真

 風。
 首と離れた体が、思い出したように切断面からばしゃばしゃと大量の血液を噴出。続いて力を失い前のめりに倒れ、飛散した血が俺とパチェを汚した。
 普段なら主に掛かるのを防がなければならないのだが、俺は固まっていた。
「宗司・・・・・・」
 転がっているリベリオンの首を見つめたまま動かない俺に、心配そうにパチェが声を掛けてくる。
 感慨などない、単に襲いかかってきた敵を屠っただけ。なにも不自然な事などではないし、人を殺めたのもこれが初めてではない。なのに、なんでこう、くそっ・・・・・・。
 白騎士がリベリオンの前に立ち、黒騎士もそれにならう。鞘ごと剣を外して目の前に掲げ、黒い神父の冥福を祈り始めた。
 死者には敬意を。にくき怨敵であろうとも死者には敬意を払う。
 俺は座ったまま神聖魔術のグリモアを引き出して目当ての魔術を探す。普段使い慣れないグリモアは酷く重たく感じた。
「浄化を司る炎よ。死者に安らぎを」
 熱の無い青白い炎がリベリオンの首と胴体を包み込み、燃やしてゆく。生の無いものだけを焼き尽くす蒼火。灰になっていく様子を、俺たち四人はじっと見守っていた。そして灰が完全に消える瞬間、白と黒の騎士は鞘を取り払い、頭上に剣を掲げた。魂を天に送り届ける所作。
 パチェは複雑そうな顔をしていたが、こちらの意を汲んでくれたらしく特に文句も言わずつきあってくれた。
 リベリオン。魔術師協会屈指の妖怪退治の専門家。最初にあった頃から嫌な予感はしていたけれど、まさか俺がぶつかる事になるとは思ってもみなかった。
 いや、誰がやろうと同じ事か。この神父は自分の悲願を達成できるなんて、おそらくは思っていなかったのだから。立ち位置を間違えた退魔師の末路がこれとはね。博麗霊夢位の意気込みが丁度いいのかもしれない。もっとも、外の世界ではこんなに安穏とはしていられないだろうが。
 蒼火が役目を終えて消え去る頃、後ろからこちらを呼ぶ声。
「パチュリー様ー!宗司さーん!」
 だーっと、ものすごい勢いで駆けてきたのは美鈴さんだ。そしてこちらの様子を見るやいなやものすごい形相で走る速度を上げた。何事かと思って辺りを見渡すが何もない。パチェは俺の隣にいるし、騎士は抜き身の剣を携えて突っ立っているだけ・・・・・・。
 あ。
「ちょ! 美鈴さ・・・・・・!」
「あぶなぁああああああい!」
 美鈴さんが叫んだ瞬間姿がかすみ、出現したときには近くの黒騎士に跳び蹴りをかましていた。予想外の攻撃に反応も出来ず吹っ飛ぶ黒騎士。
 ほぼ同時にいつの間にか湧いて出た典雅が白騎士に後ろからスウィングDDTをかけるとそのままマウント。首根っこを押さえつけた。
「2人とも無事!?」
 おおう・・・・・・。
 この2人もしかしてこいつらより強いんじゃ・・・・・・?
 などと失礼な事を思っる場合ではない。あまりのことにびっくりして固まっているパチェを認識しつつ叫ぶ。
「その人たちは味方です!」
「・・・・・・へ?」
 先に反応したのは典雅の方。自分が馬乗りになっている相手を見て気付いたらしい。
「白騎士、さん?」
「成熟してもお転婆はなおらなかったか、森崎嬢」
 馬乗りになられたままため息と共にはき出した白騎士に対して、典雅は慌てて身を起こして白騎士の手を引いて立たせる。
「え、えーっと、お久しぶりです」
 何を言って良いのか解らないであたふたしている典雅に白騎士はまたもやため息。
「だからな、森崎嬢、女性にそう軽々と引き起こされてしまっては私の立つ瀬がないのだ」
「んー、あー、ははは・・・・・・」
 続けざまに言われて乾いた笑いしか出ない様だ。いつもの典雅なら言い返す所だが、何故か白騎士が苦手な様で敬語&さん付けである。
「女性が強い時代というのは理解しているが、だからといって肌を密着させるような技をつかうのはいかがなものか。森崎嬢は美人なのだからもうちょっと美しい剣技や槍術などを使うべきだと以前言ったハズなのだがね。私の真摯な提言が受け入れられなかったと思うと悲しくてならない」
 典雅はただただ苦笑いで聞いている。冷や汗をながしている所をみるとそうとう我慢しているのが伺えるが、確かに一理あるので典雅も言い返せないでいるのだ。
「どこぞの閻魔みたいね」
 ぼそっとパチェがつぶやいたのをきっかけに、美鈴さんが動き出した。いまのいままで冷や汗垂らして固まっていたわけだが。
「み、味方ですかっ? だ、だっておふたりが血まみれで跪いていてそこの怪しい鎧が抜き身の剣ぶら下げて立ってたから」
「美鈴」
「はい?」
「貴女慌てすぎ」
「はい・・・・・・」
 ぽりぽりと、決まりが悪そうにほっぺたを掻く美鈴さん。
 のそりとおきた黒騎士がつかつかと美鈴さんに近づいていく。黒騎士のただならぬ雰囲気にだらだらと冷や汗をながしているのが見えた。
「あのぅ、ごめんなさい?」
 言った美鈴さんには答えずになおも近寄る黒騎士。お互いの拳が届く距離まで近寄り、ばっと、両腕を振り上げた。
「ひっ?」
 なにかされると思って身構えた美鈴さんだったが、実際はがっしりと両肩を掴まれただけ。
「貴様やるな! どうだ? 我が独逸騎士団でその才能を生かしてみないか!?」
 妙な勧誘が始まった。
「いや、シュヴァルツァーさん、時代違いますから」
「む・・・・・・そうだったな。しかし凄い、宙を舞ったのなどめったとないのだが」
 言われて美鈴さんは苦笑。素直に喜べないのは恐らく、本気で放った蹴りが相手の鎧すら傷つけていない事に対してだろう。正直俺もあの鎧が何でできているのかさっぱり解らない。
「パチュリー様っ!」
 突然黒い影がパチェにしがみつく。小悪魔だ。胸に顔を埋めてなきじゃくっている。
「小悪魔ごめんね、心配かけて」
「ひっく・・・・・・もうこのおっぱいの感触を味わえないんじゃないかと・・・・・・」
 ぶッ!?
 思わずずっこける俺。周りも似たような反応をしている。そりゃ、ねえ?
「こあ、流石にちょっとどうかと思いますよ?」
「宗司さん! 宗司さんもご無事だったんですね?」
「え、ええ。なんとか」
「よかった・・・・・・もう宗司さんをからかって遊べないんじゃないかと・・・・・・」
「貴女は全部そんな感じですか」
 まったく・・・・・・。
 だけどパチェは小悪魔をいとおしそうになでていた。
「そうね、貴女との約束も守らなきゃいけないし」  
 約束。
 そう、約束だ。契約ではない、俺も詳しくは知らない。パチェと小悪魔にかわされた何か。
「さて」
 パチェが顔を上げて皆を見渡した
「当面の驚異は去ったようだし。我らが紅魔館に帰る・・・・・・のはまだ早いみたい」
 眉をひそめて中空に視線をやるパチェ。その先には、空間の裂け目を椅子として座っている八雲紫の姿があった。
 構えを取る白騎士と黒騎士。俺は手を挙げて2人を止めた。ココまで来て敵対するようなことは恐らくではあるが、無い。
「ごきげんよう、みなさん」
 地に降り立って悠々と会釈をする紫。俺は彼女に向かって皮肉ってやる。
「ちょっと登場が早いんじゃ無いですか? 役者もそろっていないと思いますが?」
「小うるさい吸血鬼がいると邪魔なのよ」
 変に納得してしまった。
「それで、文車宗司。後は私が残っているけれど、どうするの? 私が実は傍観者じゃなくてあの匣をあけるために問答無用で襲いかかるかもしれない」
「開けるつもりが無い人に喧嘩を売る意味がありませんね」
「ホントにそう思ってる?」
「簡単なことです、貴女なら僕の力を使わずとも自分であの匣を開けられる」
 紫は眼を細めて俺を見た。
「憎らしいくらい優秀ね」
「お褒めにあずかり光栄です・・・・・・でも、解らないことがひとつ」
「なにかしら?」
「何故、貴女は僕らに戦わせるような面倒なことをしたんですか?」
「見当くらいは付いているのではなくて?」
「いいえ、全く」
 これは本当だ。さっぱり解らないと言っても良い。
 そんな俺に、紫はため息一つ。
「パチュリー。貴女は?」
「宗司を幻想郷に閉じ込めるため」
 なん!?
「正解」
 紫は、ゆっくりと口元をゆがめた。


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