パチュリー・ノーレッジ改造計画
「宗司さん」
突然、小悪魔が話しかけてきた。
「なんでしょう?」
聞くと、小悪魔は深刻な表情で此方を見て、そして、言った。
「パチュリー様を改造しましょう」
「・・・・・・」
耳から脳に言葉が到達するまで1秒。言葉の意味を脳が理解するまで2秒。そこから脳が適切な反応を探し出すためにさらに3秒。合計6秒使って出てきた言葉は、なんとも陳腐なものだった。
「はいぃ!?」
紅魔館地下大図書館。冬の寒さが過ぎて、やや温かくなってきたが、やはりまだ冷える。
小悪魔が妙な事を言い出したのは、昼休みが終わって書棚の再整理をしていたときの事である。因みにパチェは私用で出かけている。
「なにをおっしゃっていやがるんでごじゃりますか? 小悪魔様は?」
そうし は こんらん している !
そんな俺の様子には委細構わず、神妙な顔を崩さぬまま語り始めた。
「最近のパチュリー様は駄目です」
自分の主に駄目出し!? しかもストレートすぎる!
「なにが駄目って最近日陰少女が板に付きすぎな所です」
「それは今に始まった事ではないですし、なによりそれでこそのパチェなのでは?」
「それです!」
びしいっ! っと俺を指さして。
「宗司さんはパチュリー様を甘やかしすぎなんです! そう! まるでホットケーキにイチゴ、メロン、リンゴ、オレンジ等各種シロップ! 並びに蜂蜜、プロポリス、ローヤルゼリーをぶちまけたか如きの甘さッ!」
「最後の2つは甘く無いと思うのですが」
「食べたいですッ!」
「食べたいのかよ」
「でも太るのは嫌です」
「我が儘すぎる!?」
俺の突っ込みをことごとく無視して更に熱弁を振るう。
「とにかくその宗司さんの甘くて発酵してネドヴェドになりそうな優しさがぁ、まるで悪魔が人間を堕落させるようにパチュリー様を貶めていることに何故気付かないのですかッ!」
つかみかからんばかりの勢いで俺に詰め寄る小悪魔。酷い言われ様だ。自分が悪魔なの棚に上げてるし。だいたいネドヴェドってなんだよ。微妙に響きがいやらしいのだが。
「で、でもですね」
「デモもストもありません! 否が応でも! パチュリー様を改造するったらするんです!」
「ぐ、具体的には?」
余りの勢いに押されて、つい肯定するような事を言ってしまった。
「そうですね」
顎に手を当てて考える小悪魔。
どうせろくでもない回答が待っているに違いない。
「宗司さんは何属性がお好みですか?」
全然関係ない事を振ってきた。なんだ?
「属性? 僕は木行ですから、風とか雷とかが好きですが?」
「その属性じゃなくてですね・・・・・・」
はぁ、とため息を吐かれる。空気が読めてないなー。みたいな。
いや、属性って言われたらそうでしょうに。元いた世界でそんな事聞かれたらヲタク扱い・・・・・・そっちか!?
「理解しました、けど何属性と言われても」
「ふーむ」
俺の顔をまじまじと見ながら、耳元の羽をゆるりと動かして小悪魔が唸る。
「今のパチュリー様が眼鏡と、ろりぱい属性だから、それ以外だと」
ろりぱい!? なんだその新単語!?
「こあ、その、ろりぱい・・・・・・ってなんです?」
凄まじく卑猥な感じがする。
「童顔巨乳の事です」
さらり。
・・・・・・。
聞かなかった事にしよう。言葉としては実に正確で的を射ているが、卑猥すぎて常用は決して出来ない。しかし、ろりぱい・・・・・・脳内保存しとこ。
「そうですねぇ・・・・・・なら」
俺を下から探るように見て。
「お兄ちゃん?」
ぴくっ。
「ん? どうしたの? お兄ちゃん?」
俺の僅かな表情の変化を見逃さず、たたみ掛けてきた。口を三日月に歪めた表情はまさに小悪魔のそれ。
俺が目を逸らして黙っていると、此方の腕を取ってぶんぶん振る。
「ねーえぇ、お兄ちゃんてばぁ!」
いや、待ってくれ。頼む。
「あれ? お兄ちゃん耳が赤いよ? どーしたのー?」
ぐぎぎ・・・・・・。
「お〜に〜い〜ちゃあ〜ん♪」
腕にしがみつき、トドメのように猫なで声。
「ギブギブ! ギブですこあ! 勘弁してください!」
小悪魔の腕を振り払って土下座。マジで勘弁!
「ふむ、このまま宗司さんを籠絡しても良かったのですが、趣旨が変わってしまうので止めておきましょう」
「ふぅ、助かった・・・・・・?」
いや!? 今なんかなにげに怖いこと言われた気がするぞ!?
「宗司さんが妹萌えなのは解りました。でも流石にパチュリー様の精神的な属性まで改造するのは無理が有りますから、外見からにしましょう」
じゃあ今のやりとりはいったい? 俺の疑問を読み取ったのか、にっこりと笑って見せる小悪魔。
・・・・・・わざとか。
「服装から行きましょう。猫耳メイド・・・・・・はもうやらせましたし」
「やっぱりあの時の発案者はこあですか」
「はて? なんのことやら?」
とぼけてみせるが、冷や汗が流れ落ちたのを俺は見逃さなかった。
「えとえと、他にはスッチー、ナース、スク水、セーラー、パジャマ、アイドル風・・・・・・」
なんだその実に風俗なラインナップは。つうかなぜそんなスラスラ出てくる!?
「どれもピンと来ませんねー」
こないのかよ。俺は妄想で脳汁だだもれなんだが。もちろん表面には出さない。
「宗司さん興奮しない。私がその内やったげますから」
ばれてる!? ってやるの!? やってくれちゃうの!?
「冗談ですよ?」
「・・・・・・」
好きにしてくれ・・・・・・。
「・・・・・・チャイナ」
ぼそりと、小悪魔が呟く。
「なんですか・・・・・・?」
「チャイナですよ!」
がっし! と俺の両腕を掴んで叫ぶ。
「露出が多く健康的かつ大人の魅力満載のあのチャイナドレスですよ!」
おそらくは、これは呪いの言葉だったのだ。
「なん、だと・・・・・・? パチェにチャイナドレスだとぉ!?」
俺はすっかり、絡め取られてしまっていた。
「なるほど! そしてあのボディラインがはっきりと出る服はパチェのろりぱいと素晴らしくマッチするのですね!?」
思いだすほどに恥ずかしい。俺は一体なにを考えていたのか?
「そうです! ろりぱいです! 宗司さんやっとその気になってくれたんですね!」
「ええ! 素晴らしい考えです! こあ!」
「そうと決まれば善は急げ! さっそくチャイナドレスを調達しますよ〜」
「おー!」
このときほど、過去の自分を殺したいと思った事は無い。
「ただいまー」
パチュリー・ノーレッジは酷く重たそうに図書館の扉を開けた。魔法の森にある霧雨魔法店まで行って来たのだ。魔理沙が言うには普段図書館の本を盗んでいく(本人は借りていくと言っている)お詫びに蔵書を見せてくれると言い出したのだ。
わざわざ宗司を連れて行く必要も無いので1人で行ってきたのだが・・・・・・。
「空振りもいいところね」
ろくな本が無かった。殆どが持っているか、図書館から持って行かれた本である。魔理沙が直に書いた手記の方がよっぽど面白そうだったが、流石にそれは見せてくれなかった。
完全な骨折り損である。
「宗司ー」
兎に角疲れた。宗司の顔でも見なければやっていられないと、パチュリーは宗司を呼ぶ。
「・・・・・・?」
いつもならば、呼ばずとも宗司か小悪魔がやってくるのだが、図書館は静まりかえったままだ。にわかに不安を覚えるパチュリー。と、その時。
「パチュリー様! お覚悟!」
鋭い声と共に、書棚の影に隠れていた小悪魔がパチュリーに襲いかかる! 抵抗できずに押し倒される魔女。
「きゃっ! ちょ! 小悪魔! 何を!?」
「うふふ〜。パチュリーさま〜。大人しくしていて下さいね〜」
気持ちの悪い笑みを浮かべながら小悪魔が、狼狽するパチュリーの服に手をかける。
「馬鹿! なにをするの!? やめなさい!」
「これもパチュリー様のためです!」
「なに訳のわからないことを言っているの!? ちょっ・・・・・・宗司助けて!」
「呼んでも助けはきませんよ〜♪」
端から見たらレイプ現場である。
当の宗司は、現場からほど近い書棚の影で涙を流していた。
「ごめんなさい、パチェ。僕は! 僕はっ!」
完全に目が逝っていた。
小悪魔の「良いですよ〜」の声に、俺は亜音速ですっ飛んでいった。
「うおお・・・・・・!」
感動した。多分、人生で一番。
パチェが装着していたのは、赤いショートのチャイナドレス。普段は目にする事のない細い二の腕。下半身は象牙色のゆったりとしたズボン。足下は赤いサンダル。紫色の髪の毛を2つお団子にして、桃色のリボンで止めている。左のお団子には三日月の飾り。
ぴっちりしたサイズなので胸が強調され、小さな体にはアンバランスな感じだ。
だがそれが良い。
生足では無くズボンだが、それはそれでやはり少し幼く見えてアンバランスさが良い味を出している。
実にいやらしい、もとい、健康的で。その姿からは日陰少女などという単語はかけらも出てこない。
最高。最高だ! パチュリー・ノーレッジ改造計画完遂の瞬間である。
小悪魔は大仕事をやりとげ、大満足の顔。そんな小悪魔と手を取り合って俺たちは喜んだ。
ただ、パチェの表情がものすごく不機嫌そうなのが気にくわない。
「パチェ、どうしたんですか? そんな素晴らしいお召し物を着てなにがご不満なのです」
「そうですよー。私の苦労をねぎらってくださよぅ。笑って笑って〜♪」
俺達の言葉にギラリと此方を睨み付けるパチェ。あれ? 今パチェに似つかわしくない効果音がしたけれど? きっと気のせいだ。殺気も気のせい・・・・・・だ?
「そうし、こあくま」
地獄の釜の蓋が開いて、亡者が呻いたとしても、こんな声は出すまい。
「こんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
賢者の石。
「ばかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
意識が、切断された。
後日。宗司と小悪魔は一週間、フランドールの遊び相手をさせられたそうな・・・・・・。
了