どらドラ!

「おっと、それは通りませんわ、お嬢様。ロン」

「なんですって!?」

「タンピン三色イーペーコーの2本場。12600です」

「咲夜、接待麻雀て言葉知ってる?」

「生憎、私の辞書にそんな言葉は御座いません」

「ほえー、さすが咲夜さん」

「・・・・・・」

 夕方の紅魔館の一室、謁見の間。図書館の仕事が一段落したので、主に言われて地上の手伝いに来たのだが・・・・・。

「おや、皆さんで麻雀ですか?」

 此方に背を向けていたお嬢様がくるりと振り返る。眉間に皺が寄っていた。かなりご機嫌斜めの様だ。

「宗司! ちょっと聞いてよ! 咲夜が手加減無しなのよ!」

「お嬢様のドラ爆に手加減などしてられませんわ」

 対面に座る咲夜さんが涼しげに答える。因みにお嬢様から見て上家が美鈴さん、下家がイスクさんである。

 つうか何で雀卓があるんだ? しかも全自動雀卓。部屋中央にでんと鎮座ましましている。

「それで? 何か用?」

 ぶつくさ言っているお嬢様を尻目に咲夜さんが此方に声を掛ける。

「いや、パチェの言いつけで此方の手伝いに来たのですが・・・・・・」

「丁度良いわ、美鈴、貴女は持ち場に戻って。宗司、美鈴の代わりに入りなさい」

 お嬢様が即反応、俺に席を勧める。いや待て。

「それじゃ美鈴さんが・・・・・・」

「あ、私は良いんです。弱くて土俵にすら立てませんから」

 そう言って席を立つ。いやいや待て。

「僕は仕事を」

「これも『仕事』のうちよ、いいから入りなさい」

 どうやら拒否権は無いらしい、ため息を吐きながら、雀卓に座る。同時にイスクさんが場の説明をしてくれた。

「半荘30000点持ち、30000点返しの赤入り、ありありだ。現在東2局の2・・・・・・今ので3本場か。咲夜が親、及び47400でトップだ」

「僕は親無しですか・・・・・・」

 自分の点棒を見ると減っていない。おや?

「咲夜が私だけから上がったのよ」

 自分が振り込んだ、と言わないのは流石だ。

「因みに能力を使うのは無し。咲夜が無敵になる」

 時を止められれば牌交換し放題のドラ乗せ放題。しかも全自動雀卓であるにもかかわらず積み込みが可能。まあ、そうだよな。

 美鈴さんが耳打ちしてくる。

「お嬢様はドラが乗りやすい体質です。振り込んだら危ないですから気を付けてください」

 そういうと、失礼します、と部屋を出ていった。どんな体質だよ・・・・・・。

「さーて、これで流れがかわるかなー」

 そんな事を言いながら卓中央に開いた穴に牌を入れていくお嬢様、みんなそれに習う。暫く牌をかき混ぜる音が響き、それが止むと卓中央やや手前から積まれた牌がせり上がってきた。中央にはガラスに包まれたくぼみがあり、小さなさいころが2個入っている。はしっこにあるボタンを咲夜さんが押すと、さいころが跳ねて3を示した。お嬢様の目の前の積み牌から、順番に牌を取ってゆく。麻雀牌なんて触るの何年ぶりだろう?

「宗司は麻雀の経験は?」

「協会時代に少し。といっても、接待程度ですが」

「ふーん・・・・・・そう言えばイスクは? 聞いてなかったけど」

「そこそこ、だな」

 手牌を整理。うえ・・・・・・6シャンテンてなんだよ・・・・・・。カンペンチャンばっかりだし。前に打っていた人の運を多少引き継ぐとはいえ、これは酷い。薄幸にも程がある。

「ああ」

 これはお嬢様。

「因みにラス引いた奴はトップの言うことを何でも聞くっていうルールだから」

「は!?」

「お金かけても私は嬉しくないし、あなた達もそんなにお金ないでしょう?」

「いや、そうですが・・・・・・」

「兎に角ここはこのルールで行かせてもらうからよろしく」

 うわぁ。そうと解っていれば入らなかったのに・・・・・・23位につける事に専念・・・・・・。

「やる気が見えなかったら死刑」

 ・・・・・・。

 5巡目。全く手が入らない。5シャンテン。ツモにも嫌われているらしい。こりゃあこの局は駄目だな。

「リーチ」

 次順、咲夜さんがリーチ。早いなー。イスクさんは現物打。お嬢様は・・・・・・。

「リーチ!」

 追っかけた。

「勝負よ、咲夜」

「めくりあい、上等ですわ」

 くつくつと笑う咲夜さん。流れに乗っている今、咲夜さんのリーチに追っかけるのは危険だ。お嬢様の顔には緊張の色。高めと見た。危険配が解らないので無難に現物を切っておく。つうかべたおり。それから2巡程何事もなく・・・・・・。

「ロン!」

 お嬢様の声。咲夜さんの捨て牌。ぱたん、牌を晒す。

「うお!?」

 俺は思わず声を上げてしまった。赤ドラが3つともある!?

「リーチタンピン三色ドラ3! 裏は・・・・・・」

 裏を手に取って盲牌。にやり、と邪悪な笑みを浮かべると、だん! と卓に叩きつけた。

「裏2! 倍満よ!」

「やりますわね・・・・・・」

 苦い顔の咲夜さん。なんつう引きだ・・・・・・ホントにドラを引き寄せているかのよう。これで点数はほぼ並んだ。つってもなー。次の配牌がどうなるやら。

 東3局。

 7シャンテン。

 ・・・・・・。

「一発美味しいです。ツモ!」

「させるか! ロン!」

「イスク、背中が煤けていてよ? ロン!」

 そこから3局、お嬢様と咲夜さんの2人舞台。最初に咲夜さんが上がって、お嬢様が咲夜さんから大きく直取り。俺の親番にイスクさんが咲夜さんから直撃喰らって、咲夜さんがやや抜きんでる。

 つうか最低ハネ満て何だよ・・・・・・。30000点持ちの意味が解った。25じゃ直ぐに飛んでしまう。お嬢様はリーチのみでもドラがもりもり乗るし(ドラ8て)、咲夜さんは手堅いが確実に高めを狙ってくる。うーん、何も出来ない。イスクさんはラス目だというのに慌てた様子もなく、淡々としている。いや、この人はどんな逆境においてもこんな感じだ。

 南2局。咲夜さんの親。現在3着だが、いつひっくり返るか解らない。イスクさんも不気味だ。ここで上がっておかないと・・・・・・。

 配牌。

 2シャンテン。綺麗な手牌。

 良し! 我慢した甲斐があった。これならハネマンクラスに持って行ける。

 だが・・・・・・。

 13巡目、咲夜さんの手牌から字牌が零れる。テンパイ濃厚。イスクさんが降り。

「リーチ!」

 お嬢様がリーチ。河を見ると、明らかなマンズの染め手。大量の字牌。清一の危険性大。そして、俺のツモ。来た! しかし切るのはマンズ、しかも4萬。お嬢様は勿論、咲夜さんにも危険。だが、ここで勝負せねば恐らく次は無い!

「通らばリーチ!」

 ばつん! と牌を河に並べる。一瞬の沈黙。

「・・・・・・通しよ」

「同じく」

 そしてリーチ後の第一ツモ。盲牌。吟味に吟味を重ね・・・・・・。

「来たぜ・・・・・・ぬるりと・・・・・・! ツモ!」

 がっと、手牌を倒す。

「一発ツモ! 純チャン三色イーペーコードラドラ! 裏無し。 600012000!」

「なっ!? 3倍満!?」

「やるわね・・・・・・」

 咲夜さんが驚愕の表情で俺の上がり手を見る。お嬢様は苦々しい表情。

「そんな・・・・・・私の親番でツモ上がりを許すなんて・・・・・・」

「そう簡単にはやらせませんよ」

 コレで俺が暫定トップ。2位がお嬢様、3位が親被りで咲夜さん、ラスがイスクさんといった感じ。イスクさんは殆ど点棒が残っていない。だが当のイスクさんは相変わらずの無表情。

俺がもしトップを取ったらイスクさんに要求することは当然。満面の笑顔で「きゃいーん! イスクくんまいっちんぐー☆」と言って貰う事だ。

 ・・・・・・我ながら性格が悪い。

「ふぅ、オーラスか・・・・・・」

 そんな俺の野望も知らずに淡々と牌を並べるイスクさん。あれ?

「イスク、今南3局よ?」

「・・・・・・」

 咲夜さんの指摘に無言で答えるイスクさん。・・・・・・?

 配牌。

 ・・・・・・テンパイ。

 うお! さっきの上がりで引き寄せたか!? 地和もあるぞ!? ダブリーでも裏が乗れば数えかねない手だ。

 心拍数があがる。これはひょっとするとひょっとするかもしれない!

 だが、ここまで沈黙を保っていたイスクさんが、ここで動く。

「ポン」

 初牌切り、次いでお嬢様の第一打牌、しかも白を鳴く。

 うわ! 地和消えた!

「なによ、急に動き出して」

 怪訝な顔をして、お嬢様が再び打牌。

「レミリア、それだ」

「へっ?」

 右腕一本なので左端から牌をぱたぱたと倒してゆく。最後に鳴いた白を引き寄せて。

「白のみ。2000点」

「お、脅かさないでよ。びっくりするでしょう?」

 お嬢様は点の安さに安堵の表情を浮かべていたが、俺は戦慄していた。この状況でこんなに早く上がるだって・・・・・・?

「さて・・・・・・」

 片手で器用にマッチを擦ると、いつの間にか咥えていた煙草に火を付ける。灰皿まで用意してあった。ゆっくりと、紫煙をはき出す。

「持ってきたかな・・・・・・」

 ぞわり!

 背筋が凍る。同じ感覚を咲夜さんも感じたようで、目を丸くしてイスクさんをみつめていた。

 一本場。3巡目。

「ツモ。2100オール」

「んなっ!?」

「早い・・・・・・!」

 そこからのイスクさんは凄かった。点数は低いものの、早上がり、しかも面前で全部ツモ。お嬢様は持ち前の運でリーチをかけるも絡め取られ、俺と咲夜さんは鳴きまくってツモ順をずらしたりするものの、そんなことは関係ないとばかりにツモ上がる。

 気付けば2位。俺にせまって来た。

 イスクさんの『オーラスか・・・・・・』はこのことだったのか!?

「さあ、宗司。後はお前だ」

 射抜かれる。以前に手合わせしたときも感じた、猛禽類の殺気。

「くぅ・・・・・・」

 簡単にいくか、こっちだって手は入って居るんだ。お嬢様も、額に汗を浮かべながらも微苦笑、いい手が入ったらしい。対照的に咲夜さんはため息。

「おや・・・・・・?」

 イスクさんが疑問符。牌を整理すると、そのまま左から牌を倒し始めた。

 おいおいまさか!?

「上がってる、な。天和。そして小四喜、四暗刻。トリプルだ」

 ずどーん!

 イスクさん以外が白抜きになる。

 ありえねぇ・・・・・・マジありえねぇ・・・・・・。

「さて、ラスはレミリアだな」

 3着だったのだが、最初の2000点とリーチの連打が痛かった。結果ラス。

「ぐ、なによ! なんでもきいてあげるわ! 言ってみなさい!」

 ムキになったお嬢様が声を荒げる。イスクさんは気にした風でもなく。

「結婚しよう」

 さらりと。

 ・・・・・・・・・・・・なに?

「え?」

「だから結婚しよう、レミリア。タイミング的にも丁度良いと思うが」

「ちょちょちょちょっと待って! 何よいきなり!?」

 顔を2つ名通り紅く染めて、あわてふためくお嬢様。俺と咲夜さんは展開の速さについて行けず、ただただ呆然と2人を見ていた。

「嫌か?」

「いや、じゃ、ない、けど・・・・・・」

 本音を言いそうになったお嬢様は、俺たちが口を開けて見ているのに気付くと、

「ばっ、嫌よ! 私がアドバンテージ取られるなんて冗談じゃないわ! それは私が勝ったときに言う台詞よ!」

 余計に恥ずかしい事を言うお嬢様。気付いたのか、首まで紅くなって叫ぶ。

「ちょっとイスク! 私の部屋まで来なさい!」 

「何だ? 代わりに何かくれるのか?」

「うるさい! 良いから来なさい! 咲夜! 宗司! 今日はもう終わり! 誰も私の部屋に入れちゃだめよ!」

 一方的にそう言うと、イスクさんの襟首を掴んで出て行くお嬢様。ひきずられているイスクさんは相変わらずの無表情だった。

 ・・・・・・。

 やはり呆然と、2人の出ていった扉を見つめる。先に口を開いたのは、咲夜さんだった。

「・・・・・・凄い自信と度胸」

「ですね・・・・・・」

「締まらないけど格好良かった」

「・・・・・・ですね、お嬢様もまんざらでない感じでしたし」

「・・・・・・チッ!」

 咲夜さんは鋭く舌打ちをすると、部屋から出ていった。取り残される俺。

 何となく握った牌は、赤ドラと西。

 おー・・・・・・。こんな感じの2人だ。


目次へ戻る

トップへ