小悪魔

 覚醒。体のチェック、腹部の傷、手当済み。出血無し。全身の打撲、問題なし。
助かった、みたいだ。
「あ、お目覚めですね〜」
 最初に目覚めたときとは別の声が耳に入ってきた。この声は確か・・・・・・。
「ミニデーモンさんでしたっけ?」
「何となく違いますよぅ」
 声のした方に目をやる。寝かされているのも先程目覚めたときと同じ場所のようだ。
思った通り、其処にいたのは小悪魔さん。先程ノーレッジさんが本を読んでいた椅子に座ってなにやら作業をしている。先程と違って黒縁の眼鏡スタイルだ。苦笑しながらこちらを眺めている。
「今日はもう遅いのでパチュリー様は先にお休みになりました、お仕事は明日からだそうですよー」
 にこやかに喋る小悪魔さん。俺は半身を起こして問いかける。
「そう、ですか・・・・・・そんなに僕長く寝てました?」
 俺の質問に小悪魔さんは顎に人差し指を当て、上を向いて思案顔。
「うーん、6時間位ですかね、さっきまでパチュリー様いらっしゃったんですけど、流石にもう眠くなったとか」
 あー・・・・・・時間的には真夜中なのか、そんなに寝てたのか。つうか良く死ななかったなと思っているのが本音だ。
肉体的にぼろぼろで吸血鬼の魔眼にあてられ精神的にも激しく消耗したのだ。奇跡とまではいかないが、何日か寝込んでもおかしくはなかったかもしれない。
 こんなに早く目が覚めたのはノーレッジさんの適切な処置と小悪魔さんの看病のおかげだろう。
「有り難う御座います」
 言って頭を下げる。小悪魔さんはぶんぶかと顔の前で手を振って慌てながら。
「そんな、確かにパチュリー様は色々なさってましたけど、私なんて殆ど看てただけですよぅ」
 いや、6時間もいてくれたのなら本当にありがたい。こんなに気遣いをされたのはホント久しぶりのことである。何時覚めるともしれない新参者に良くここまでしてくれたものだ。
「だって・・・・・・」
 思ったことを言うと、小悪魔さんはちょっと顔を赤らめながら。
「一緒に働ける人が出来たと思うと嬉しくって。それに目が覚めたとき急に一人だったら寂しいじゃないですか」
 ・・・・・・うおー、なんかこっちまで恥ずかしくなってきたぞ。
「有り難う御座います。ご、ご期待に応えられるようがんばります」
 どもってしまう。なーんかかっこわるいな。
 俺の言葉に、小悪魔さんはほわっとした笑顔を見せてくれた。
「はいっ! 私も一生懸命やりますから、一緒にがんばりましょー」
 ふと、自分が自然体なのに気付く。殆ど初対面の人間、いや、悪魔か。どちらにせよこんなにリラックスして話せたことなんか無いんだけど。
どうやらこの娘の毒気のなさにあてられているらしい。いくら一緒に働けるのが嬉しいとはいえ、好感度がいささか高すぎるような気もするが。おそらくこの娘なりの処世術なのだろう。
「あの、宗司さん」
 打って変わって、真剣な表情。
「はい、なんでしょう?」
「パチュリー様から聞いておくように言われたことがあって、そのー」
 歯切れが悪い。なにやら言いづらい事のようだ。先を促すのも悪いので黙って待つ。
「宗司さんは、人間じゃ無いんですか?」
 おおっと。いきなりズバリである。
「レミリアお嬢様の魔眼を跳ね返せる人間なんてそうはいません。むしろ不可能です」
 流石に感づかれるか・・・・・・。小悪魔さんは硬い表情のまま続ける。
「宗司さんは私たち人間で無いモノを知りすぎてるし、ちゃんと解ってますよね? そんな外から来た人、見たことありません」
 一呼吸。
「私は宗司さんが何者だろうと構いません。でも、パチュリー様はその辺しっかりしていないと不安みたいで・・・・・・」
 ふうむ、どう説明したモノか。小悪魔さんは何者だろうと良いなんて言ってくれたが、主であるノーレッジさんにそんなことを言われた以上、ちょっと不安になってる部分もあるのだろう。
小悪魔さんは困った様子。俺が黙っているのも手伝って、だんだんとちっさくなっている感じがする。あああ、そんな目で俺を見ないで・・・・・・。
「あー、えっと、とりあえず、その」
 俺がどもっていると小悪魔さんは何かを察したのか、慌てて。
「えっと、あの、そのそのそのその!」
「おまえもかいっ!?」
 思わず突っ込んでしまう。しまった! 流石に怒られるか? とも思ったが。
「ごめんなさいぃ」
 しゅーんと、いやホントに。擬音聞こえた。
「いや、こちらこそ先輩に対してごめんなさい」
 二人してお互いに頭を下げる。何だこの画。とりあえず説明しよう。このままだと朝にはノーレッジさんの不審を買いかねない。
「んん・・・・・・。お察しの通り僕は人間じゃありません。文車妖妃って言う付喪神と人間のハーフです」
「ふぐるまようひ?」
 ほっぺに人差し指をあてて、上を見ながらはてなマークを浮かべる小悪魔さん。いちいちデフォルトな反応をしてくれるのがちょっと嬉しい。
「手紙の執念や怨念、あるいは想いや願いが寄り集まって生まれた妖怪です。それと人間の間に生まれました。能力は・・・・・・これは見せた方が早いかな。小悪魔さん、欲しい本とかあります?」
「本、ですか?」
 オウム返しに聞き返してきた。
「ええ」
「なんでも?」
「ええ、本なら何でも」
「じゃあ〜」
 小悪魔さんはたっぷり3分悩んで。
「『君は他人に鼻毛が出てますよといえるか』で」
「・・・・・・随分素敵な本を知っていらっしゃいますね」
 俺は読んだことは無いが、確かタイトルみたいな事を実戦してみるってゆうルポ本だった気がする。
 俺は寝かされていたベッドの毛布に手を突っ込む、掴んで、それを引っ張り出す。
 小悪魔さんは目を丸くしてびっくりしていた。
 毛布から出した俺の手にあるのは、さっき小悪魔さんが口にした「君は他人に鼻毛が出てますよといえるか」。
 もちろん、毛布のなかに有った物ではない。つうかこんなレアな本持ち歩いている訳がない。
「これが僕の能力。書物や文章をコピーして引き出す能力です。あんまり曖昧なのはダメですけど・・・・・・」
 言いながら本を小悪魔さんに手渡す。
「はへー」
 しきりに感嘆の声を上げながら本を見る。
 この能力、禁書や人の日記まで引き出せるため、実はかなり危ない能力だ。人一人を社会的に抹殺できる。俺の名誉のために言うが、経営していた古本屋にあった本は、すべてオリジナルだ。
社会のルールは破っちゃいけません。とはいっても、この宣言には意味がない。俺が引き出した本は確かにコピーだが、本物と何の違いも無ければ、それは既に本物であるからだ。
パソコンの中の文章は無理だが、一度プリントアウトされてしまえばそれは引き出しの対象となる。
「宗司さん凄いですっ!」
 ぱむ、と本を閉じ、きらきらした瞳でこちらを見る小悪魔さん。
「本を呼び出せる妖怪さんだったんですね!」
「何の間違いもありませんがそうまとめられると異様にショボイですね・・・・・・」
 確かにそんな大層な能力じゃないけどさ。
「でもでも、この事を知ったらパチュリー様とってもお喜びになると思いますっ!」
「そう、ですか?」
 もしそうなら嬉しい。2度も命を救ってもらい、さらには恩返しをする機会をくれた人だ。ちょっとでも喜んで貰えるなら嬉しい。
「そうですよぅ! これなら間違いなく一緒に働けます!」
 ぎゅっと、俺の手を握ってうれしがる小悪魔さん。ちょ、ちょっと。
「うふふ〜同僚が出来ちゃいました〜」
 ぶんぶんと手を振ってうれしさをアピール。そこまで喜ばれると悪い気はしない。初めてあったのに、この悪魔娘とはうまくやっていけそうな気すらしてきた。
「ふぅ、流石に私も疲れちゃいました。もう休むことにしますお部屋に案内しますね、隣が私の部屋ですから、何か聞きたいことがあったらいつでも尋ねてくださいね〜」
「ええ、そうさせて貰います」
「あ、もちろんそれ以外の時でもオッケーですよ。・・・・・・独り寝が寂しいときとか?」
 ぶっ!?
「冗談ですよ〜♪」
 あははと、笑いながら歩いて行く小悪魔さん。やれやれ、暫くは遊ばれそうだな。


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