「大丈夫、熱も収まって来たし、暫く安静にしていれば治るわ」

 ほうっと、胸をなで下ろす。あのあと直ぐにやってきた永琳さんによって、治療が施された。先ほどの言葉は、部屋から出てきた永琳さんの言葉だ。お嬢様以下、妖精達を除いた紅魔館のメンバーが勢揃いしていた。

「でもおかしいわね、あの薬を飲んだのならこんな事は無いはずなんだけど・・・・・・」

 そう言って、首を捻る永琳さん。

「でも、事実。パチュリー様は風邪を再発しました」

 知らず、言葉に刺がまじってしまう。だが、直ぐに気付いて謝罪。再発した責は、俺にもある。

「すみません、僕が言えた立場じゃないですね」

「いいのよ。私も医者として、軽々しく保証すべきではなかった」

 苦笑いを浮かべる。この人も医師としてのプライドがる。

「あの薬の見直しをするわ。このままじゃ私も納得がいかない。今回はアフターケアまで無料でやらせていただくわ」

「当然だな」

 あのイスクさんも、少々腹に据えかねているようだ。普段ここで発言をしたりする人ではない。

「ええ、そうね・・・・・・取り敢えず今日は安静にさせておいて。また来るから」

 そう言って帰ろうとした永琳さんに、お嬢様から声が掛かる。

「おいヤブ医者」

 いや、流石に酷いと思いますよ? 案の定、永琳さんは苦虫を噛みつぶした様な顔で振り向いた。

「返す言葉も無いですが、何でしょう?」

「徹底的に原因を究明なさい。幻想郷の誰もが信用ならない奴らばかりだけど、貴女の医者としての腕だけは信用してあげてるんだから」

 そっぽをむいて、そんな言葉をかける。

「いいこと?」

「言われずとも」

「そう? なら下がっていいわ」

 永琳さんは一礼すると、今度こそ紅魔館を後にした。なんだか。いや、言葉にすると安くなりそうだ。取り敢えず、お嬢様は凄いと。

「さてと」

 お嬢様は一同をぐるりと見渡して。

「後始末をしましょうか。イスクと美鈴、小悪魔は会場の片付け。フラン、貴女も」

 言われた妹様はびっくりて自分を指さし。

「私も?」

「そうよ」

「えー、めんどくさい」

「たまにはやりなさい。元気だけは有り余ってるんだから」

「でもー」

「フラン」

「・・・・・・はーい」

 渋々、了承する妹様。なんで私が、とか言っているが、特にこれ以上逆らう様子はない。

「咲夜、私と一緒にプリズムリバーにあいさつに行きましょう」

「はい。お茶もお出ししますか?」

「上等な茶葉でね」

「お嬢様が・・・・・・あいさつ?」

 我が耳を疑う。つまりお礼を言いに行くと言うことだ。唯我独尊のお嬢様が、他人に、頭を、下げる?

「なんだかものすごく失礼な事を考えてるわね。どうなのよ」

「すみません」

 素直に謝ると、お嬢様はつまらなそうな顔。

「開き直ってきたのか最近からかいがいが無いわ・・・・・・。まぁとにかく。紅魔館の主としてあいさつくらいしておかないと失礼でしょう。使える相手に気を遣って損はないもの」

 ああ、そう言うことか。納得。と、あれ? 前にもこんな事あったような?

「レミリア、宗司はどうするんだ?」

 イスクさんが俺の疑問を代弁する。完全にデジャヴ。

「宗司はパチェの看病をなさい。責任を感じてるみたいだから、望み通り罰よ。打ち上げにも出ちゃ駄目」

 なんとも、お嬢様らしい言い方だが、気を遣ってくれたらしい。深く、頭を下げる。

「有り難う御座います」

 お嬢様は呆れた顔を作って。

「感謝されてもねえ、罰だから」

 直ぐに、にやっと笑うと。

「上手くやりなさい」

 そう言って、図書館から出て行く。

「あんまり無茶させたら駄目よ?」

 コレは咲夜さん。イスクさんは俺を見ると、黙って頷いた。ちょ! みなさん? 俺が病人に手を出すとでも?

「今日来た方達みたいに『パチェは俺の嫁』位言ってもいいかもしれませんよ?」

「美鈴さん!」

 珍しく美鈴さんにからかわれる。彼女は逃げるように図書館から出て行った。

「宗司さん」

 小悪魔だ。真剣な表情をしている。

「なんでしょう?」

「あれ、やるんですか?」

「何をです?」

 どうやら下ネタではないようだが・・・・・・。

「風邪は移せば治るとかいって、キスをするというあの伝説の必殺技です!」

「言いませんしやりません! だいたい僕が風邪を引いたら本末転倒でしょう?」

「えー」

 何故かとても不満そうな小悪魔。伝説の必殺技て。あ、もしや。

「さぼって覗いてたらお嬢様に言いつけますよ?」

「ぴきー!」

 奇声を上げると、あわてて皆のあとを追う小悪魔。なんだかな。

 念のため足音が聞こえなくなるまで待ってから、パチュリー様の部屋の扉をノック。返事は無い、どうやら、眠っているようだ。起こさないように、そっとドアを開ける。

「失礼します」

 小さな声で、入る。パチュリー様は、仰向けに寝ていた。確かに熱も下がっているらしく、寝息は安らかだ。イスを枕元に引き寄せて座る。

 何となく、パチュリー様の髪の毛に触れる。さらさらの、心地よい手触り。そのまま頭を撫でる。心の中で謝りながら。なんか、俺謝ってばかりな気がするけれど。

「ん・・・・・・」

 うっすらと、まぶたを上げるパチュリー様。俺は慌てて手を引っ込める。

「あ・・・・・・宗司」

「ご免なさい、起こしちゃいましたね」

 パチュリー様はぼうっとした目で此方を見ていたが、急に目を見開くと、頭から布団を被ってしまった。そしてそろそろと、目の所まで布団を下げて、此方を見た。なんだかミノムシみたい。

「ご免なさい、宗司」

「はい?」

「凄く、迷惑掛けちゃって」

「いえ? パチェの意外な一面が見れて、面白かったですよ」

「むきゅ〜」

 ぎゅっと、布団を持つ手に力が入る。

「恥ずかしいんだけど・・・・・・」

「何を今更、って薬のせいでしたね。こちらこそ、申し訳ありません」

 永琳さんが中和剤でも処方したのだろう。

「いいの、宗司のせいじゃないもの。誰にも非はない。でも・・・・・・」

 目をそらして、気まずそうな感じ。

「今日のこと、全部覚えてるのよ。しかも言わされたんじゃなくて全部自分の意志で言ったことだから余計恥ずかしくて」

「でも、楽しかったんでしょう?」

「・・・・・・うん」

 するすると、首元まで布団を下げる。

「あんな風にできたらなって、心のどこかでは思ってた。流石に最初の我が儘はテンションに引っ張られたけど・・・・・・」

「あれは、すいません、正直引きました」

「うう」

「でも、そんなパチェも悪くないかなと。案外可愛かったですし」

 がばっと、また布団を被ってしまう。

「止めてー。あんなのは私じゃない」

 否定の言葉にも力は無い。もぞもぞと、首だけ動かして布団から顔を出すと、ちょっとはにかんだ顔で、

「でも、歌っている時は本当に楽しかった。また歌ってみたいかな」

「なら体を鍛えないと」

「前途多難ね・・・・・・」

 自分でいってちゃ世話無いが。

「宗司、さっきも言いかけたことなんだけど。その時は、一緒に歌ってもらえる?」

「僕が? 滅相もない」

 つうか怖い。ファンにぼこられそうで。でも、そうだな。

「やっては、みたいです」

「ふふ、じゃあ決まり」

 微笑むパチュリー様。布団の中から手を伸ばして、俺の手を捕まえると、引き寄せて自分の顔に当てる。残っている熱のせいで、ちょっと熱い。

「このまま、寝かせてね」

「仰せのままに」

 此方としても願ったりだ。むう、くすぐったりしてみたい。やめておけ。

「宗司の手、ひんやりしてて気持ちいい・・・・・・」

 呟くと、たいして間もおかずに寝息を立て始めた。さて、タオルでも用意・・・・・・おや?

 捕まれた手ががっちりとホールドされていて抜けない。無理矢理抜いたら起こしてしまいそうだし。えーと・・・・・・え? 起きるまでこのままですか?

「なにげに拷問じゃないか?」

 声に出してみると、余計にそんな気がしてきた。手首の辺りをホールドされているため、あまり体も動かせない。実は姿勢的にちょっと辛い感じだ。そして目の前にパチュリー様の安らかな寝顔。

 我慢する要素が多すぎる!

 結局、片付けと打ち上げを終えた小悪魔が帰って来たときには、俺は石像みたいに固まっていた。
                  
                                                     了



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