を作り出す。分断された剣風は無害な空気になり、俺とパチェの横を抜けてゆく。
「うぐ・・・・・・」
腹からの激痛に俺は膝を付く。いい加減血を失いすぎたらしい。
「宗司!」
パチェの短い悲鳴。顔を上げるとリベリオンがこちらに突っ込んで来るのが見えたが、その位置では間に合わないだろう。
白と黒の風がリベリオンの前で交差、
反射的に長剣をかかげたリベリオンに2刃が襲いかかる。激しい金属音と共に神父は再び押し返された。
両騎士は追撃を掛けず、その場で立ち止まる。絶好の追撃チャンスだったはずだが、リベリオンの異様な気に押されたのか、足を止めてしまったらしい。
「何だ・・・・・・貴様らも文車の味方かよ。それならそうと早く言えば良かったのだよ、まとめて潰してやるのに。珍しく考えてしまったじゃないかよ。もっと化け物は化け物らしい格好をしていれば良い」
ぶんと、大きく剣を振り回して楽しげに喋るリベリオン。
「こいつ、正気ではないのか」
白い騎士が警戒しながらつぶやく。
「正気であろうが無かろうが敵に違いはないだろう。相変わらず貴公はまじめだな、何をためらう」
あきれたように黒い騎士が答えた。
「ためらってなどいない。確認しただけだ」
「その割には気が乗らなさそうだが?」
含み笑い。この2人は戦闘中に良く喋る。
「うるさい、来るぞ」
黒白の騎士は左右対称に剣を構えた。左が白、右が黒。リベリオンが正眼に構えたまま動かないのをみて、合図もなしに二人同時に打ちかかった。
さっき騎士道が云々・・・・・・とか言われそうだがそれは騎士と言うモノが形骸化されてからの話である。当時の騎士は所謂国お抱えの戦争屋だ。騎士の奢った暴力を抑制するために生まれたのが騎士道であり、そもそも一対一で戦え等とは何処にも書いていない。
本来の騎士道と言うのは国を守り道徳と信仰を大事にする心の事だ。
剣戟。
左右対称の同時攻撃を、リベリオンは剣一本と体術でいなしている。しかも防戦一辺倒と言うわけではなく、俺では解らない隙を見つけて反撃したりしている。おいおいおい、あの2人の剣は見切れるようなレヴェルじゃないんだが・・・・・・。
クロスするように放たれた突きをさがって躱し、そこから踏み込んで挟み込む外側への斬撃はバスタードソードを地面に突き立て、自身はその剣に逆立ちの要領で飛び上がる。突き立った剣に防がれ、両騎士が剣を引く動作の合間に地面から引っこ抜いたバスターソードで空中からなぎ払う。2人はそれを同じだけ退いて避け、リベリオンの着地地点に向かって再び突きを入れる。それを・・・・・・どういう原理か解らないが魔術も使わず滞空時間を延ばしたリベリオンはなんと交差した剣の上に着地、2人を分断するように剣を振る。両サイドに離れた騎士の間に立って短く詠唱。バスタードソードが分裂し、二振りの長剣に変形、持った2刃を振り回して竜巻のごとく回転する。すさまじい回転によって発生した風圧が黒白の騎士をさらに引き離した。回転を止めたリベリオンは十分に二人が離れたのを確認すると白騎士に向かって飛びかかる。
「おまえからだよっ!」
バスタードソードから双剣に変形した剣は単純に手数が2倍になるだけではない、重さもバスタードソードの半分になるわけで、片手でも振り回すだけの力があるリベリオンに掛かれば3倍近くの手数になり得る。その攻撃速度は俺でも徒手では捌ききれないだろう。だが標的となった白騎士は慌てた様子もなく迎撃、怒濤の猛攻をしのいでゆく。
「貴公の剣は鋭く重いな、だがそれでは巨竜は斃せても私は斃せない」
冷静な白騎士の声がここまで聞こえる。
「化け物がべらべらとうるさいよ」
「私が少しレクチャーしよう。シュヴァルツァー! 手を出すな!」
リベリオンの背後でなにやら準備していた黒騎士に向かい白騎士が怒鳴る。制止された黒騎士はあきれたように肩をすくめると、こちらに向かってゆっくりと歩いてきた。
彼らが戦っている間にパチェに治療して貰っていた俺は、寄ってきた黒騎士に声を掛けた。
「ヴァイセン殿はやっぱりあんな感じですね」
黒騎士は俺の言葉に肩をすくめて見せた。
「あいつの悪い癖さ、すまんな文車。毎回あいつのせいで時間がかかる」
「いや、貴方が居てくれた方がこちらも安心できます」
くくくと、黒騎士は含み笑いをすると、パチェに見られているのに気付いたのか、視線をそちらに向けた。
「私になにか? 美しいお嬢さん」
「白黒・・・・・・」
ぼそりとつぶやくパチェ。
「は?」
「なんでもない。あなたたちは使い魔みたいね。ずいぶんと自由意志があるの」
「契約召喚と違うという意味ではそうですな。違いは気に入らなければ文車を殺すことだってできる」
物騒な物言いにパチェは黒騎士をにらみ上げた。
「むろん冗談です。我々は貴女同様文車を好いているのですよ、ご心配なく」
含み笑いと共にそんなことを言ってのける。
「冗談を言っていていいのかしら? 貴方の連れはかなり苦戦しているようにみえ」
確かにそう見えた。白騎士は防戦一方で全く攻撃していない。だが、よく見ればリベリオンの双剣による攻撃はすべて受け流され、必ず体勢を崩されていた。
「ないわね・・・・・・」
白騎士は相手の体勢を崩すだけでそのあとは何もせず、リベリオンが体勢を整えるまで何もしないで居た。本当にレクチャーしているらしい。
「貴様舐めているのか! さっきからのらくらと!」
「貴公は凄いな、そんなに憤っていても剣筋がぶれない、よくよく鍛錬していたと見える」
死角から来た攻撃をはじき、正面の攻撃を絡め取って、リベリオンの腹部に靴裏で蹴りを入れる。ぶっ飛ばされて咳き込むリベリオン。
白騎士はその様子を見るだけで動かない。
ちなみに今の攻防だが、先に死角からの攻撃をはじいていなければ白騎士の首は飛んでいた。端から見ているからこんな解説が出来るが、もし俺ならば後ろに下がって避ける事しかできず、さらなる追撃を喰らっていたに違いない。それくらいレヴェルの高い攻防だったのだ。この2人を呼び出したのはずいぶん前なので、そのときは凄いとしか思って居なかったが、ここまでとはね。
「畜生!」
吐き捨てるように叫んだリベリオンは、もはや最初の印象は何処にもなかった。あるのは憤りと、悔しさ。狂気も薄れ純粋に勝てないことに怒りを覚える者となっていた。このまま退いてくれれば何の文句も無いのだが・・・・・・。
「貴様さえ! 貴様さえッ!」
敵意をむき出しにしてこちらを睨むリベリオン。
ああ。
ダメだな。
「おまえさええええ!」
再び狂気に染まった瞳。双剣を振り回して、白騎士に大量の剣風を叩きつける。隙間の無いほどの剣風の雨。おそらくは切り札。流石にこの攻撃は予想外だったのか、防御に回る白騎士。
その隙にこちらに向かって走るリベリオン。
「がああああああああああああああああっ!」
狂気と共にその目にあったのは、覚悟の色。
「文車」
短く話しかけてくる黒騎士。
「はい」
「いいな?」
「ええ、僕の意志です」
「承知」
大きく双剣を振りかぶり、俺を屠らんと迫るリベリオン。その前に立ちはだかる黒騎士。両者が風となり、交わり、抜ける。
一瞬の剣戟。
リベリオンの双剣は俺の目の前で交差され、黒騎士はそのやや後方、横に剣をないだ姿勢で止まっている。
「悔しいよなぁ」
リベリオンの顔は、いっそすがすがしいものだった。
「化け物を駆逐できずに、ここで果てるかよ」
黒騎士が鞘に剣を収める。
鍔鳴。
リベリオンの首がゆっくりと胴から離れ、目の前に転がった。
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